「これから、作戦会議をはじめる」
潮見くんの報告から程なくして、橘ことはさんの行方が分からなくなった事が判明。すぐさま作戦会議がたてられた。
潮見くんはどうやら、橘さんの店を通った際、妙な張り紙を見つけたという。
そこには
【橘ことはは我々が預かった。返して欲しければ、今日の17時に、◯◯公園へ来い。ただし、来るのは風鈴の生徒10名だけである。】
と記されていたらしい。
その情報を受け、緊急会議が開かれ、今に至る。
今、我々の前で腕組みして水木さんの言葉を聞いている梅宮さんの顔は、今までにないくらい怖かった。
まぁ、彼にとって橘さんは妹のようにかわいらしい存在なのだ。普段のような笑顔を貼り付ける余裕もないのも分かる。
しかし、風鈴の生徒10名だけとなると、かなり戦力が限られていく。
まず、梅宮さんは行くだろう。私情だけじゃなく、この風鈴で今1番強いのは彼だ。
柊さんを始めとした四天王も行くはずだ。
なら残りの5人は………。
「派遣する者に関してだが、四天王と梅宮さんを除く残りの5人は、我々が相性や性格、強さを見極めて次のように決定した。」
俺を含め、皆が水木さんの言葉に注目する。
そうして、皆が固唾を飲んで、発せられる言葉を見守る中、水木さんが口を開いた。
「梶蓮、榎本健史、楠見結斗、桜遥、蘇芳隼飛 」
「っ!?」
驚いた。
2年の先輩方はともかく、俺や桜くんまで?
いや、桜くんもありえるかもしれない。
強いし、級長だし。
でも、俺は。
「あ、あの!すみません、口を挟んでもいいですか?」
「…好きにしろ」
「桜くんはともかく、俺まで?他に先輩方でいらっしゃらないんですか?」
俺の問いに、水木さんではなく、柊さんがため息混じりに答えた。
「他のは見回りだ。弱いやつばっか残したら誰が街を見る 」
なるほど、確かにそれなら俺が派遣されるのも納得できる。
まぁ、一応俺も獅子頭連とやり合ったっていう功績だけはあるからね。
「では、今より作戦を発表する」
「………」
公園までは風鈴から歩いて10分ほどかかる。
その間、誰も喋らなかった。
いつも元気な梅宮さんや、椿野さんまで静かで、このピリピリした空気を肌で感じられずにはいられなかった。
「あっ!来たよー!!」
約束通りに来ると、そこにはざっと見て50人くらいの大群と、頭っぽい大柄な男が1人、それから腕を掴まれた橘さんがいた。
「ことは!!」
梅宮さんが、血相を変えて橘さんの所へ向かおうとする。
が、寸でのところで椿野さんにぐっと腕を掴まれた。
「ちょっと待ちな、梅。相手何人だと思ってんの。ことはを人質にとる気よ」
はっと、梅宮さんが顔をしかめる。
ケラケラと、頭らしき男が声をだして笑った。
「そのとーり!!その変な男が言った通りよww」
「…」
梅宮さんの、無言の怒りが伝わってくる。
綺麗な群青の瞳が、怒りの炎で燃え盛っていた。
「こちらの条件はただひと〜つ!!」
このピリピリした空気に似つかわしくない声で男が言った。
ぴくりと、皆の眉があがる。
少しの間、変な沈黙が降りた。
すぅ、と男が息を吸う気配がした。
「おたくの桜遥ちゃんを、ウチに引き渡して下さい」
「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」
風鈴の全員が息を止める気配がした。
ちらりと桜くんを見やると、彼も目を見開いていた。
嫌な予感が、俺の背中を走った。
空は段々日が沈み始め、太陽のオレンジが、青く澄んだ空を染めている。
まるで、空を侵食するかのように。
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