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「……そのオルゴール、変な音ね。」
「は?」
例のオルゴールを鳴らしていると、突然ナリアが起き上がった。
オルゴールをまじまじと眺めている。
音楽の知識がない俺にはわからないのだが、彼女が言うには、変な音らしい。
「…ほら、そこ…音がズレてる…? そこも…変におかしいのよ」
「はぁ…」
「そう…例えるなら…とにかくおかしいの。」
「……??」
「聞き覚えあるの…その曲」
そう呟いた彼女は、少し考え込んだ後、“姉が作ってくれた”という曲を口ずさみ出した。
するとどうだろう、ナリアが指摘した箇所の音と、ピッタリ重なったのだ。
「……」
「私のこの曲と、貴方のソレ…二つで一つの曲だったのよ!」
「はぁ…?どっかの民謡じゃないのかよ」
「わからない、でも…何か関係があるのよ!私の姉と貴方は……」
「はぁ…」
でも一体どんな繋がりがあるというのか。
「…貴方…私の姉と会ったことあるんじゃないの?」
「さぁ…?」
「嘘よ。何か知ってる」
「…どうしてそんなこと言える」
「…教えない。でもわかるわ。」
「……」
頭の中でぼんやりと浮かぶ昔の記憶。
そうだ。俺は“彼女”を知っている。
彼女のことを誰よりも______
「これ、私の姉の物よ」
そう言ってナリアが差し出したのは、俺の持っている物によく似たオルゴールだった。
「これ…」
「そう、貴方のとお揃い。」
「……」
ないはずの胃液が迫り上がってくるような不快感が体を襲う。
思い出せる、思い出せるはずなのに…
彼女のことを、あの夜のことを…
「……フリード?」
「……」
「ああ、何の音かと思ったら…記憶のオルゴールじゃないか!
さすがは星ノ村だ!大した技術だねぇ、」
突然部屋に入って来たのは、この宿屋の店主だった、
オルゴールの音を辿って、この部屋に来たのだそう。
「あら、ごめんなさい。うるさかったかしら」
「いいや、そんなことないさ。綺麗な音色でね。」
そういうと店主はベッドに腰掛け、オルゴールの音色に耳を傾けた。
そして、ニヤニヤしながらこう尋ねた。
「…一体、どんな記憶を入れたんだい? 新婚さんよ」
「へ?」
彼女の言葉に、耳を疑った。
“新婚”だって?冗談じゃない。
「な、何言ってるのよ!?」
明らかに動揺したナリアが尋ねた。
「…何って…そのデザイン、婚約祝いのモンだろ?いやぁ、おめでたいねぇ。」
「……」
店主のその言葉を聞いたナリアは、何かに気づいかかのように黙り込んだ。
「……」
「それじゃあ、失礼するよ。ごゆっくり〜」
バタンと、ドアの閉まる音が響く。
二人の気まずい沈黙が、部屋を包んだ。
二人とも、その沈黙を破ろうとはしない。
お互い、頭の中で絡まるいくつもの記憶に触れる事なく、ただただ黙っていた。
「寝るか…」
「…そうね…」
この短い会話が、この日の最後の会話となった。