テラーノベル
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「イタリア。お前のことがずっと好きだった」
「俺と付き合ってくれ」
「うん。いいよ」
ドイツは、俺にそう言った。
ドイツから俺に向けられている好意にはなんとなく気がついていた。日本も一緒にいる手前それを口にすることはなかったけれど。恐らく日本もそれに勘付いていた。
だからこそ、俺はそれを承諾した。
きっとあいつも俺も戦乱の世で気持ちがおかしくなっていた。
そうじゃなきゃ俺はきっと承諾しなかったし、あいつと何度も何度も二人きりで夜を過ごすこともなかっただろうから。
あの二人で過ごした暗闇は平和な今も時折頭によぎる。ドイツの頬から滴った汗の味を今も覚えている。
あいつとの関係は今も終わっていない。
あいつがうちに来たり、俺がドイツに行ったら大体二人でデートをする。
あいつと過ごす時間が幸せではある反面、恋じゃないというのは常々感じてきた。
俺があいつに感じでいるのは友情であって慕情じゃない。分かっていた。
でも、失望したドイツの顔を見たくなかったから。絶望したドイツの顔を見たくなかったから。悲しんでいるドイツの顔を見たくなかったから。
ズルズルとこの曖昧であやふやな関係を続けていた。よくないことだと分かっていたのに。
俺が弱いから、断れなかった。別れられなかった。
俺は、心の底からあいつを愛してはいなかったのに。
いつもいつも。そんなことを考えてしまう。
デート中は楽しいのに、その前後は憂鬱で、いつも行きたくないなと思ってしまう。
上等なスーツに身を通し、髪を整える。
待ち合わせ場所にはドイツはもう来ていて、いつもの調子で声をかけた。
今日こそ、本当のことを言って別れよう、そんな事を考えている脳内とは裏腹の明るい声。
いつも通りの俺だ。
「ドイツ〜ごめん遅れた?」
「いや、まだ3分の遅刻だ。お前にしては上出来だな」
「ヴェーほんと?嬉しいなぁ!」
「で、今日はどこに行くんだっけ?」
「全く、もう忘れたのか?今日は一緒に食事をして買い物でもしようと」
「まさか、見てないのか?」
「見たよ!でも覚えるの苦手でさぁ〜」
「それに!ドイツはいつも覚えててくれてるから安心しちゃって!」
「そうか」
「なら仕方ないな」
「ドイツが珍しく甘いのであります!」
彼はいつもと同じ慈しむような笑みを俺に向けた。
そんな顔を向けられる筋合いはないという少しの罪悪感はあるものの、俺はドイツのその顔を見るのが好きだった。
俺や日本に向けるあの表情をずっと見ていたいと思う。
彼のあの表情はずっと俺や日本よりも無垢で美しいから。
心の底から溢れる笑みを守りたいといつも思う。
「そんなことないだろ」
「ああ、そうだ。早く店に行こう。予約してあるんだ」
「えー、ドレスコードがあるお店じゃないよね?」
「俺あんまいいスーツじゃないよ今日」
「大丈夫だ。ドレスコードがある店ではないし、お前はどんな服でも似合っているからあまり気にしなくてもいいだろう」
輪廻
50
496
#aph
友ゴリラ
11,325
有糖*
224
「ほんと?そう言ってもらえると嬉しいな〜」
「事実だからな。お前は美しいよ。その鮮やかな髪の毛も、キラキラと輝く瞳もどれも素晴らしいと思うよ」
「ヴェ!?そこまで言われると逆に恥ずかしいよ」
俺だってベッラにいうことがないではないけれど、こんな小っ恥ずかしいセリフよく言えるな、と尊敬する。自分のことはとりあえず棚にあげておこう。
でも、俺でさえナンパでここまで言わないし。
ナンパで言うセリフなんて「綺麗だね、この広い世界で君というただ一つの宝石に出会えるなんて俺は幸せだよ」とか、せいぜいそんなところだから。
それに、自分が言われる側になることなんて滅多に無いから少し照れる。
数十年前まで綺麗なんて言う側で言われる側じゃなかったのにな、でも昔一人だけ僕に綺麗だと言ってくれた人がいた。
そういえば似ているな、そんな思いを彼らに大して初めて抱いた。
今は亡きかつて身を焦がして愛した彼と、目の前にいる未だ慕情を抱くことのできない彼は容姿は完全に瓜二つである。
なんで、今の今まで気づくことができなかったんだろう。
それはもしかすると、彼の存在が忙しない日常の中で俺の中ですごく小さい存在になっていたからかもしれない。
「イタリア?どうしたんだ?浮かない顔をして何か悩みでも」
「いや、つまらなかったのか?」
「それなら申し訳ないんだが」
彼が言い切るか言い切らないかのところで俺は咄嗟に否定をした。
こんなくだらない事でドイツに迷惑をかけるわけにはいかなかった。
これは俺の問題だから。
「いや!違うんだ。ただちょっと考え事をしてて」
嘘じゃなかった。その後も考えが尽きることはなく一日中上の空。別れるなんてもってのほか。
その日の食事に味はしなかった。いつもは思わず笑みが溢れる幸せな時間が今日はずっと鈍色のままで。モノクロの景色が視界に痛かった。
ドイツにすごく申し訳ない。でも、考えれば考えるほど思考は現実と乖離していく。
もう、何も理解したくない。
ドイツは俺の体調が悪いのだと解釈してくれたらしい。自分の持っていたスポーツドリンクを俺に手渡すと家まで送ってくれた。
家の扉を閉めたら気が抜けた。家の扉を背にずるずると座り込んでしまった。
全くもって阿呆らしい。俺はもう彼がいない事を知っている。なのに、彼が目の前にいるわけがない。わかってる。
わかってるのに、考えれば考えるほどそっくりで、それは思わず本人が帰ってきたと錯覚してしまいそうなほどに。
誰かが居てくれればすぐに考え事なんて忘れられるかもしれないのに、生憎我が家には俺一人だけ。
彼の表情は俺を慈しむ神聖ローマと同じ顔に見える。
彼の口調は神聖ローマと同じに聞こえる。
実は神聖ローマが記憶をなくして生き返って俺の前にドイツとして現れたんじゃないか、とか。
神聖ローマは実は生きててドイツとして生きてるんじゃないかとか。
ありえない可能性ばかり思案してしまう。
わかってる。もうきっと居ないんだって。この数百年で幾度希望を抱いて、その希望をゴミ箱へ投げ捨ててきたんだろう。
俺は、確かにオーストリアさんから渡された帝国解散勅書に目を通した。8月6日に読んだそれには確かに『神聖ローマ帝国を解散する』という旨の記載がされていた。
元々国家連邦という形をとっていた帝国だった、解散をして彼が生きていけるわけがない。
わかっている。もうあの日から俺の覚悟はできている。
わかってるはずだ、彼が生きているはずないと。一度死んだ存在が生き返ることはない。
誰もが知っている常識じゃないか。そんなありえない期待なんてするだけ無駄だ。
わかってるんだ。でも、でも、少しだけ期待をさせてほしい。わかってるから、わかった上で否定しないでほしい。お願いだから。
ドイツを見るたびにその顔に神聖ローマの面影を見る。「やめて、俺の前に現れないで」そう叫びたい心を必死に抑えた。
俺は天に何かをしただろうか。主よ、俺が過ちを犯したのならもう十分に罰は下った、だからどうかこれ以上俺を苦しめないでください。お願いします。
あれからどれくらい経っただろうか。神聖ローマのことばかり考えて過ごす日々。思い出を振り返って過去ばかり見つめて。
こんなに神聖ローマの事ばかり考えるのはいつぶりだろう。
幼い日々が酷く懐かしい。もう叶わないとわかっている泡沫の夢ばかりだから。
「久しぶり、ドイツ」
「嗚呼、久しぶりだな。何かあったのか?」
「ロマーノから最近塞ぎ込んでるからそっとしてやってほしいとこの前言われたんだが」
「それよりもう大丈夫か?」
「うん。大丈夫だよ」
「それにしても兄ちゃんそんな事わざわざ伝えてたの?」
「も〜心配性だな〜」
微かな笑みをこぼす俺にどうやら安心したらしい。ドイツは微笑むと俺の手を掴んだ。
「それじゃあ行こうか。久しぶりだな。二人で動物園に行くのは」
「ね〜ドイツ動物好きだもんね」
「嗚呼、そうだな」
もしも、あの後帰ってきて神聖ローマが俺の手を引いてくれる日が来たらな。
笑ったドイツの顔が神聖ローマの笑顔と重なった。
嗚呼、俺最低だ。
ドイツは俺に純粋な好意を向けてくれているにも関わらず、俺はドイツと神聖ローマを重ねてしまうなんて。
あろうことか本人の前でそんな事を考えてしまうなんて。何してんだろ、俺。
ドイツにも、神聖ローマにもとんでもない狼藉じゃないか。
だめだ。考えちゃ。だめだってわかってる。
嗚呼、やっぱりこれだめだったんだ。わかってた。そんな気はしてた。
今まで言わなかっただけ。気づかないふりをしていただけ。
俺は神聖ローマを忘れられない限り一生ドイツを好きにはなれない。
でも、ドイツじゃ神聖ローマを忘れられない。
気づくことがなければ、このあやふやな関係を続けられたかもしれない。
でも、きっとどこかでガタが来てた。
「あのさ!その前に一個言っていいかな?」
「嗚呼、構わないが」
「俺たちさ、別れない?」
悲しませると思った、今まで踏み出せなかった一歩。でも、その方がいいって今ならわかるから。
でも、ドイツの顔は想像していたものとは異なっていた。
悲しんではいるかもしれない。でもその顔には絶望も失望も宿っていなかった。
落胆と納得の色がその顔には浮かんでいた。
俺がドイツの好意に気がついていたように、ドイツもきっと俺の気持ちに気がついていた。
俺がドイツの気持ちに付き合ってたんじゃなくて、本当はドイツが俺の猿芝居に付き合ってくれてたんだ。
「お前は、やっぱり俺のことが好きじゃなかったのか」
「気がついてたんだ。つらい思いさせちゃってごめんね」
「いや、構わない。気づいてたからな、最初から」
「でもいつか、お前が俺に振り向いてくれるって期待してたんだ」
「でも、そんなことはなかったな。お前は最近俺を通して別の誰かを見ていたんだろ?」
「そう。ごめんね。ほんとにごめん」
「ほんとに申し訳ない。俺は自分のことばっかり考えて、お前のこと考えてなかったよ」
「ごめん、ごめんね」
「いいんだ、俺のほうこそ好きでもない相手とずっと過ごすのは心地いいものではなかっただろう!」
「そんなことないよ!俺ドイツのこと友達として大好きだから、ドイツと一緒に遊んだのすごく楽しかったよ」
「もう一度、お前がその気になったら」
「また俺に想いを伝えさせてくれ」
「もちろんだよ、ドイツ」
また、涙ばっかりのお別れだった。
ドイツと別れても日々は変わらず巡っていく。
俺はまだ、神聖ローマが好きだよ。彼と過ごした幼少期の甘美な蜜月を俺は未だ忘れられない。
彼の髪の毛の輝く色も、瞳に透ける青色も、優しい声音も、彼がくれたご飯の味も、脳裏に焼きついて離れない。
だから、どうか全て忘れさせて。
あの幸せな日々を忘れてもいいくらいの苦痛だったから。
だから、どうかこの幸せな日々と引き換えに最低な事をした俺を赦してください。
俺に、赦しを与えてください。
俺の愛した愛しい日々よ。
どうか、安らかに眠ってくれ。
祭壇の前、礼拝を捧げて。
主よ、お願いだから。
『O Signore, ti supplico, concedimi il tuo perdono.』
どうしてもイタちゃんに「ああ、俺って最低だ」って言わせたかっただけなんです。懺悔します。
タイトルの「Ti chiedo perdono」の意味は「許しを請います」
『O Signore, ti supplico, concedimi il tuo perdono.』は「おお主よ、懇願致します、私に赦しを与えたまえ。」という意味になります。ちょっとキリスト教っぽくなるようにAIや翻訳を使って頑張りました。
コメント
6件
うわぁぁぁ 好きだってなる感じだけど個人的な感じでは初恋よりお花のほうが好きだから…
うわ、めっちゃ切ない回だった……。イタリアが「俺って最低だ」って自覚しながらも、ドイツに神聖ローマの面影を重ねちゃう苦しさが痛いほど伝わってきた。最後に「別れない?」って切り出したシーン、勇気要ったろうな。でもドイツも最初から気づいてたってのがまた深い…。お互い優しさでズルズル引きずっちゃう関係、リアルで辛いわ。イタリアの懺悔、ちゃんと届いてるよ😢