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桃源暗鬼

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桃源暗鬼

32 - 第32話

2025年01月24日

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京都から戻った翌日。

昨日まで命懸けのやり取りをしていたとは思えない程、7人の生徒達はごく普通に無陀野の授業を受けていた。

本日のテーマは、卒業後に属する各部隊について。

鳴海はと言うと1番後ろの席で入隊希望者の書類を捌いていた。


第19話 部屋決め


「(今年の入隊希望者、質はいいんだけど良い子すぎる…)」※本人の部隊は問題児多め

「鬼機関は大きく分けて戦闘部隊、偵察部隊、医療部隊となっている。細かくもっとあるが、大体このどこかに卒業後は入隊する。自分の血の特性に合った隊に入るのが…」

「ウ”ウ”ウウ”…」

「(まあ、眠いよね…あ、無人くん来た)」

「ウ”ウ”ウ”…!」


一ノ瀬の席の真後ろに座る鳴海は、先程から変な唸り声を発している後輩に同情した。

ほとんど高校に行っていなかった彼にとって、一定時間イスに座り授業を受けることは苦痛でしかない。

寝そうになっては必死に目を開け、そして唸り声をあげる…

何か言葉を発しているわけではないのに、その存在はうるさいことこの上ない。

そして彼の隣にもまた、違った騒音を発する者がいた。

腕を組み、大きな口を開けたままガーガーとイビキをかく矢颪のことも、鳴海はさっきからずっと気になっているのだ。

担任の雷が落ちないよう、小さく声をかけようかと思っていた矢先…

鳴海は不機嫌そうにこちらに向かって来ていた無陀野と目が合う。

彼の行動を制するように手を向けた無陀野は、寝ている矢颪の眼前で指を鳴らした。

最強と言われる無陀野の指パッチン…ただで済むわけはない。


「ぐおぉぉぉ…」

「やる気ないなら帰っていいぞ。あと四季、お前もうるさい。」

「ウ”ウ”ウ”…」

「あ、チャイム。」

「今日の授業はここまでだな。」


普通の学校と同じく、この羅刹学園にも授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。

無陀野は一言呟くと再び教壇へと戻り、次の指示を出した。


「HRではお前らで寮の部屋決めをしてもらう。」

「部屋決め?」

「全寮制だからな、2人部屋だ。パパッとペア作れ。」

「何それ!修学旅行みてぇ!おもろ!」

「人と生活とか勘弁しろよ!」

「じゃあ俺、鳴海と一緒がいい!」

「えっ!?」

「夜まで喋って、朝は鳴海に起こしてもらってさ!あと隠れてお菓子食ったりとか、寝起きドッキリしたりとか…絶対楽しいじゃん!」

「あはは!確かにそれは楽しそうだけど…」

「ダメだ。鳴海の部屋はもう決まってる。」

「えーっ!?何で!誰とどこの部屋!?」


無陀野と結婚して、多くの人から結婚祝いを貰ったが1番高価な物をくれたのが校長。

なんと一戸建てをくれたのだ。しかも羅刹に内に建てられたものである。

これには無陀野と鳴海もかなり驚いた。

生徒が来るまでは2人の愛の巣となったが無陀野は担任として生徒と寝泊まりするため家には帰れなくなる。


「つまり羅刹内に先生の家があるってことか」

「そういうことだね。俺はそっちで寝泊まりするから」

「でもそうなると…先生!1人余りますけど!」

「余った1人は “俺と同室” だ。」


担任からのこの一言に、一部の生徒たちは愕然とする。

ただでさえ1人部屋がいいと思っている彼らにとって、あの無陀野と同室になることは最早拷問でしかなかった。


「おぉお!俺は死んでも嫌だぞ!」

「てめぇバカなんだから、むしろ行っとけ!」

「(先生と同室なら、いざって時に救助してくれそう。)」

「…」

「(私に発言権はない…)」

「(2人部屋…夜の一人遊びが出来ない…)」

「(皆、そんなに無人くんと一緒の部屋嫌なんだ…)」

「いや、うちはこいつと一緒だから。」


漣のその爆弾発言に、一ノ瀬と遊摺部がいち早く反応を示す。

この短期間でまさかカップルが出来上がっていたとは…と、鳴海は驚きを隠せなかった。

だが漣の申し出は、”男女は分かれてもらう”という無陀野の一声で却下される。

漣が無陀野に食い下がり、一ノ瀬と遊摺部が手術岾に謎のイライラをぶつけている中で、今まで静かにしていた矢颪が急に騒ぎ出した。


「男と女が同じ部屋で暮らしていいわけねぇだろ!」

「(こいつがまともなこと言うんだ…)」

「そーゆうのは20歳超えてからやんのが常識だ。糞馬鹿どもが!」

「汚い言葉で常識語ってる。」

「碇ちゃんって硬派なんだね。そういうとこしっかりしてるのは良いと思う!」

「当たりめぇだろ!」


鳴海に褒められ嬉しそうにしてる矢颪を、不満そうな表情で見つめる一ノ瀬。

それからも各々が好き勝手な意見をぶつけ、部屋決めは一向に進む気配がなかった。

教室内がいつになくガヤガヤしている中、鳴海はそっと席を立つと静かに無陀野の元へと歩み寄る。

教卓に手をつき呆れたように生徒たちを見つめていた無陀野は、近づいて来た鳴海に気づくと、体をそちらへ向けた。


「無人くん」

「ん?どうした?」

「やっぱり生徒と寝泊まりって思うと俺嫉妬する」

「毎週金曜には家に帰る。月曜は家から出勤するから」

「ほんと?」

「俺が嘘ついたことあるか?」

「ううん。ない。」

「だろ?」

「寂しくなったら電話するね」

「ああ」


そんな2人の様子に気がつく男が1人…


「つーかムダ先、鳴海と何喋ってんだよ!2人でずりーぞ!!」

「うるさい。お前ら、部屋割りは決まったのか?」

「うっ…まだ、だけど…」

「無駄にダラつくな。ジャンケンでさっさと決めろ。女子はペア、男どもはあと2分で決めろ。」


結局一気に片がつくグっチョッパーを行った結果、何とか各自の部屋が決定した。


Aー1号室:屏風ヶ浦帆稀、漣水鶏

Bー1号室:無陀野無人、遊摺部従児

Bー2号室:一ノ瀬四季、皇后崎迅

Bー3号室:手術岾ロクロ、矢颪碇


羅刹学園の寮は2階建てになっており、女子がいるA棟が2階、男子のB棟は1階という配置になっている。

数字が同じ部屋同士が縦に並んでいるため、窓を開ければ上下階でのやり取りも可能だ。


「あ、管理人は俺だから何かあったら言ってね〜」

「おう!」


そうして楽しそうに会話をする鳴海と一ノ瀬。

だが敵対する桃太郎機関では、早くも2人のことが話題に上がっていた。


「唾切隊長が死んだって話、本当なんだな。」

「あぁ、総隊会議で話に出たらしい。」

「やっぱり鬼神の子はやべぇな…」

「本腰入れて一ノ瀬四季及び鬼神の子の殲滅に当たるって。」

「あともう1人、斑鳩鳴海っていう鬼のことも話題に出たんだと。」

「そいつも鬼神の子とか?」

「いや、1年前に死んだと聞かされていたが実は生きていたらしい。何でも桃太郎にとって有益な力を持ってるから、見つけたら生け捕りして報告だってさ。」


2人を狙う桃の包囲網が、すぐそこまで迫ってきていた。

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