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そらしろ
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⚠️
全体を通じて日帝(椿さん)表現があります。うちの学校の先生流にいうと「クソジャパン」の時代ですのでご容赦ください。
私の解釈としてはワールドスターズの1話で「ある日見た目も人格も突然かわってしまったり」とあるので、日帝さんは日本さんが文明開化の悪気にやられて人格が変わった姿、と想定して描いています。
湾ちゃんのキャラ崩壊がすごいです。
我が家はかつては台湾ではなかった。
かつて私の家は大肚王国と呼ばれていた。
遥昔よりこの地に住む東蕃と呼ばれた私たちは拍瀑拉族、貓霧捒族、巴宰族、洪雅族、道卡斯族、噶哈巫族の六つの民族が手を取り合って暮らしていた。
他にも今現在公認されている十七つの先住民族たち。
外地の者など無きに等しく、だた古くより住まう私たちだけがこの小さな島で皆がそれぞれ自由に暮らしていた。
それが変わったのは突然だった。
1人は見たこともない陽光を織り込んだような亜麻色の髪とこの世のものとは思えない橄欖石のような瞳を持っていた。
彼は私の南側に領地を作ると福爾摩沙と私を名付けた。そして、私たちの反対をものともせず、いくら紛争が起ころうとも、この地から彼らの影がなくなることはなかった。
もう1人は焦げた土のような色をした陽の光を吸い込むとたまにキラキラと黄金のように輝く髪と、新緑のような明るい緑の瞳を持っていた。
彼もまた私の北側を領地とし西屬艾爾摩沙を作った。こっちの男はもう1人とは違いすぐに去って行ってしまった。
この頃から私たちに自由は無くなった。
次に現れたのは大陸の男だった。
彼は私の家を拠点にして大陸の現政権に抵抗をしようとした。彼は紅毛番をまとめて追い払ってみせた。彼自身の政権も長くは持たなかったが。
彼が大陸の回し者に負けてから。私は大陸の覇者である清に支配されることになった。
全ては時の流るるままに。私の願いは未だ聞き入れてもらえない。
大陸の覇者は不思議な男だった。
長く垂らした黒い髪。紅の衣。威厳のある立ち姿はさすがは大陸の覇者といったところだろう。
「お前が化外の地、台湾あるな?」
彼は私にそう言った。
独特の言葉遣いは大陸の流行なのだろうか。
「そうネ。外では私をそう呼ぶみたいだヨ」
「そうあるか。今日からここは清の土地になるある」
「我のことは老師と呼ぶあるね」
「わかったヨ」
私は、台湾なんて名前ではなかった。
だが、世間からは台湾と呼ばれ続けていた。
そんな大陸の覇者を難なく倒して見せたのが隣の日本だった。清を踏みつけたその顔には愉悦を微かに浮かんでいた。私には彼の紅の瞳が妖しく光って見えた。その恐ろしい横顔を再び見る日がないことを祈り続けていた。
清はなんとも薄情だった。元々少し前まで私のことを国土とも思ってなかった男だ。私を捨てることなどなんともなかったのだろう。
私を切り捨てる判断を下すのは恐ろしいほどに早かった。日本と条約を締結し、私たちには全く知らせずに私の割譲を承認した。
私は知らない間に日本の土地になっていた。
煙槍から煙を深く吸い込んだ。燃え尽きるまで後数秒。何も考えさせてくれない。まともに立っていられないような強い酩酊感に酔いながら、何も考えないで眠りについた。
考えられない頭に、あの時見た恐ろしい彼の姿が浮かんだような気がした。
きっと、それは気のせいだった。そうであると、私は信じていた。
彼がここを初めて訪れたのは清と条約を結んで間もない、光緒二十一年五月一日のことだった。
黒い欧羅巴のような不思議な服、高貴な桔梗色の羽織を靡かせて、彼はここまでやってきた。羽織には黄金の生糸で菊の紋章が一つ、刻まれていた。
彼のその顔には先日見たような紅玉の瞳が一つの違和感なくそこに座っている。
彼はあの恐ろしいと感じたあの表情が嘘のように、柔和な顔で穏やかに私に微笑みかけた。
「お初にお目にかかります」
「私、大日本帝国と申します。先日清と結んだ下関条約で私が貴方を頂くことになりました」
「よろしくお願いしますね」
ああ、気持ちが悪い。
あの冷酷な表情を持ちながら自分に微笑みかける男。気味が悪くてたまらない。
その薄笑いの顔の裏にどんなものを持っているのか測り知れないその不気味な顔を見ていたくなかった。
彼が微笑みを浮かべ顔を傾けると瞳と同じ色をした紅玉の耳飾りがゆらりと揺れ、妖しげに光を放った。
「よろしくネ!」
無理やりに口角を上げてそう答える。さぁ、彼はどう出るだろか。
まぁ、どうせ今までと変わらないだろう。手錠をかけて、縛り付けて私に自由はない。
タメ口をきくなと怒り、自らを大きく見せるだけ。支配欲と自己承認欲求だけが高い、今までの愚かな支配者たちと変わらない。
きっと、支配者が変わったところで私の世界が変わることはない。
「ええ、ところで。この地に鉄道路線を作るというのは本当ですか?」
「ん?唖々、そうらしいネ!詳しいことはわからないけど」
気が狂う。何がしたいのだろうか。他と違う?
そう一時は思った。だが同じだった。彼らが我が民に強いたのは軍事行動を前面に出した強硬な統治政策だった。
鉄道だって、いつの間にか私たちの手から離れ、彼のものになっていた。
売却論が本国で出た、なんて噂もちろりとは聞いたが結局何か違いがあったのか。
最近は、阿片も買いにくくなった。免許制になり、税金も上げられ。
娯楽を取り上げ、現実逃避さえさせず。強引に、全てを強引に進めていく。
時々現れる彼の顔には殆嫌気がさした。
「お久しぶりですね。調子はどうですか?」
「調子はどうって、最悪ネ。阿片は?」
「持ってませんよ。なぜ渡さねばならないんですか?」
「唖々、そうだ。本日はご報告に来たのですが。また抵抗運動を試みたそうですね」
「そうだったかも知れないネ」
「きちんと鎮圧させていただきましたので、ご安心ください」
「そう。嬉しいナ〜ありがとネ」
大陸の覇者に勝った男に勝てるわけがない。わかっている。
お世辞でへつらい、従うことで最悪の事態を避けることしか私にはできない。
最近、この男の家の板垣とかいう男がいることで盛り上がった政治参加運動が成功するとはとても思えない。
それでも、確かに私の民はみな自分たちは台湾人だという確かな誇りのもと、一つになろうという意識が存在した。きっといい兆しだ。
「そうでした!言い忘れていたのですが。今日から日本語を学んでいただきたいんです」
彼のことをどれだけ学んでも、彼と私が歩み寄る日はきっと来ないのだろう。
そう思っていた。彼は私に興味などないのだから。ただ農作物の供給地があれば彼らにとってはいいものだったのだ。
時は変わった。彼はまた大陸の男と戦うことを決めたそうだ。
彼は初めて、台湾の地ではなく私に話しかけた。
「ここのところ、貴女の家の民草の国民意識の向上が課題になりまして」
「それの何が問題なのかわからないネ」
「問題も問題ですよ。私には貴女が必要なんです。何より貴女は私のものですから、そうでしょう?」
「そう」
「でも。私は私ヨ。いつもいつも言うことなんて初めから聞かないくせに。答えが意味をなさない問いに意味なんてないと思うケド?」
「いえ、意味はありますよ」
「貴女にわかっていただくためですから」
この頃から、彼はどこか可笑しかった。元々確かに変ではあったがここまでではなかったように思う。
彼が毎夜ごと私を求めるようになったのだって、きっと何かの間違いであったのだろう。今まで一度だってそんなことはなかったのだから。
彼の紅玉の耳飾りを通して見る世界は、彼の見ている血糊の世界なのだろうか。
あの頃の彼は今までに比べ遥に独善的になり、独りよがりで。余裕を失い、周りなど見えていなかった。
焦りばかりが目に見えて、ひどく滑稽だった。ただ、いなくなる味方を少しでも減らすために、周囲の国を繋ぎ止める何かをひどく欲しているようだった。
10年もしなかった綱渡りの状態で歩み続けるのはきっと限界だったのだろう。それは我が家でも徴兵制度が施工されたことからよくわかる。人手も足りず、焦って余裕をなくし。彼は何を目指しているんだろうか。
彼は負けたそうだ。私の家には再び大陸の覇者に支配されるようになった。
今度はきちんと、私を縛り付けて。
ただ搾取されるだけの無益な日々。無性に彼の紅の瞳が懐かしくなる。彼がいなくなってから、彼の瞳が恋しくなった。
確かに彼は口うるさく、自分勝手で厳しかった。だが最低限の治安や決まり事は守っていた。そこには利益以外を求める利発さがあった。番犬として役には立っていたのだ。
だが、新たにやってきた統治者はただただ我先にと利益を貪り、自らの私服を肥やすこと以外に頭が回らない。全くもって馬鹿らしい阿呆加減だ。
だから私の家では「狗去豬來」なんていうようになってしまったのだ。
彼が負けた1945年。初めて、彼と目が合った。彼の瞳にいつもの紅玉は座っていなかった。
彼はひどく狼狽した様子で、私の顔を見た。
怪我をしたの元に義務感で見舞いに行っただけだった。何より、新たな支配者の元にいうよりは少しでも彼の顔でも見て気分を紛らわせた方がましだった、それだけの話だ。
彼の顔は青ざめていた。ひどく恐ろしいものを見るような。そんな顔。まるで滑稽だ。
「日本さん?どうしたの?」
「い、いえ。お久しぶりです」
動揺を隠しきれない彼の姿。見ているだけでこちらがおかしくなりそうだ。彼があんな顔をするだなんて、にわかには信じがたい。
「どうか?」
「いえ、なんでもないです」
私は何も言わずに、彼の元を去った。
次に彼が我が家を訪れたのは1952年のことだった。あの頃はしょっちゅうみていた顔をもう5年以上もみていない。なんだかおかしくなりそうだ。
彼の瞳に紅玉が宿るのをあれ以来見かけない。今もあの時も、彼の瞳は黒曜石のように美しい漆黒のままだ。
「日本さん?どうかしたの?」
あの日の問いかけが帰ってきたのは今日だった。
「私は、謝りたいんです」
「貴女は先日やっと帰属しましたね。私は戦時中貴女にたくさんひどいことをしてしまった」
「誤って許されることではないです。それくらい承知の上で。自己満足の謝罪をしています」
「あの時の私は、本当にどうかしていた。正気じゃなかった」
「本当に、申し訳ありませんでした」
彼は誠実だった。私はそれを初めて知った。知る由もなかった。あの時私と彼はお互いに歩み寄る気などなかったから。
「いいのヨ!顔を上げて。私は日本さんのこと、改めて考えたらそこまで嫌いでもなかったヨ」
「もういいの」
ここから、ゆっくりと歩み寄っていけばいいのだ。
私はもう、彼に縛られてはいないのだから。
彼と対等に、これからの未来を歩んでいけば。未来は明るいのだから。
狗去豬來とは、日本語に訳すと「犬去りて、豚来たる」となる。
台湾における日本の統治が終わり、中華民国による統治が始まったことを揶揄した一種の差別用語である。
犬とは50年近く台湾を統治していた日本人を形容したものであり、豚とは大戦後に台湾に渡ってきた外省人を指したものである。
「犬は獰猛で騒がしいとはいえ、番犬として重宝されるのに対し、豚は食べるだけで何もしない」という意味を持ち、長かった日本の統治は終わり、外省人による統治に期待したものの、汚職の多かった外省人に失望した台湾で流行った当時の流行語の一種とも言えるもの。
コメント
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読ませていただきました。「狗去豬來」——この物語は、支配される側の視点から歴史を描くことで、台湾という場所の置かれた複雑な立ち位置がひしひしと伝わってきました。特に、日本から中華民国へと支配者が変わる中