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なの

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unknown
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白黒猫

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せっかく三人の音が重なり始めたっていうのに、現実はそう甘くなかった。
放課後の旧音楽室。窓の外では部活動の掛け声が響いているけど、この部屋の中は、それとは正反対の重苦しい沈黙が支配していた。
大森はパイプ椅子に深く腰掛け、ギターを抱えたまま、一歩も動かずに時計を睨みつけている。
短針が刻むカチカチという音が、やけにデカく聞こえた。
「..遅い」
大森が低く、地を這うような声で呟いた。
「ま、待てよ大森。今日は生徒会の定例会があるって言ってたろ?先輩、会長なんだからさ」
「….もう一時間だよ。一時間あれば、何回リハできた?」
大森の指が、ギターの弦を苛立たしげに弾く。不協和音が部屋に響いて、俺の心臓がビクッと跳ねた。
「でも、ほら、先輩も頑張って一ー」
その時、廊下を走る足音が聞こえて、バタン!と勢いよく扉が開いた。
「はぁ、はぁ….ごめん!遅くなった…..っ!予算の会議が全然終わらなくて….」
藤澤先輩が、額に汗を浮かべて駆け込んできた。肩で息をしながら、急いでカバンから楽譜を取り出そうとする。
「先輩!お疲れ様です、さあ始めましょーー」
「藤澤先輩」
大森の声が、先輩の動きを凍らせた。大森は椅子から立ち上がり、冷めた瞳で先輩を見据える。
「….先輩にとって、この時間はその程度のものなの?」
「えっ…..?」
「生徒会の仕事が忙しい、親の期待がある。言い訳は聞き飽きたよ。僕たちは遊びで集まってるわけじゃない。君が「会長」を演じてる間に、僕の中の音はどんどん死んでいくんだ」
「待てよ大森!言い過ぎだろ。先輩だって必死に..」
「必死?必死なら、どうしてここに来るのを一番にしないの?結局、君にとって音楽は「逃げ場所」でしかないんだ。覚悟がないなら、最初から混ざらないでよ」
大森の言葉は、ナイフみたいに鋭かった。
先輩は、手に持っていた楽譜をぎゅっと握りしめた。子の指が白く震えている。
「….大森くん。僕だって、早く来たいと思ってるよ。でも、僕には投げ出せない責任があるんだ。みんなが僕を頼りにしてるのに、「バンドがあるから」って無責任に放り出せないよ…..!」
「その『責任』が、僕たちの音楽より大事なら、もういいよ。…..一人でやってる方が、よっぽどマシだ」
大森はギターをケースに叩き込むようにして片付けると、俺の横をすり抜けて出口に向かった。
「おい、大森!どこ行くんだよ!まだ練習始めてねーだろ!」
「..ノイズが混じった音なんて、聴きたくない。今日はもう帰る」
大森は一度も振り返らず、扉を乱暴に閉めて出ていってしまった。
静まり返った音楽室。夕暮れの赤い光が、立ち尽くす先輩の影を長く引き伸ばしている。
「….ごめん…… ごめんね、若井くん」
先輩の声は、今にも消えてしまいそうなくらい細かった。
「….大森くんの言う通りだ。僕は、どっちも中途半端で….期待に応えようとして、結局、一番大事なものを傷つけてる……」
「先輩…..」
俺は掛ける言葉が見つからなかった。
大森の音楽に対する狂気的なまでの純粋さと、先輩の優しすぎる責任感。
どっちも間違ってない。
間違ってないからこそ、一度ズした歯車が、嫌な音を立てて軋んでいた。
「….今日は、もうお開きにしよう。僕も、少し考えなきゃいけないみたいだ」
力なく笑って、先輩も荷物をまとめ始めた。
一人残された音楽室で、俺は自分のギターを握りしめる。
(….クソッ。俺が、なんとかしねーと)
バラバラになりかけた三人の絆。
俺の胸の奥にある火は、まだ消えていなかった。
「…ったく、どいつもこいつも頑固なんだから!」
冷え切った音楽室に一人取り残された俺は、自分の髪をぐしゃぐしゃに掻き回した。
あの大森の冷たい目と、藤澤先輩の今にも折れそうな背中。どっちも脳裏に焼き付いて離れない。
「仲介役なんてガラじゃねーけど、ここで終わらせてたまるかよ」
俺はギターを背負い直し、まずは「逃げた」方の天才を追いかけることにした。
駅へと続く桜並木。ヘッドホンをして、周囲を遮断するように歩く背中を見つけた。
「おい、元貴!待てよ!」
全力で走って、その肩をガシッと掴む。大森は嫌そうに顔を歪めて、ヘッドホンを首にずらした。
「…しつこい。今日はもう解散だって言ったでしょ」
「解散じゃねーよ!お前、さっきのは言い過ぎだ。先輩だって、わざと遅れてるわけじゃないだろ」
「わざとじゃなくても、結果は同じ。…..若井、君は甘いんだよ。僕の曲を完璧に鳴らすには、一秒の妥協も許されない。中途半端な気持ちでピアノを弾く人間なんて、僕の視界に入ってほしくない」
大森の瞳は、まだ尖ったままだった。
でも、その奥に「裏切られたくない」という怯えのような色が混じっているのを俺は見逃さなかった。
「….中途半端?お前、本当にそう思ってんのか?先輩のあの時のピアノ、忘れたのかよ」
「それは…..」
「あんな音、適当な気持ちで出せるわけねーだろ。先輩は、生徒会の責任も、親の期待も、全部背負ったまま、それでも俺たちの『音」に救いを求めて来てんだよ。お前が一番、その『苦しさ」を曲に書いてるんじねーのかよ!」
大森が、ハッとしたように口を噤んだ。
「….お前の曲を一番理解して、一番必死に食らいついてるのは先輩だ。明日、もう一回だけチャンスをくれ。逃げんじゃねーぞ、大森」
「…逃げてない、明日、….一回だけだからね」
大森は顔を背けて、足早に駅の方へ消えていった。
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コメント
2件

3人とも純粋で大好きです💛❤️💙
ああ〜、今回も熱かったわ…!🔥 大森の「覚悟がないなら最初から混ざらないでよ」ってセリフ、めっちゃ刺さった。彼の音楽に対する純粋すぎる執着と、先輩の立場との板挟み、どっちの気持ちも分かるから余計に苦しい。 でも若井が「お前の曲を一番理解してるのは先輩だ」って言い返したシーン、グッときたわ。あそこで大森の目が一瞬揺れるの、ちゃんと描写されてて好き。 次、この三人の音がどう鳴るのか、マジで気になる!🔥