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日本某所の山奥にひっそりと建つ豪邸に住む住人は江戸時代頃から酒屋を経営し富を築き上げた一族である。
ある嵐の夜、小さな命が一つ生まれた。
“世継ぎが生まれた!”
一族は喜んだがその赤子には彼等とは大きく違う特徴があった…
赤子の頭には2本の角が生えていたのだ
「はい、これが今日の分ね」
「毎日毎日飽きないね、おじさん。俺には毒なんて効かないの分かってるのに」
「仕方ないさ。君は特別なんだから。桃太郎の血筋から鬼が生まれるなんて」
「はぁ〜ヤダヤダ。老害の考えることってほーんと分かんない。元は鬼の家系なんだからさそういう確率は考えないと。近親婚繰り返すとヤバくなるって言うじゃん?今更家のメンツとか気にしてる時点でうちの家系はもう乙www。お疲れした〜ってね」
白衣を着た桃太郎と会話するのは幼き日の鳴海。あの日から12年の月日が流れ今では中学生であるが学校には行ってない。
“桃太郎の家系から鬼が生まれた”
その事実を知った時、母は嘆き父は怒り狂った。
しかし生まれてしまったものはしょうがない。小学校には通っていたが中学生になると同時に桃太郎機関に売り飛ばされた。
どうやら一族は鳴海のことを無かったことにしたいらしい。
「君はどんなに傷つけてもすぐ治るし便利なモルモットだ。死ぬまで使い古させてもらうから」
「お好きにどーぞ。クソ医者。」
異常な程の回復能力とタフさでこの地獄を生き抜いてきた鳴海。
ここに連れられてくる子は全員誘拐されて来たか親を殺されたかのどちらか。
毎日1人ずつ連れて行かれ帰ってくることはほぼ無い。それが日常だった
「(身体重っ…最近まともにご飯食べてないし水も飲んでない…このまま死ぬのかな…)」
そんな生活を送る日々に飽き飽きしていた時、鳴海に転機が訪れる。
確かその日は上の方がやたら騒がしく地下までその騒音が響いてきた。
何かあったのかと思ったが前日の拷問で出来た傷が痛み動けず口からは泡を吹いて意識が朦朧としていた
「(死にたくないなぁ…りっくんの事置いてけないし…あの子に会いたい…)」
ぼんやりとそんな事を考えゆっくりと目を閉じる。
すると地下の出入口から人の声が聞こえてきた。
声は段々と近づき鳴海のいる牢屋の前にやってきた
「ダノッチ、その子はもう…」
「医療部隊を呼べ。まだ助かる」
檻が破壊され鳴海は外に連れ出された。
意識が飛ぶ前に見た顔は昔あった少年にひどく似ていた。
鳴海が次に目を覚ますと真っ白なベッドの上だった。
身体中に包帯が巻かれ、開け放たれた窓からは暖かい春の風が流れ込んできた。
話を聞くと鳴海は要注意人物として羅刹での保護及び監視することになった。
生活必需品が揃った部屋から出ることは許されず出るとしても誰か1人が付くことになった。
「(また監禁生活か…ご飯あるだけマシだけどさ)」
数台の監視カメラに監視されつつ食事を摂っていると無陀野が部屋に入ってきた
「鳴海」
「あ、無人くん」
無陀野は手にボストンバッグを持っていた
「お前、明日から生徒だ」
「うん?」
「いつまでもここにいるのは嫌だろ。だから上と掛け合ってお前を監視付きで生徒として迎え入れることになった」
とんでもない発言に鳴海はつまんでいたコロッケを落とした。
「俺が生徒?ここの?」
「ああ」
「教養も何も無い俺が?」
「そうだ」
手渡されたバッグの中には制服が入っていた
「こっちの書類は同意書だ。」
「あ、うん…」
「あと部屋だが俺と同室だ。お前の監視も俺がやる。」
「はあ…」
「人の指示がないと動けないって言ってたな。」
「言ったねぇ」
「なら俺の指示に従え。それなら動けるだろ」
「(なんかポンポン話が進んでるけど異端者の俺なんかがいてもいいのかな)」
そんなこんなで鳴海は他のメンバーより遅く羅刹に入学した。
その後はこの小説の前日譚を読んでもらえると助かる。
そして意識不明になる2年前に医療部隊の総隊長になったが本人の性格となんか合わない気がしたので同期の花魁坂にその座を譲り自分は戦闘部隊の総隊長になった。
京都支部戦闘部隊総隊長として働き約2ヶ月が過ぎる頃になると忙しすぎてろくに寝れない日々が続く。
終わらぬ戦闘。
終わらぬ報告書。
尽きぬ負傷者。
目まぐるしい日々に鳴海の頭がバカになりかける。
「で?何徹?」
「…?肉増し増し野菜炒めが好き…」
「耳が機能してない!!!寝て?!死ぬって!!!!」
机に突っ伏しゼリーを食す鳴海と1夜明けの花魁坂。
お互いに徹夜明けで死んだ顔の2人。
そんな2人の元に、1人の男性が静かに近づいてくる。
そして鳴海の隣にある椅子を引くと、彼はゆっくりと腰を下ろした。
「ぐったりしすぎだろお前ら」
「あー!ダノッチじゃん!!何でいんの?来るなら連絡してよー!」
「こっちの方で任務があったから寄っただけだ。鳴海…大丈夫か?」
「マジでこの子過労死しちゃうって。1ヶ月ぐらいまともに寝てないよ。」
「寝たくても頭と身体痛くて寝てらんない」
「具体的には?」
「頭 首 肩 背中 腰 脚」
「全部だな」
ブツブツ独り言を言う鳴海を見て苦笑していると焦った様子で数人の看護師達が走ってきた。
慌てている彼女達の話を聞けば、重症の患者が急遽運ばれて来たらしく花魁坂と鳴海の力が必要とのこと…
その言葉を聞くとシュバッと勢いよく起き上がりゼリーを一気飲みした鳴海。
無陀野も鳴海の力が見れるなら一緒に行くと言い出し、3人は揃って急患が運ばれた場所へと向かった。
畳敷きの大広間には、人数は少ないものの、四肢や胴体の一部が欠損するという重症の隊員達が横たわっていた。
邪魔にならないよう入口の脇に立ち、無陀野は看護師と共に患者の元へ走って行く鳴海を見つめる。
そこで鳴海の能力を目の当たりにした無陀野は、珍しく驚きの表情を見せる。
「(前見た時よりも格段にパワーアップしている…)」
そして治療が終わった鳴海に労いの言葉をかけると無陀野は2人を隣の和室に呼び出すのだった。
「何?呼び出したりして」
「なになにー?」
「鳴海、お前明後日から東京勤務だ」
「は?」
「明日から東京行くの?」
「マジ?」
「ああ。校長が言っていた」
曰く、鳴海の能力は万能性が高いが故に桃太郎に再度狙われる危険が高いとの事。
その説明を受けて花魁坂は頭を抱えた。
「なるちゃんと離れんのやだ〜…」
「俺も寂しいよ〜」
その日はろくに寝れなかった花魁坂。
京都出立の日、忙しいであろう部下達が駆けつけ鳴海のことを見送りに来ていた。
「新しい隊長の言うことちゃんと聞くんだよ〜!」
「鳴海隊長〜!お元気で〜!!」
楽しい日々はいつまでも続く訳がなく…
鳴海が意識不明の重体になり季節は1周巡った。
鳴海が1年ぶりに目を覚ましてしばらくした頃、無陀野は鳴海の目の前にリングケースを置いた
「なにこれ?」
「見慣れないか?」
「うん。初めて見る」
「俺からのプレゼントだ」
「プレゼント!」
思いがけないプレゼントに目をキラキラさせながらリングケースを開けた鳴海は、出てきたものを見てまた喜びを露わにする。
中には1つの指輪が入っていた。
「指輪だ…」
「まぁ…その、あれだ。こういうのはちゃんとした方がいいだろ?」
「まさかまた大金叩いて…」
「ちゃんと店で買った。給料3ヶ月分だがな。式ではちゃんとしたやつを渡す。それは婚約指輪だ」
「婚約指輪…ふへへっ…すっごい嬉しいや…」
頬を赤らめ指輪を見つめる鳴海。
「俺はお前が思ってる以上に不器用だ。でも、世界で1番幸せにするから俺と結婚してくれ。」
「こちらこそ!俺、世界で1番幸せになるからよろしくね旦那様」
左手の薬指に指輪をつけ、満開の笑顔でそれを見せてくる鳴海に、無陀野も表情を緩める。
その数日後…
十数年に一度の粒揃いな生徒と共に、鳴海は学園生活をスタートする。