pnside
朝の光が薄いカーテンを透けて差し込む。
白い壁を淡く染めて、病室の空気を静かに揺らした。
その光を見つめながら、昨日の夜のことを思い返していた。
「ここにいるから」
先生は確かに俺にそう言ってくれた。
たったそれだけの言葉なのに、胸の奥がずっと温かかった。
誰かにそう言われることが、こんなにも嬉しいなんて思わなかった。
少しだけ前を向ける気がした。
扉の向こうからノックの音がして、ゆっくりと先生が入ってくる。
けれど今日の先生はどこか硬い。
表情にも声にも、微妙な張りがある。
pn「おはようございます」
rd「……おはよう 体調は?」
pn「大丈夫です」
やり取りはいつも通り。
でも、それがいつもと違って感じる。
その違いを説明できなくて、胸の奥が少しざわついた。
rdside
ペンを走らせながらも、昨日の自分の言葉を思い出していた。
「ここにいる」
あんな風に感情を混ぜてはいけなかった。
主治医と患者、その線を自分から曖昧にしてしまった。
今日こそ、戻さなければと思っていた。
彼を守るためにも、自分を守るためにも。
rd「無理しないで、少しずつでいいから」
いつもより少し低い声でそう告げる。
その響きが、自分でも冷たく感じた。
ペン先を見つめるふりをして、視線を逸らす。
彼の目を見てしまえばまた揺らぐから。
pnside
先生の声が少し遠くに聞こえた。
その声は確かに優しいのに、どこか壁の向こうみたいで。手を伸ばしても届かなそうではあるのに何故か消えてしまいそうで。
昨日までの距離が幻だったように思えた。
pn「……退院したら、どうなるのかな」
rd「焦らなくていいよ、今は回復を優先しよう」
あっさりとした答え。
それが“正しい”と分かってるのに。
心の奥で何かが音を立てて崩れた。
昨日、確かに手が届いた気がした温かさが、
今日になってすぐ遠ざかっていく。
窓の外では小雨が降り出していた。
その音が、静かに沈黙を埋めていく。
pn「……もし、また死にたくなったら」
思わず言葉が零れた。
意識していなかったを
でも、胸の奥から自然に出てきた。
「……どうすればいいんですか」
こんなこと言うべきじゃないなんてことは分かっていたけど後悔してももう遅かった。
先生はペンを止めた。
目線を上げたが、何も言わなかった。
ほんの一瞬、何かを言いかけたように唇が動いた。
けれど、そのまま静寂が落ちた。
rdside
何も言えなかった。
“俺に言ってほしい”
そう思っているのに、声が出なかった。
いや、きっと思いはそれだけじゃない。
俺だけを頼って欲しい。
そばにいてほしい、いなくならないで。
そんな思いが隠れていて、一言でもなにか言ってしまえばまた距離を誤ってしまうのではないかと思ってしまう。
もしまた彼が同じことを繰り返したら。
俺は医者として、冷静でいられる自信がない。
その怖さが喉を塞いだ。
言葉を選んでいるうちに、沈黙が重なっていく。
ただ、彼の視線がゆっくりと下を向くのが見えた。
俺の答えを待っていたはずだから、だからこそ落ち込んでいるのではないかと思った。
rd「……今日はもう休もっか」
それだけを残して立ち上がった。
自分が犯してしまった過ちから逃げるように。
pnside
返ってこない言葉を思う。
あんなに優しかった声も、もうここには届かない。
pn「……ごめんなさい、変なこと言って」
無理に笑う。
その笑いが震えてるのを自分でも分かっていた。
先生は何も言わず、静かに扉へ向かう。
きっと先生はこんな俺に疲れてしまったんだ。
俺は先生のことが好きだけど、大好きだけど。
でも先生は俺の事なんか全く好きじゃない。
きっとただの患者に過ぎない。
そんなことをわかっていても、ただ「死なないで」と言って欲しかった。
扉が閉まる音がした瞬間、胸の奥がぐしゃっと潰れた。
握り潰されるかのように。その感覚はただただ冷たく、苦しかった。
空気が抜けるみたいに涙が溢れた。
pn「……なんで、俺ばっか ッ」
声を殺すように泣いた。
手は包帯で覆われていて、涙も拭けない。
頬を伝う涙が布団に滲んで、円を描く。
この光景はなんだか先日の俺のようだった。
昨日まで確かにあった“居場所”が、もうどこにもない気がした。
本当に俺はここにいてもいいのだろうか
rdside
廊下に出た瞬間、呼吸が苦しくなった。
歩き出そうとしても足が動かない。
扉越しに、小さな嗚咽が聞こえる。
思わず振り返って、背中を扉に預ける。
拳を強く握った。
入りたい、でも入れない。
俺があんなことを言わせたんだ。
唇を噛んでも、胸の痛みは止まらない。
喉の奥が熱くて、息を吐くたびに滲んでいく。
rd「……守りたいのに、」
誰にも聞こえない声で呟いた。
それが今の本音だった。
でも、彼に届かないように願いながら。
静かに目を閉じた。
この痛みを選んだのは自分だから。
その罰を、扉の外でひとり受け続けるしかなかった。
コメント
3件
もう……全部が好きすぎる……;; 続きが楽しみ…… > <
泣ける😭