日常・非日常②

樋口志奈子騒動も収まり、静かな毎日。渡辺もちゃんと食べるようになった。味も分かるし美味しいと言う。今夜は焼肉な？と朝出て行き帰りは渡辺の方が早かった。待っても目黒が帰って来ない。目黒のマネージャーに電話で確認したら、いつものスーパーで下ろしたと言われる。

渡辺ー目黒…。

その頃、目黒はスーパーの袋を持ち高級車の後部座席に座っている。渡辺が待っているんだけどなぁと思いながら。

最近、気が付いたことだが、厄災は、渡辺だけにやって来るわけではない。目黒にもやって来る。

今がそのときで、車は大きな門を潜り、立派な屋敷内に消えて行った。

渡辺は不安な夜を過ごす。

マネージャーに、電話が通じない。LINEも既読が付かない。と言ったところ、会社が捜索してくれることになった。ただ、警察には言わないとのことだった。

渡辺ー照、目黒が消えた。

岩本ーどういうこと？

渡辺ー連絡付かないし、帰って来ない。

岩本ー会社は？

渡辺ー探してくれてる。

岩本ーそっちへ行こうか？1人だと心細いだろ？

渡辺ー大丈夫。

佐久間ー翔太、無理するな。

渡辺ー佐久間…。

佐久間ーお前、明日は？

渡辺ー休み。

岩本ー目黒は？

渡辺ー久しぶりの休み。

佐久間ーついてないなぁ。

岩本ーでも、仕事に穴開けなくて良かったけど。

渡辺ーん。

岩本ーとにかく今から大介と行くから。

渡辺ー分かった。

その頃、目黒は屋敷の主人と話をしていた。今いる会社を辞めて、自分の持っている芸能事務所に来ないかと言う。

聞いたことがない事務所名。

しかも、仕事内容は、アダルトビデオの製作。

主人ーどうかね。

目黒ーお断りします。

主人ーもう少し鍛えて肉を付けて…

目黒ーだから、お断りします。食べても、太れないし筋肉も付かないし。

主人ーうちの娘が、その顔を気に入ってるんだ。

目黒ーそう言われても、今のところ会社を辞めるつもりはないし、グループを抜けるつもりもありません。

主人ー娘に会ってくれるかね。今、婚約者が来て一緒に、君のDVDを観てる。

目黒ーいや、肉がだめになる前に、帰ります。

話は平行なまま。目黒はまだ帰してもらえない。

渡辺の元に、岩本と佐久間がやって来た。

岩本ー翔太、何か食べたか？

渡辺ーううん、目黒もまだだと思うから。

佐久間ー何か、思い当たることは？

渡辺ーない。マネージャーさんから、連絡が来て、高級車に乗り込むところをスーパーの人が見てたって。

岩本ー何かに巻き込まれてる？

渡辺ー分かんない。

佐久間ーコーヒー淹れるな？

渡辺ー2人とも、明日は？

岩本ー俺たちは大丈夫だから気にするな。

佐久間ーほい、コーヒー。

渡辺ーありがと。

3人いても静かな家。依然、目黒からは連絡はない。

時間が進むたびに、渡辺の顔色が悪くなっていく。とうとう日付が変わってしまった。

倒れそうな渡辺。そっと、ソファに横たえる。

目黒は、この屋敷の娘に会っている。屈強な男が婚約者らしい。

娘ー細いわね。顔はいいけど、身体がひょろひょろだわ。

目黒ーあなたの期待には応えられないでしょう？帰らせてください。

娘ーこの人も、最初はあなたみたいだった。鍛えたらこんなになるのよ。

目黒ー遠慮します。

娘ー父は知らないことだけど、あなた、男と暮らしているわね？

目黒ー…。

娘ー最近は、そっち系のビデオも作っているの。あなた、出てみる？

目黒ーだから、遠慮しますから。帰らせてください。

娘ーどうしても？

目黒ーはい。

娘ー今より高いギャラを払うわ。

目黒ー金銭的には困ってません。今の生活で満足してます。

娘ー乱暴なことは、したくないわ。交渉は決裂ね。帰っていただいて結構よ。

目黒ーありがとうございます。

あっ、うちの者に手は出さないでくださいね。

娘ーもう、関わらないわ。送りましょうか？

目黒ーいえ、タクシーで帰ります。

目黒が円満に帰ることになった頃。とうとう渡辺は起き上がることが出来なくなった。

そこへ、待望の目黒から、連絡が入る。

目黒ー翔太くん？

佐久間ー倒れてるよ。どうした？

目黒ーちょっと厄介な家にご招待された。

佐久間ー翔太に代わる。

渡辺ーめ…ぐろ…。

目黒ー心配させたね、大丈夫だから、今タクシーで帰ってる。

渡辺ーんっんっ…んっ…。

岩本ー後どれくらいだ？

目黒ー20分ほど。

岩本ー翔太が限界だから、急いで帰って来い。

目黒ー2人とも付いててくれたの？

岩本ー会社に連絡しておく。マネージャーさんにも。

目黒ーありがと。

目黒が帰って来た。

玄関で、岩本と佐久間に事の経緯を話し、礼を言い帰ってもらった。

目黒ー翔太くん！

渡辺ーんっんっ…んっ…。

目黒ー起き上がること出来ないの？

渡辺ーんっ…。

目黒ーごめんね。俺は大丈夫だから。心配させて、ごめんね。何か食べないと。

渡辺ー目黒も、食べてないだろ…。

目黒ーたまご粥作るよ。一緒に食べよう？

横になっている渡辺に、覆い被さりキス。きつくしがみついて来る。

渡辺ーたまご粥食べる…。

目黒ーん、作るから待ってね。

渡辺ー何があった？

目黒ー別の事務所に引き抜き？もちろん断ったけど。

渡辺ーそれだけ？

目黒ーん、暴力的なことなかったし、こうやって帰らせてくれたし。大丈夫だよ。

渡辺ーんっんっ…んっ…しんぱ…いした…こわかった…。

目黒ー翔太。大丈夫。ちょっとでもいいから、食べてね。

2人で、出来たての、たまご粥を食べる。

渡辺には目黒が食べさせている。

目黒ー厄介事は、翔太くんだけじゃないね。俺にも、やって来た。

渡辺ー負けない。

目黒ーん、負けない。

渡辺ーごめんな、弱くて。

目黒ー翔太くんは弱くないよ。

渡辺ー何も出来なくて…。

目黒ー2人で、引っ付いて、寝よう？

渡辺ーんっ…。

目黒の腕の中。安心した顔で眠る渡辺。今回の件、渡辺の知らないことは、あるけど、言わない。不安にさせる必要はない。目黒も、努めて忘れるようにしようと決めた。