テラーノベル
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藤白りいな…お転婆で学校のマドンナ。天然で、先輩や後輩など学校のほぼすべての人が名前を知ってる。
海と仲が良いが、最近結構意識してる
天童はるき…ツンデレの神。りいなのことが大好きだが、軽く、好きなど言えない。嫉妬深い。
男子と仲のいいりいなが誰かにとられないかと心配してる。海に嫉妬中!
佐藤海(かい)…りいなのことが昔から好き。りいなと好きなど軽く言い合える仲。
結構チャラめ(?)デートなどはゲームだと思ってる
月下すず…美人だがなぜかモテない。はるきと海の幼馴染。りいなのことは好きだが、嫉妬中(?)
はるきと海のことが気になってるが、どちらかというとはるきのほうが好きらしい(?)
藤堂透…りいなに一目ぼれした。イケメン転校生。海と同じようなタイプで、さらっとドキッとなるようなセリフを言ってくる。
はるきと海に嫉妬されてる。(笑)
「すずの髪、今日すこし巻いてる?」 はるきがふざけ気味に言うと、すずは照れながら「ちょっとだけね」と返した。
「りいな、このプリントなぞなぞっぽい。読んでみてよ!」 海は笑いながら、わざとらしく紙を差し出す。
りいなは「もう〜、授業中に真面目に見なかったくせに」と言いつつ、楽しげな声で読み始める。
わちゃわちゃした空気に、ゆるやかな笑い声が重なる。 教室の夕方は、静かだけどちょっとだけ特別な時間。
そこへ——
「いいね。君たち、ほんと仲いい」
ガラリ。
教室のドアが開いて、透がゆっくり入ってくる。 制服の袖をまくり、手には何かしらのお菓子の袋を握って。
「ちょうど差し入れ持ってきたんだ。“透ポイント”稼ぎに来たってやつ?」
りいなが「あっ…透」と言った瞬間、場の空気が一瞬止まる。
「透くん、それ強引すぎじゃない?」 はるきが少しだけ笑いながら言うけど、その目は曇っていた。
「タイミング見て割り込むの、僕の得意技なんだ」 透は冗談めかして言うけれど、その視線はりいなに向けられたまま。
すずは気まずそうに、海の方を見て「…お菓子食べる?」とささやいた。
海は袋を受け取るでもなく、透の背中を見つめていた。 「あいつ、“仲いい時間”壊しに来る時あるな」
「りいなにだけ、話しかけたいんじゃない?」
その言葉に、海は答えず、目を伏せた。
りいなは透から差し出されたお菓子を受け取りながら、小さく微笑む。
はるきが、ちょっとだけ深く息を吐いた。
教室の夕日が差し込んで、机の影がゆっくり伸びていた。 透が割り込んできたことで、何かが確かに揺れていた。
「すず〜、そのキャラに名前つけようよ。俺、命名センスあるから!」 はるきがふざけながらすずのノートを覗き込むと、すずは笑いながら「絶対変な名前つけるでしょ」とツッコミを入れる。
透は窓辺の席で、みんなの会話に耳を傾けながら、ノートをゆっくり閉じる。 「なんか今日、元気だね、みんな」 「透くんが静かすぎるだけじゃない?」とすずが笑う。
海はふとりいなに近づき、彼女の髪の横についた小さな紙片を指でとる。 「ん、紙くず。りいな、掃除サボった?」 「は?サボってないし…てか、近いよ!」 りいなは笑いながら身を引くが、海はにやりと笑うだけ。 「近いのは今に始まったことじゃないでしょ?」
はるき:「海、ずるいなぁ。ボディータッチでポイント稼ぐのは禁止だろ」 海:「俺は“素”でやってるだけだもん」 はるき:「俺だって“素”で言ってるけど。“りいな、今日の髪型めっちゃ似合ってる。横顔、ドキッとしたわ」」
りいな:「え、ちょっと…やめてよ、何その言い方」 はるき:「本気で思ったから、言っただけだよ?」 海:「俺も、今日の服似合ってると思うよ。“かわいい”って言うの、照れてたけど」 りいな:「照れてないしっ!」 顔を赤らめてうつむくりいな。海は肩越しに彼女を覗き込み、はるきは机を挟んでじっと視線を送る。
透はそのやりとりを目で追いながら、ペンのキャップを強めに閉じた。 すずはそっと透の隣に座ると、小さな声で囁く。 「ねぇ透くん、ちょっとだけ…悔しい?」 透は数秒沈黙したまま、窓の外の夕焼けに目を移した。 「…いや、ただ、ちょっと自分が透明になってる気分」
はるき:「てかさ、りいなはどっちが好きなん?海みたいなスキンシップタイプか、俺みたいに褒め言葉投げるタイプか」 海:「答えは…CMのあと、かな?」 りいな:「もうやめてよ〜、透くんとかすずにも聞こえてるし!」 笑いながら頭を抱えるりいな。その姿に、透は少しだけ微笑み、 すずは何も言わずにプリントをたたみ始めた。
「なあ、りいな。この髪留め、昨日雑貨屋で見つけたんだけどさ、つけてる姿勝手に想像しちゃって買った」 海がりいなにぐっと近づきながら、手にした小さな髪留めを見せる。その指先が、自然にりいなの髪の横に触れる。
「ちょっ…何してんの!?」 「似合いそうって思っただけ。プレゼント。受け取って?」
はるきはその様子を見て、ニヤッと笑う。 「海、やるね〜。でもさ、りいなって髪留めより言葉の方が似合うと思うんだよね」
「言葉?」 「例えば、『今日の笑顔、俺の一日を完璧にしてくれた』とか」 「は?なにそれ…」 「だって、本気だし。俺、りいなの笑顔が見られるなら何回でも負ける」
海:「言いすぎ、嘘くさ〜」 はるき:「真実って、たまにドラマみたいなこと言いたくなるんだよ」
りいなは2人の言葉に笑いながら困った顔をする。 「からかわないでよ…ほんと」
透は窓際に静かに座ったまま、ノートを閉じた。 すずがその隣で気づく。透の手が、ほんの少しだけ震えていた。
透:「……ねえ」 声は低く、けれど教室の空気がピンと張る。
「ふたりとも、すごいよね。海は触れて、はるきは言葉で揺らす。でもさ」 全員の視線が透に向く。 彼はゆっくり立ち上がって、りいなを見た。
「俺が、りいなの“何気ない日常”の中にいたことだけで、嬉しかったんだ」
「…笑ってくれるとか、話してくれるとか、そこにいてくれるとか。それだけで、俺には十分で」 「でも、今日みたいに、誰かに“奪われそう”って思ったら……」 「こんなに、心臓って痛くなるんだね」
りいなは何も言えず、透の目を見返す。 海もはるきも、それ以上言葉を返せず、それぞれのペースで視線をそらす。
すずは小さく呟いた。 「……透くん、いちばん、ほんものだったね」
教室の窓の外、夕陽が差し込んで、透の横顔が淡い茜色に染まっていた。 その光の中で、りいなはふと、自分の胸がきゅうっと鳴るのを感じた。
海:「りいなってさ、誰かといるとき、ちょっと笑うのが早くなるよな」 はるき:「それな。俺、昨日の放課後もそうだった。俺の冗談には0.8秒で笑ってたし」 りいな:「何それ…測ってたの?」 はるき:「だって、その一瞬で、俺は一週間分の元気出たから」
海:「てか俺、りいなの笑顔で春くらい来たもん」 はるき:「じゃあ俺は、夏休みくらい来たかな」 りいな:「意味わかんないってば〜」
2人のやりとりに笑いながら困ってるりいなの横で、透はずっと黙っていた。 机の端に置かれたノートの隅を指でなぞりながら、小さな声で漏らした。
透:「……ねぇ」
海:「ん?」 透の目は、りいなを真正面から捉えている。その瞳には、いつもと違う熱があった。
「俺さ、今日ずっと、心がうるさくて困ってた」
はるき:「うるさい、って?」 透:「海の言葉も、はるきの言葉も、りいなの笑顔も——全部、自分には関係ないって思いたかったのに。どんなに目をそらしても、耳が勝手に覚えてる」
「“隣にいる”って、こんなに羨ましいんだって。初めて知った」
すずがその言葉に顔を少し伏せながら、静かにりいなの方へ歩く。 りいなの肩にそっと触れて、耳元で囁いた。
「——ねえ、誰の隣で、いちばん息がしやすい?」
りいなは、驚いたようにすずの目を見た。 すずは、にこりともせず、ただやさしくまっすぐ。
教室の中、風が一度だけカーテンを揺らす。 その音が、誰の心にも届いた。
海もはるきも、黙って視線を落とす。 透は自分でも戸惑っているような顔で、でも後悔していない目をしていた。
そしてりいなは、息を吸い込みながら、ゆっくりと視線を戻す。 向けた先は——3人じゃなく、窓の外。夕焼けに照らされた、青い空のほうだった。
はるき:「じゃあさ、ゲームしよう。勝った人が、りいなと——」 海:「何かできる、ってやつ?」 はるき:「うん。例えば一緒に帰るとか、お気に入りの曲共有するとか」 海:「え、もっとキュン寄りのお願いでもいいでしょ?髪触っていいとか」 はるき:「いやいや、りいなの心臓がバグるやつは禁止!」
透:「……本気だね、ふたりとも」 すず:「始まったね、男子の“勝てば正義”ゲーム」
海:「じゃあ、“指スマ”で決着つける?」 はるき:「勝負は一回。りいながジャッジね」
りいなが見守る中、3人が指スマを始める。空気はふざけてるようで、目つきだけは鋭い。
海:「指スマ、せーの!」 指は3本。 はるき:「指スマ、せーの!」 指は2本。透が残った。
教室の空気が一瞬止まる。
すず:「……え、勝ったのって」 はるき:「透じゃん…」 海:「まじか」
透は驚きながら、みんなを見回す。 りいなは、少しだけ笑って、「じゃあ、お願い考えて?」と言う。
透はしばらく沈黙してから、そっと言う。
「……じゃあ、俺のお願い、言ってもいい?」 透は、自分が勝ったことにまだ信じられないような顔をして、ゆっくりと立ち上がった。
りいなは、少し照れながら「うん」と頷く。 海とはるきは、おどけたように「こっちの負けか〜」と肩をすくめるが、少しだけ複雑な目をしていた。
透:「お願いって言っても…えっと…変なやつじゃなくて」 透は、言葉を探すようにして、ふとりいなのそばまで歩いてくる。
「今日のこと、俺、たぶん忘れたくないから…」 「……りいなの手、ちょっとだけ、握ってもいい?」
空気が一瞬静まり返った。
「別に…そんな強く握らないし。ほんの、3秒くらい」 「その3秒で、俺、たぶん人生分くらいの勇気、補充できる気がするから」
りいなは、一瞬だけ目を見開いたまま、黙って透を見つめる。 その視線が、断らないことを意味すると気づいた透は、ゆっくりとそっと手を差し出す。
透がそっとりいなの手を握った。 静かに重なった手は、温度が混ざるよりも先に、鼓動の数だけ時を刻んでいた。
海とはるきは黙って見守りながら、視線を少しだけ逸らす。 すずは、ほほえんではいるけれど、その目に浮かぶのは“まっすぐな余白”。
3秒後、透は指先に力を入れずに、そっと手を離した。 「……ありがとう、りいな」
りいなは笑いながら、でも、ほんの少し目線を落として、 小さな声で——ほんとうに、小さな声で呟いた。
「……ほんとは、もうちょっと長くてもよかった」
透の目が揺れた。りいなを見つめながら、何も返さず、ただ息を飲んだ。
海:「ちょっと待て、今の、それ、聞こえた俺らの負け感すごくない?」 はるき:「次こそ勝つからな、透!」 海:「りいなの手、俺もそれくらい、やさしく握れるし!」
2人は笑ってそう言い合う。でもその笑いに混ざる、ほんの微かな悔しさ。 りいなは、そんな2人を見て「だから、ゲームって面白いよね」と笑うけれど——その言葉の奥には、“選ばれなかった優しさ”への敬意も隠れていた。
みんながそれぞれ荷物をまとめていたとき、透はまだ席に座ったまま、手元のノートをぼんやり見ていた。 すずが近づいてきて、そっと自分のカバンのチャックを閉めながら言う。
「……透くん、勝ったね」 「うん……びっくりした」
すず:「でも、お願い……ちょっと、よかったよ」 透は、苦笑いしながら、でも目がまだどこかうるんでいる。 指先を見つめるようにして、ぽつりとこぼした。
「……りいなの手ってさ、思ってたより安心感あって……離したくなかった」
「握った瞬間、なんか……家に帰ったみたいな感覚だった」
すずはその言葉に驚いたように目を開き、けれどすぐに柔らかく笑う。 「それ、直接言ったら強すぎるね」 「うん、だから……すずにしか言えなかった」
教室の窓の外では、みんなの声が少しずつ遠ざかる。 透は、一度だけりいなの方を見た。でも、りいなは海とはるきに笑いながらツッコんでいた。
すずは、透の横にそっと座り、目の前の机に指でなぞって書く。 “安心感って、実は一番ずるい。”
透:「……俺、ずるかったかな」 すず:「ううん、“必要な言葉を必要な瞬間に言える人”って、ずるく見えるだけで、本当はすごくまっすぐだよ」
透は、ほんの少しだけ笑って、ノートに自分のペンで書き足した。 “ずっと隣にいたくなる人”——その一行だけ。
「りいな、一緒の班になろうよ!」 「オレも!てか、りいな中心の班にしてくれたら、何でも従う!」 「俺、自由行動ずっとついてくよ!」
教室の前の席で、りいなは笑いながら「ちょっと待って〜」とプリントを抱える。 でも男子たちは次々に声をかけてくる。まるで人気アイドルの囲み取材。
すずが後ろから小声で「りいな、モテ期きたねぇ」とささやく。 りいな:「もう…ほんとにどうすればいいの…!」
「海くん、班一緒にしよ?」 「はるき〜絶対うちらと組んだほうが楽しいって!」 「透くんも空いてるなら、私たちと…」
海は軽く笑いながら「うん、ありがと。でも…俺、組む人決めてるから」とさらっとかわす。 はるき:「俺も〜。ターゲット、りいななんで」 女子:「えっ!」
透も優しく微笑んで、「あの人と一緒の班じゃないと…落ち着かないんだよね」 女子たちは驚きつつも「なるほどね…」と納得の表情。
海:「モテてるね、りいな。囲まれてるの見てたよ」 はるき:「俺たち、逆に女子に囲まれてた。まるでアイドル逆転現象」 透:「でも、やっぱり…君がいい。班、空いてるなら組もう」
りいなは驚いた顔で3人を見て、「え、3人とも…?うそ、ほんとに…?」 海:「もちろん本気」 はるき:「昨日の“手握り事件”から、もう覚悟してる」 透:「班決めっていうか…一緒に過ごすって意味だから」
周りの男子たちは「なるほど…本命か」と悔しそうにつぶやきながら、静かにプリントに名前を書き始める。
すずは、にやりと笑いながらりいなの横に腕を組んで言う。 「マドンナも、ちゃんと“選ばれた”ね。いや、“迎えに来られた”って感じかな」
「それでは、バス座席決めまーす!班の中から、隣同士のペアを事前に申告してください!」 教室がざわっと揺れる。ふざけモードだったはるきも、急に真顔になる。
はるき:「え…先に決めるの?その場のノリじゃないの!?」 海:「終わった…ノリの神、仕事させてもらえない」 透は少しだけ目を伏せながら、静かにプリントを見つめてる。
すず:「りいな、誰と隣になる?」 りいな:「え、まだ決めてないよ…」
すず:「選ばないと、選ばれちゃうよ」 りいな:「選ばれ…ちゃう、って何?」 すず:「ふふ、つまり、海とかはるきが動き出すってこと」
海:「なあ、りいな。座席、隣にしようよ。肩貸すよ、寝たい時とか」 はるき:「ちょ、それ俺も言おうとしてた!てか、窓側で寝顔見守り係したい」
海:「お願い、俺の右隣、空けといて」 はるき:「俺の左隣の方が日当たり良いよ?」
りいな:「ちょ、待ってってば〜〜〜!!」とプリントを抱えながら逃げる。
すず:「…なんか、りいなめちゃくちゃ“挟まれてる”感じの席になってない?」 りいな:「え、うそ…ほんとだ…ちょっとこれ、誰が決めたの!?」 海:「俺じゃないけど…でも、結果的にめっちゃ正解でしょ」 はるき:「俺の右側、りいな。つまり俺の世界」
すず:「うわ〜〜〜、はさまれ系ヒロイン」 透は静かにその座席表を見つめながら、何も言わずに窓側の席へ歩いていく。
「持ち物チェックした?あと何か忘れてない?」 すずがプリントを確認しながら、りいなのリュックを覗き込む。 りいな:「…イヤホン忘れたかも。誰か貸して〜」
はるき:「俺、予備ある!てか、隣になるならずっと流してあげようか?“恋のBGM担当”ってことで」 海:「それ俺も用意してた!てか、朝からはるき元気すぎじゃない?」
透は静かにロッカーに荷物をしまいながら、でも時々りいなの声に振り返って、心の中で回想する—— “昨日、手を握った3秒…忘れられてないの、俺だけじゃないといいな”
男子:「てか、誰がどの班と自由行動する?」 女子:「うちらは女子旅するつもり〜!男子とは合流なしっ」 他女子:「例外あるでしょ、りいな周りの班だけ…」
教室の廊下で、りいなの周囲には自然と人が集まっていた。 はるき:「写真係やっていい?りいな映え担当!」 海:「ツーショット撮りすぎるの禁止な!バランス命!」
透は端の方で、静かにカメラのSDカードを確認する。すずが横に来て、ぽつり。 「ねえ、透くん。今日も、りいなの隣になる?」 透:「……うん。なるような気がしてる」
りいなは、騒がしいみんなの声の中で、ひとつ深呼吸する。 見送る先生の声が響いて、いよいよバスの扉が開いた。
荷物を持ちながら、席順の紙を見る。 “海・りいな・はるき”…その並びに、自然と笑みがこぼれる。
りいな(心の声):「この旅、ちょっとだけ特別になる気がする」
海:「りいな、リュック預かるよ」って肩をとんとん。 はるき:「ブランケット、あった方がいいよね。掛けてあげる」って膝にふわり。
りいな:「……ねぇ、ほんとに普通に座らせてくれない?」 海:「普通のレベルは任せて」って肩のすぐそばにぴたっと座る。 はるき:「てかこの距離、心拍数バグってる」ってニヤリ。
車内は発車。隣の席の透は、景色をぼんやり眺めていた。 すずが透の肩をそっと叩いて言う。 「透くん、あの3人席、ちょっと濃いよね」 透:「……でも、真ん中に座ってる人、今日もめちゃくちゃいい笑顔してる」
車内は、まだ朝の眠気が残るざわつき。 お菓子の袋がシャカシャカ、会話は小声でぽつぽつ。 りいなは、3人席の真ん中に座ってリュックを膝に抱えている。両隣、左に海、右にははるき。
海:「眠かったら肩貸すよ。保証はないけど、柔らかさはある」 はるき:「え、それ肩に顔乗せたら俺が見る側じゃん。ずるい」
りいな:「ちょっと…まだ出発したばっかで甘すぎない?」 はるき:「修学旅行だもん。甘くて照れてて正解」 海:「その照れ方、今日中に50回は見たい」
外の景色が動き始める。りいなが窓の方を見ようとしたけど、海の肩がちょっと当たる。 彼は何気なさそうに、ジュースの蓋を開けながら言う。 「こういうバスの揺れ、なんか特別じゃない?」 「え、どういう意味…?」 「揺れのたびに、隣がちょっと近づくのが好きってこと」 海の指が、さりげなくりいなの膝横に触れる。その瞬間だけ、車内が静かになった気がする。
はるきはその横で、少しだけ距離を詰める。 「距離で勝負するのもいいけど、俺は言葉で行くわ」 りいな:「また何か言うの?」 はるき:「昨日の“手握った話”、透に持ってかれたからね。今日は俺が、耳に残ること言う」
はるきがりいなの耳元に少し顔を近づけて、声を低く。 「隣に座るだけで、こんなに嬉しいんだって思える人、りいなが初めて」 りいな:「……ばか」 はるき:「ありがとうの意味で受け取るね」
すずが斜め後ろの席でお菓子を配りながら、こっそり透に言う。 「今日のバス、相当甘いね。透くん、酸味担当?」 透は笑わず、でも口元だけで優しく言った。 「…見てるだけでも、十分楽しいよ。りいなが笑ってるの、好きだから」 すず:「じゃあ、隣に座れない代わりに“観察者権”ってことで」 透:「認定、ありがと」
—
💫景色が流れていくバスの中、3人席は“体温がじわっと上がる場所”。りいなが中央にいることで、誰の言葉も距離もすぐに届いてしまう——でも、誰もまだ“りいなの心の中心”にはたどり着いてない。 バスの空気はずっと甘くて柔らかくて、進むほどに感情の予感が強くなっていく。
「あ〜喉渇いた!売店行こ」 「俺トイレ!待ってて〜!」 すずやはるき、海たちはわいわいと動き出す。 りいなは、「荷物見てるね〜」とバスの近くで待機していた。
すると、透が静かに横に立って「俺も残ってる」と言った。 思わず2人きりになって、ちょっと気まずくて——でも落ち着く空気。
「…バスの中、賑やかだったね」 「うん。ふたりで座ってるみたいだった。両隣が海とはるきだったけど」 「…それ、映画みたいだった」
透は、自販機へ歩いていって戻ってくると、そっとりいなにペットボトルを差し出す。 「ほら。さっき“甘すぎ”って言ってたから、ちょっとさっぱり系」 りいな:「ありがと。でも…透、気遣い上手すぎない?」
透は少しだけ目線をそらして、ぽつりとつぶやいた。 「…りいなが隣にいるとき、空気がすこし優しくなるのが、好きだから」
りいなは、ペットボトルのキャップを開けながら、それを聞いて少しだけ固まった。 風が吹いて、制服の袖が揺れる。周囲はまだざわざわ、でも2人の周りだけ静か。
「なんか、透とこうして話すと、“騒がしくなかった自分”に戻れる気がする」 「それ、俺も思ってる。りいなは騒がしいの似合うけど、静かなとこにいる時の笑顔…もっと好きかも」
視線が交差する。照れくさくて、それ以上は何も言えなくて。 でも、りいなはそのままペットボトルを口に運びながら、心の中だけで呟いた。
“ささやきじゃないのに、透の言葉って、ちゃんと心に触れてくるんだ”
「ほら、みんなお土産とか爆買いしてるって」 りいなが笑いながら、バスの方へ歩き出す。透との2人時間がほんのり残っていて、どこか静かな気持ちだった。
その後ろから、海が軽く駆け寄ってくる。 「りいな〜待った。てかさ……サービスエリア、隣いなかったね」
言葉は軽そうなのに、その言い方はほんの少し寂しげ。 りいなは振り返って、「え、ごめん。透と荷物番してたから」と答えるけれど、なんだか自分の心が急にざわつく。
海:「いや、別に責めてないよ。ちょっとだけ、慣れてた距離じゃなくなったのが変な感じだっただけ」 「……俺さ、隣ってただの位置じゃなくて、“そこにいる安心感”だと思ってるんだけど」
りいな:「……そんなの、言われたら気になっちゃうじゃん」 海は笑って、「うん、気にしてほしかった」と照れくさく口の端をゆるめた。
バスの扉が開き、はるきが中から顔を出して叫ぶ。 「海ー!言った?“やっぱ俺の隣が落ち着く”って!」 海:「言ってないし!お前には絶対言わない!」 りいな:「…もう、二人ともうるさい〜」
でもその笑顔の奥で、海の言葉だけがじんわり残っていた。 “隣って、安心感なんだ”——りいなは、今日何回「隣」って言葉に揺れてるんだろう。
「あ、トンネル入るよ〜!」 誰かが言ったその言葉に、車内が一瞬だけ静かになる。
窓の外がスッと黒くなる。光が吸い込まれるみたいに、バスの中が暗がりに包まれる。 りいなは、3人席の真ん中で手を膝に置いていた。
左隣の海が、何も言わずにそっと指先を重ねてくる。 わずかな揺れと、暗闇のタイミングに合わせるみたいに。
「…え、海?」 声を出したけど、空気がふわっとしていて、誰にも届かないほどの小ささ。
海:「ん。暗いときは、つながってた方が安心でしょ」 その声も、まるで息と一緒に届けるみたいな優しさ。
りいなは一瞬手を引こうとして、でも止まる。海の指先は、しっかりとあたたかかった。
右側では、はるきがコソッと身体を寄せてきて、耳元に口を近づける。 「ねぇ、トンネルの中ってさ……好きな人と隣にいる確率、ちょっと上がるらしいよ」
「なんで…」 「だって、隣って心の無意識で選ぶものでしょ?こういう“何も見えない時間”って、意外と本音が出るんだって」
りいなは笑いそうになるけど、暗さと、海の手と、はるきの距離で、心臓が忙しすぎる。
透は斜め後ろの席で、静かに窓の方を見つめていた。すずがふとりいなの方を見て、「あの子、今日はずっと真ん中で揺れてるね」とぽつり。 透:「うん。でも揺れてるのって、たぶん……“誰にも揺らされたいと思ってるとき”なのかも」
車内は光のない数分間。だけど、りいなの世界はキラキラに溢れていた。 手の中の温度、耳に残る甘い囁き、そして誰かに見守られている感覚。
暗闇が抜けたとき、りいなは海の手をそっと握り返していた。 そしてはるきは、「お、言葉で負けてないでしょ?」とウインクした。
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