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「おっ!一番は兵助か!」
寸鉄を握りしめ厳しい顔でやってきた兵助を見た八左ヱ門はニッコリ笑いながら言った。
「絶対に勝つのだ!」
お互いに睨み合う。
「えっと、はじめ!」
試合に出ない雷蔵が開始の合図を出すと同時に、兵助は八左ヱ門に蹴りを入れた。
八左ヱ門はそれを腕で軽く受け止めた。
「いい蹴りだな!でも、相手の実力も知らないのに突っ込むのは良くないぞ。」
そう言うと八左ヱ門は、兵助の腕を掴み背負投をした。
「グッ!」
兵助は顔を歪めた。
「しょっ勝者八左ヱ門!」
雷蔵の声が響いた。
ー兵助ー
「兵助はもっと観察力を付けたほうがいいな。あと状況判断力。」
ニカッと笑う八左ヱ門は、どこか作り笑顔のようでゾッとした。
「次は誰が来る?」
「っ。俺だ!」
勘右衛門が一歩前に出る。
「始め!」
合図とともに苦無を投げた勘右衛門は、八左ヱ門がそれを苦無でさばいでる間に後ろへ回り、万力鎖を投げた。
「おっ!いい動きだな!」
しかし八左ヱ門は動じず、すごい勢いで来る万力鎖を素手で掴み軌道をずらした。
「はぁ!?」
勘右衛門が驚いている間に、八左ヱ門は勘右衛門に急接近し、首に苦無を当てた。
「そっそこまで!勝者八左ヱ門!」
雷蔵の声が響いたと同時に、勘右衛門はしりもちをついた。
「相手の実力を知るために飛び具を使うのは得策かもしれないけど、あるもの全部投げると命取りになるぞ。」
太陽のように眩しい笑顔を見せる八左ヱ門に、勘右衛門はどこか違和感を持ちながらも頷いた。
「じゃぁ次は僕だね。」
雷蔵がそう言うと、八左ヱ門がストップをかけた。
「雷蔵と三郎は二人で来い。学園を卒業したら双忍でやってくんだろ?今のうちから組んでやっておいたほうがいいぞ。」
「二人相手でも余裕ってか?」
青筋を浮かべる三郎をいなしながら、雷蔵は苦無を構えた。
「せっかく八が相手してくれるって言ってるんだから、本気でやろうよ。」
「‥‥‥それもそうだな。」
「始め!」
兵助の声が響いたと同時に三郎が八左ヱ門に急接近する。
八左ヱ門はその場で動くことなく、武器を構えることもなく三郎が来るのを見る。
「っ!武器くらい、構えろ!」
三郎の蹴りが八左ヱ門の首に吸い込まれていく。
〜当たった!〜
その場にいる全員がそう思っただろう。しかし、三郎の蹴りは八左ヱ門に当たる事なく空振った。
「はぁ!?」
八左ヱ門がその場にしゃがんだからだ。
八左ヱ門はしゃがんだ状態から踏み込み三郎の後ろにいる雷蔵に向かっていった。八左ヱ門の手にはいつの間にか苦無が握られている。
「っ!雷蔵!」
ー八左ヱ門ー
焦った三郎の声が聞こえる。でもそんな事関係ない。
〜三郎、お前の、お前達の弱点は、〜
雷蔵に苦無を振り下ろす。
〜お互いの存在だ!〜
「っ!クッ!」
雷蔵が苦無を受け止めたと同時に首に蹴りを入れる。
「グァ!」
雷蔵が体勢を崩した瞬間、腕を首にまわし苦無を逆さに持って喉に突き立てる。
「雷蔵!」
「動くな。」
睨みつけると三郎は止まる。
〜さぁ、どうする?〜
「‥‥‥‥‥‥‥。」
三郎は動かない。
「このままだと雷蔵の首から大量の血が流れることになるぞ。あぁ、脅しだと思ってるのなら今すぐ考えを改めろ。たとえ授業だったとしても、お前の行動次第で俺は雷蔵を殺せる。躊躇なんてしない。」
ー三郎ー
八左ヱ門の冷たい声が響く。
私の知っている八左ヱ門はこんな冷酷だっただろうか。答えはNOだ。
「‥‥‥八左ヱ門、冗談じゃ済まされないぞ。授業で殺しなんて、」
声がかすれる。
「‥‥‥はぁ。」
八左ヱ門のため息が嫌に響く。
「三郎、お前は不合格だ。」
雷蔵の首に当てられた苦無が勢い良く振り落とされた。
「‥っ!雷蔵!」