テラーノベル
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藤白りいな…お転婆で学校のマドンナ。天然で、先輩や後輩など学校のほぼすべての人が名前を知ってる。
海と仲が良いが、最近結構意識してる
天童はるき…ツンデレの神。りいなのことが大好きだが、軽く、好きなど言えない。嫉妬深い。
男子と仲のいいりいなが誰かにとられないかと心配してる。海に嫉妬中!
佐藤海(かい)…りいなのことが昔から好き。りいなと好きなど軽く言い合える仲。
結構チャラめ(?)デートなどはゲームだと思ってる
月下すず…美人だがなぜかモテない。はるきと海の幼馴染。りいなのことは好きだが、嫉妬中(?)
はるきと海のことが気になってるが、どちらかというとはるきのほうが好きらしい(?)
放課後、チャイムが鳴ったあと。教室がざわつく中で、りいなと海は遠くから目を合わせるだけ。 すずが隣の席で「今日、放課後寄り道する〜?」って喋ってても、りいなの耳には海の仕草ばっかりが響いてる。
海はいつも通り、窓際の席にぼんやり座ってる。 でも今日、机の端に“誰か宛て”の小さなメモが置かれてる。 ペットボトルのキャップに紙を巻きつけて、封筒みたいにしてあって、 見つけた人じゃないと開けられないような、ささやかな工夫。
秘密基地から届いた伝言🫧
りいなの声、朝の枕にも残ってた。
次は、昼も夜も独占したい。
——お昼休み、体育倉庫の前で。
p.s. 焼きそばの匂い、まだ好き。
文字の端っこには、海がこっそり描いた焼きそばの落書き。 「なんで絵までつけるの〜っ」と笑いそうになりながら、 りいなはキャップをぎゅっと握りしめて、自分の机へ。
りいなは手紙を小さく折って、 焼きそばの絵にちょっと対抗するように、自分は“星のマーク”を描いて、 体育の時間、海のカバンのサイドポケットにすっと差し込む。
中にはこう書いてある。
🫧秘密基地から返事✉️
焼きそばの匂い、あたしも嫌じゃない。
お昼休み、体育倉庫の前で…本気で待ってるから。
p.s. 独占はうれしい。でも、手をつなぐ時間ももっとほしい。
――りいな
ノートじゃなくて、LINEじゃなくて、 紙と落書きだけで綴る恋。
すずは「なんでさっきからニヤけてるの?」って言うけど、 りいなはキャップをポケットにしのばせたまま、笑って「べつに〜」って返す。
でもポケットの中では、恋の続きを読む準備が、ちゃんとできてる。
昼休み。校庭に響くボールの音、友達の笑い声。 でも、りいなはそっと廊下を抜けて、校舎の裏へ向かう。 体育倉庫の前——古びたドアがひとつあるだけの、静かな空間。 そこには…海がもう立ってた。
海は笑って、りいなの手をそっと取る。 「周りにバレないようにって言ったけど、俺、もうちょっとバレたいかも」 りいな:「なにそれ…照れてるだけじゃん」って言いながらも、顔がほころんでる。
りいなが壁際に寄ると、海は自然とその隣に立って、 肩がふれて、腕がふれて、それだけでもう呼吸が深くなる。
海が髪の先にそっと指を通して、「今日も、秘密基地の匂いがする」 りいな:「ちょっと…昨日のこと引きずってるの?」 海:「昨日が好きすぎたから、もう一回くらい…キスしてもいい?」
りいなは目を細めて、「昼なのに?体育倉庫の前で?」って言うけど、 逃げる気はない。むしろ、くっつく気満々の顔。
海が顔を近づけて、りいなは目を閉じる。 ドアの向こうでは、靴の音とか誰かの笑い声とか聞こえるけど—— ふたりには、キスの音しか届かない。
唇がふれる瞬間、りいながふっと笑って「…やっぱり昨日より好きになってる」 海:「俺も。昼休みなのに、ここが一番落ち着く」
海:「次のメモはどこで受け取れる?」 りいな:「次はね…給食の牛乳の下。バレたら終わりの作戦だけど」 海:「最高にドキドキするね」
ふたりは軽く肩をぶつけ合って笑って、 チャイムが鳴る直前に、そっと手を離す。
でもその手には、次の“伝言キャップ”がしっかり握られてる。
昼休み。教室はざわざわしてるけど、りいなの視線は一瞬だけ、海の机の横に注がれる。 そこには、ペットボトルキャップを使った例の“伝言メモ”。 りいなが朝こっそり差し込んだやつ。星マークの落書き入り。
でも——そのキャップに、すずの手が伸びかけてる! 「なにこれ?かわいい~!誰の?」って好奇心MAX。
りいな:「あ!それ、図書委員用の…えーと、連絡メモ!ちょっとした活動報告!」 すず:「図書委員ってそんなおしゃれな伝言回してるの?」 りいな:「うちの班だけの秘密ルールってことで!」 すず:「りいな、なんか最近そういう“秘密多め”になってきたよね〜」
海の方を見ると、彼も遠くから一瞬だけ目を見開いて、 「今、心臓止まりかけた…」って口パクで伝えてくる。 りいなはポケットの中でキャップをぎゅっと握って、 “秘密の回収、無事成功”の合図をそっと返す。
放課後。人目を避けて、ふたりだけの密会。 りいな:「ねぇ…キャップ、バレそうだった。焦ったよ」 海:「すずの好奇心、ほんと時限爆弾みたいだよね」 りいな:「今度から、ペットボトルじゃなくて折り紙にする?」 海:「いや、それって逆に目立つって」
ふたりでキャップを覗き込みながら、 「この“好き”って気持ち、どうやって隠す? でも、隠してる間も、もっと強くなっちゃうじゃん」って話し合う。
りいなは照れ笑いしながら、 「隠してる恋ほど、見つかった時にドキドキするっていうしね」
だからこそ、次のキャップには、こんなメッセージを仕込んでみる
🫧”もしバレたら”のための予行練習💌
すずが開けても大丈夫な、仮の文面:
『体育の用具貸し出しについての報告です。昨日はマット5枚、鉄棒パッド2枚使用しました。』
でも、星マークが付いてたら…
それは、“ほんとうの気持ち”入りだから、君しか読んじゃダメ。
——次は、校庭の片隅で。
昼休みの帰り道。 はるきは海に向かって、わざと何気ない声のトーンで聞いてきた。
「昨日、お前んち寄ろうと思ったんだけど…海くんいなかったって言われたよ」 海が一瞬言葉に詰まって、「あー、えっと…ちょっと用事あってさ」って目を逸らす。
はるきはニコニコしてるけど、目がぜんぜん笑ってない。 「ふーん。泊まりで?誰んちに?」
そして…爆弾投下。 「もしかして、りいなの家にでも泊まってた?」
心臓が跳ねる。顔が熱くなる。キャップメモどころじゃない。 “秘密基地”が急に、誰かに踏み込まれそうな感じ。
海:「はるき…なんで、そんなこと気にしてんの?」 はるき:「いや?ただの興味。…でも、お前、いつもよりちょっとニヤけてるし」 海:「は?」 はるき:「うん。なんか、昨日の夜で変わった?」
すず:「え、顔赤いけどどうしたの?」 りいな:「な、なんでもない!ほんとに!」って声がひとオクターブ上がる。
机の中のキャップメモを握りしめながら、りいなは思う。 ——この恋、隠しててもバレてくる。 ——でも、バレそうになるたびに、もっと“好き”が濃くなってる。
放課後の教室。ざわざわと椅子を引く音のなかで、ひとりだけ別の空気をまとってる男子がいる。 はるき。誰よりも静かで、誰よりも鋭いその目が、いま——りいなと海を順番に見つめている。
はるき:「で、さ。昨日。海んち寄ったらいなかったんだけど」 海:「あー、ちょっと買い物とか…外出てたかも」 はるき:「何時間?」 海:「え、そんな正確に覚えてないって」 はるき:「ふーん。でも、夕方にはもう戻ってたって親が言ってた。誰んちにいた?」
りいなが遠くの席でその会話を聞いていて、ペンを持つ手がピタッと止まる。
次の日。はるきはわざとすずとりいなの席近くで雑談を始める。 はるき:「昨日、すずの家で遊んでたんだっけ?」 すず:「え?うちは昨日いなかったよ」 はるき:「へぇ〜。じゃあ、りいなはどこにいたの?」 りいな:「え?家だよ、ふつうに。なんか…急にどうしたの?」 はるき:「ん〜…いや、なんとなく。最近、海とりいな、話してること多くない?」
空気がピンって張り詰まる。すずが「あれ?そう言われると…」と口に出しかけた瞬間、海が「すず、お菓子選び行こ!」と強引に話題を逸らす。 はるきは何も言わず、机に肘を置いて目を細めてる。
🧠 はるきの脳内メモ(ひとりごと)
海、いつもよりそわそわしてる
りいな、目を合わせるとちょっと照れる
キャップメモっぽいの、海の机に差し込まれてた
BBQ後の“微妙な空気”、見逃してない
「もし付き合ってるなら、なんで隠す?てか、なんで…俺だけ知らない?」
「りいな、かわいい。ずっとこうしててもいい?」
はるきが、何気ない昼休みに、教室のど真ん中で言った。 そのまま抱きついた腕は、ふざけてるようで、どこか真剣だった。
笑い声。ざわつき。 誰かが「告白〜?」と茶化す。
でも、そこで。
「何してんだよ!?」
海の声が、空気を斬った。 その瞬間、笑いはすべて止まった。
海は席を立ち、静かな怒りをまとってはるきを睨んでいた。 「ふざけてるだけなら、外でやれよ」
はるきは一歩も引かず、腕をほどかないまま言った。 「…俺はまだ、りいなのこと…あきらめてない」
海の瞳が揺れた。 その言葉には、ただの対抗心じゃない何かがあった。
りいなは、抱きしめられたまま動けずにいた。 心臓の音だけが、からだの内側で強く響いていた。
校舎の最上階。夕焼けがじわじわとガラス越しに差し込み、屋上の空気が淡く染まっていた。
りいなは手すりに背中を預けて空を見上げていた。昼休みのことが頭から離れない。
ガチャ。
屋上の扉が開いて、海が姿を現す。
「…はるき、あれ、まじだったな」
りいなは振り向かずに答えた。 「…うん。でも、それだけじゃなくて…なんか、違った」
海はゆっくり歩きながら言う。 「あいつの“あきらめてない”って、俺にはずっと引っかかっててさ。なんか…負けたみたいな気持ちになるんだよ」
りいな:「海は、諦めてたの?」
少しの沈黙。
海:「……違う。諦められないから、昼休みに声出ちゃったんだと思う」
夕焼けがふたりの顔を赤く染める。
海:「でも、俺、きっと“言わなきゃ伝わらない”って思ったから——」
りいなはゆっくりと振り向いて、その目を見る。 「……伝わったよ」
ふたりの間に、静かな風が通り抜けていった。
ガチャリ。屋上の扉が再び開く。
息を切らしたはるきが、夕陽に照らされながら階段を駆け上がってきた。
「……りいな、いると思って」
海が少し身構える。 りいなは戸惑いながら一歩後ずさる。
はるき:「ごめん、昼のあれ……思いっきりだった。でも、俺の気持ち、言わないで諦めるのがイヤだった」
海:「それで…教室の真ん中で、抱きしめるのが“思いっきり”か?」
はるき:「…違う。あれは、俺なりの“本気”だった」
空気が張りつめる。
海は深く息を吸って、りいなを見た。 「……決めるのは、りいなだ。俺も…答えを、待ってる」
はるき:「俺も、同じだよ」
三人が並んで夕陽を浴びながら、沈黙のまま並び立つ。 誰も声を出さない。誰も手を伸ばさない。
ただ、風だけが三人の間をすり抜けていった。
いつもの朝なのに、今日は空気が違った。 海はいつもより早く登校して、りいなの席にノートをそっと置いていた。 「昨日の理科の答え…写してもいいけど、間違ってるとこは話してほしい」
それは、照れ隠しの会話。けど、目はまっすぐだった。
廊下を歩くはるきは、遠くからりいなを見つけて小走りで近づく。 「りいな!昨日の屋上…あれ、ほんとに俺だったんだよ」 そう言って、無邪気に肩に手を置く。 教室前のガラス越しに、海がその様子を見ていた——。
はるき:「このお菓子、りいなの好きなやつじゃん。今日だけ特別にあげる」 海:「…あげるより、一緒に食べればいいんじゃね?」
ふたりは“気を引くバトル”みたいに、りいなの反応を探っていた。
りいなは笑いながら、けどどこかで迷っていた。 「…ふたりとも仲いいなって思うよ」
けどその言葉が“選ばない”に見えて、どちらも少し目を伏せた。
どっちも…好きな部分がある。 海の静かな優しさも、はるきの眩しいまっすぐさも。
選ぶって、誰かを手放すことになるのかと思うと怖くて。
でも、いつまでも“揺れてる”だけじゃ… どっちかが、先に背を向ける気がした。
チョークの粉が舞う夕暮れ、教室は少しざわついていた。 「ねぇ今日、転校生来るって知ってた?」
ふとした会話が空気を揺らす中、廊下の向こうから足音が響く。 ガラッ——。
扉がゆっくり開いた。
光の向こうに立っていたのは、品のある制服姿の男子。 髪はさらりと流れ、目元は涼しく、口元には柔らかい笑み。
一瞬、誰もが息を呑んだ。
「初めまして。高野透っていいます。よろしく」 声は落ち着いていて、けれど妙に印象に残る。
担任が「空いてる席は…」と説明しかけた時、透はすっと前を向き、りいなの方へ目を向けた。
「紹介してくれない?君の名前」
クラスがざわめく。りいなは少し目を見開き、立ち上がる。 「…りいなです」
「りいな。いい名前だね」
サラリと笑う透に、数人の女子が「かっこよすぎ」と小声を漏らす。
教室の隅で、海がペンをギュッと握りしめていた。 はるきは椅子に座り直しながら、ちょっとむきになった声で言った。 「透くん、そういうタイプ?早いな〜」
透は気づかぬふりで、りいなの隣の席に静かに腰を下ろした。
窓の外では風が強くなっていて、空の色も変わりはじめていた。
まるで、なにかが始まる予感みたいに——。
「りいなってさ、昼休みいつもこの席なの?」
「うん。窓側で光入るし、なんか落ち着くから」
「じゃあこの席、りいな専用ってこと?」
「ちがうけど(笑)」
「でもさ、この机、ちょっと角削れてるの気づいた?きっと落書きされてた過去があるよ」
「え、何その考察。机の過去まで語るの?」
「りいなが触れてるものには背景を感じたくなるっていうか」
「…もう透、キザ〜。昼休みの雑談にしてはレベル高め」
「いや、りいながツッコんでくれるから、つい…」
「それさ、私が笑ったら“透ポイント”上がるみたいな?」
「え、そういうゲームなの?僕めっちゃ不利じゃん。はるきくんと海くん、既に何千ポイント持ってるでしょ」
「それはどうかな〜(笑)」
りいなの笑顔は自然で、でもどこかほんのり照れていた。
廊下側の席。
海は弁当を黙々と食べながら、時折チラチラ視線を送る。
はるきは友達と話しながらも、何度も同じプリントを折り直していた。
「ねえ、さっきの…ペンの色とか言ってたやつ。透、何狙ってんの?」
「ってか、“透ポイント”とか言わせてる時点でさ。なんか…楽しそうだったじゃん、りいな」
「…楽しくなさそうだったら良かったの?」
「そういうことじゃないけど…ちょっと、気になっただけ」
言葉の奥に、揺れている何かがあった。
教室の喧騒に紛れて、目に見えない小さな焦りだけが、確かにそこにあった。
校舎の裏手、薄暗くなった倉庫の影。
「…透」
はるきの声が響く。
透は少し驚いた顔をして、ゆっくり振り返る。 「どうしたの?こんなとこで」
「りいなのことなんだけどさ」
一拍の沈黙。
「りいなは、昔から俺らと一緒にいた。クラス替えの前も、その前も。放課後に寄り道したり、文化祭の準備とか、一緒にふざけたりしてた」
透はじっとはるきを見つめながら、静かに返す。 「…そっか。いい思い出だね」
「思い出っていうか、そういう時間がずっと積み重なってるんだ。だから、お前みたいに急に現れて、軽い感じで話しかけて…なんか違うって思う」
「軽い感じ、か…僕は本気で話してるつもりだけどね」
「りいなは…透と話してると笑ってる。楽しそうにしてる。そういうの、ちゃんと気づいてる」
「でも、りいなが笑うのって、君たちといるときもでしょ?」
はるきの顔がほんの少し強張る。
「俺は、りいなの笑顔の意味を知ってる。…透は、ほんとにわかってるの?」
透は黙っていた。風が体育倉庫の壁にそっと当たる。
「俺は…わかんなくなってる。最近」
はるきの言葉は、透への問いかけなのか、自分への確認なのか。
「りいなは、俺たちの世界だったんだ」
小さな声でそう言って、はるきは透から目を逸らした。
放課後、空は少し曇っていて、風が制服の裾を揺らしていた。 海とはるきは校舎裏の並木道を並んで歩いていた。
しばらく沈黙のあと、海がぼそっと言った。 「…話したの?」
はるきの足が止まる。
「……何が?」
「透に。りいなのこと」
はるきは答えなかった。その沈黙が、すべてを語っていた。
「そっか」
海はそれ以上言わず、歩き出した。はるきも少し遅れて歩き出す。
並木の葉がさざめく音だけが、ふたりの間を埋めていた。
「俺、なんか…うまく笑えなくなってる」 海がぽつりと言う。
はるきは目を伏せたまま、静かに返す。 「俺は、透がわかんなくなってきた。…あいつの目って、全部見透かしてるみたいなときある」
「りいなが、あいつ見てる時さ…なんかちょっと違うんだよ。俺らの時と」
「……わかる」
ふたりは歩き続ける。寄り道のない道なのに、なんだかずっと遠回りしてるみたいだった。
風が強くなってきて、空がひとつトーンを落とした。
「ねえ、なんで最近ふたりとも冷たくない?」
りいなの声に、昇降口の空気が止まった。
海は一瞬目を丸くして、それから笑ってみせた。 「え〜冷たい?俺、いつだって常夏だけど?」
はるきが「なにそれ」と小声で突っ込む。
「でもさ、透と話してる時のりいなって、ちょっと違うよね。 なんかさぁ、“透フィルター”かかってる感じ?アイドル補正みたいな」
「そんなわけないでしょ(笑)」
「え、じゃあ俺にもその笑顔ちょーだい?透限定はずるいっしょ」
りいなは少し困った顔をしながらも、笑ってしまう。 「海ってほんと、ふざけてる時だけ元気」
はるきは黙ったまま、靴を履き直す動作を繰り返していた。
「でも、りいなが透と話してると、俺らの空気ちょっと寒くなる気がするのは…本音かも」
海の言葉に、りいなは少しだけ眉をひそめる。
「別に、透と話すの楽しいからって…それが理由で冷たくするのって、なんかやだ」
はるきが静かに言った。 「たぶん…俺ら、自分の気持ち整理できてないだけ」
海は肩をすくめた。 「青春ってやつはさ、感情の交通渋滞がデフォでしょ」
それでも、その“茶化し”の奥に、誰よりも揺れてる心がにじんでいた。
風が昇降口のガラスを揺らし、夕焼けが少し色を変えた。
ベンチに腰掛けて、りいなと海は並んでカルメ焼きの袋を開けていた。
「割れた…」 「俺の勝ち〜。ちゃんと膨らんだ!」
「またやるの?放課後のカルメ焼き、何回目(笑)」 「いいじゃん。昭和の香りで青春って感じ」
ふたりは笑って、ほんの少し沈黙が落ちる。
海は袋を丸めながら、唐突に言った。 「……俺と透、どっち選ぶ?」
りいなは手を止めた。 「は?」
「いやいや、深刻なやつじゃなくて。軽いやつ。…ゲームだと思って」
「選ぶって何を?」
「昼休みに話したい方、とか。一緒に歩くならどっち、とか。あと…一生同じグループLINEにいてほしい方とか?」
「それ、意外と重い(笑)」
海は少しだけ笑って、それからぼそっと。 「俺、透のことは嫌いじゃないよ。でもさ、透って…なんか全部持ってるように見えるから」
りいなは黙っていた。
「だから聞いてみたかっただけ。俺にも、“透じゃない方”としての可能性あるのかなって」
「……うん」
「うんって何、どっちよ(笑)」
「秘密。カルメ焼きもう一回成功したら、教える」
海は「え〜ずるっ!」と笑いながら、でもちょっとだけ照れていた。
「俺と透、どっち選ぶ?」
海の声は、カルメ焼きの袋のカシャリとした音に紛れて少し掠れていた。
りいなはその言葉に、「は?」と返したものの、すぐには笑えなかった。
「いやいや、ゲームだって。そんな深刻な顔しないでよ」
海は笑いながら、ベンチの上で紙くずになったカルメ焼きの袋を丸める。
「りいなって、透と話してるとき、ちょっと違うんだよな。笑い方とか声のトーンとか」
「違うって…いい意味?悪い意味?」
「どっちかって言われると…ちょっと、羨ましいって感じ?」
海の目は夕焼けの色を反射して、冗談っぽさにほんの少し切なさが混じっていた。
「俺さ、透みたいに急に“空気持ってくタイプ”じゃないし。割とずっと教室の“隅”でボケてる感じじゃん?」
「でも、それが海っぽくて好きだよ」
「そんなん言われたら、透に勝てる気するじゃん。…とか言ってみたり?」
りいなは笑って、小さく肩をすくめた。
「海って、ふざけながらずっと本音混ぜてくるから、たまに反応困る」
「じゃあ、反応しなくていいよ。答えは秘密で。俺は、“選ばれない側”に慣れてるから」
「そんな言い方、ずるい」
りいなはそう言って、ほんの少しだけ視線を落とした。
海はベンチから立ち上がり、伸びをした。 「よし、じゃあ俺は“透とりいな”ペアの応援団にでもなるか〜」
「…ねえ」
「ん?」
「“選ばない”って、選ばないことが悪いわけじゃないよね?」
海は、少しだけ止まって、笑う。 「いいね、それ。哲学かも。選ばない自由ってやつ?」
「そう。“選びたい気持ち”も、“選ばれたい気持ち”も、まだちょっと宙ぶらりん」
「じゃあ、とりあえずカルメ焼き第4ラウンドな。空中戦で」
夕焼けはさらに赤く染まり、ふたりの影が並んで長く伸びていた。
ベンチに残された袋の破片だけが、静かに風に揺れていた。
自販機の灯りが、歩道にぼんやりと広がっていた。 海は缶コーヒーを片手に、はるきの隣に立っていた。
空には雲が少し流れていて、蒸し暑い夜風が制服のすそをなでる。
「……透って、なんかすごいよな」 はるきがぽつりと言った。
「あー、わかる。会話の呼吸とか、“入り方”上手いし」
「それもだけど、りいなの反応、全部計算済みみたいなときあるじゃん」
海は缶を傾けながら笑う。 「まあ、俺らの“間違ったボケ”にも優しいけどな」
はるきは、缶のラベルを指でなぞりながら、少し間を置いて言った。
「俺さ…りいなのこと、好きだったんだと思う」
海の手が止まる。
「……だった?」
「いや…今も、なのかな。でも透が来る前は、そんなにはっきり考えてなかった」
「透が来たから気づいた感じ?」
「うん。透を見てるりいなの目が、ちょっと違う気がしてさ。悔しいとか、じゃなくて…なんか“自分のポジション”急にわかんなくなった」
海は口元をゆるめて、静かに返す。 「俺、“りいなの笑い方”に対して勝手に自分ルール作ってたかも。俺のボケにはこう返してくる、みたいな」
はるきは鼻で笑った。 「その自分ルール、透に乱されてるな」
「うん。でも、それってさ、俺らがどれだけ“りいなに触れてきたか”の証拠でもあるよな」
はるきは少しだけうなずいた。
「りいなは、“笑ってる時”が一番本音っぽい。でも、その笑顔の理由が自分じゃなくなるって、…ちょっと切ない」
海は空を見上げた。 星は見えないけど、広がりだけは確かにそこにあった。
「まあでも、透がいるこの状況って、悪くない気もするよ」
「なんで?」
「俺ら、自分の気持ちにちゃんと向き合うタイミングもらったってことじゃん。…透、空気読んでくれるなら、俺らのターンもくれるかもよ」
はるきは思わず吹き出す。 「お前さ、茶化してんのか本気なのかわかんないけど、ちょっと救われたわ」
「俺は、“自分じゃないときのりいな”も好きかもな」
夜風がすこしだけ涼しくなって、ふたりの間に言葉じゃない安心感が流れ始めていた。
りいながまだ鞄からノートを出していると、 透は、彼女の机の端に手をかけて静かに言った。
「昨日の笑顔さ、俺のじゃなかったのが悔しかった」
「え…?」
「海くんといる時の、あの顔。俺にも見せてよ」
透は声を落として、でも強く、りいなの目を逃がさない。
「…じゃあ、透もカルメ焼きする?」
「カルメ焼きが見たいんじゃなくて、君の“楽しんでる顔”が欲しい」
りいなは、軽く笑った。
「透ってさ、こういうとき攻めてくるから、びっくりする」
「じゃあ、もっとびっくりさせていい?」
「…どんな?」
透は一歩、机に身を寄せる。
「次の昼休み、俺とだけ話して。“りいな専用の時間”にしてよ」
「…それ、“俺と透どっち選ぶ”って海が昨日言ったばっかだよ」
「それなら、俺は“選ばせる側”でいい」
りいなは頬を赤くしながら、ペンを持った手に力が入る。
「でも私、“誰も選ばない”って決めてたんだけどな」
「それなら、“選ばれようとする努力”はしていいでしょ?」
透の声は甘くて、でもまっすぐだった。
廊下の足音が近づいてくる。 でも、ふたりの空気はまだ、誰にも割り込まれていなかった。
りいなと透は、中庭のベンチに並んで座っていた。 木漏れ日が揺れていて、ふたりだけの空間がふわりと包まれていた。
「今日は逃げなかったね」 透の声は軽くて、でも目だけは真剣だった。
「約束したから」
「うん、うれしい」
りいなは目をそらして笑う。
遠くの階段の影で、海が自分の昼食を持ったまま立ち止まっていた。 視線はずっと、透と話すりいなに向いている。
「……なんで笑ってるの」
海は自分に問いかけた。 透の横顔を見ながら、りいなの笑顔の意味を探そうとしていた。
隣ではるきが来て、黙って海の横に立つ。
「見てた?」
「見てる」
「…あいつさ、わざと距離詰めてるよな。うまく言葉選んで、入り込むタイミング作って」
「透は…“自分にしか見せられない顔”を、りいなから引き出そうとしてる」
「でもさ…俺らも、ずっとそうやって来たのに」
海は弁当を開けることもなく、俯きながら呟いた。
「あの笑顔、俺じゃない時のだ」
はるきは眉を寄せて、風の音を聞いていた。
「こんな時さ、どうしたらいいんだろ。止めたくなるけど、止める理由が見つかんない」
「それってさ…好きだからじゃん」
はるきはその言葉に、静かに息をのんだ。 中庭の木陰、りいなは透の言葉にまた小さく笑っていた
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