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厳しい冬の寒さに凍えながら歩を進める。バカみたいに冷たい風があらゆる気力を奪っていく。時は師走。街はまだ3週間は先だというのにクリスマスモードに浮かれ立っている。至る所にクリスマスというワードとサンタやツリーと言ったモチーフ散りばめられていて、夜になればイルミネーションが街を彩るんだろう。
あ~あ。世間様はお気楽そうでいいですねー。なんて、ぼやいたところでどうもしないけどさ。こんな大都会まで1人で来たはいいけど…人探しねぇ?どうっすかなぁ…。アタシがどうにかしようたって無意味かもしれないけど、あのまま二度と会えずじまいってのは胸糞悪いし……。これは動かざるを得ないというかなんというか。
そのまま人波に流されるまま歩いていると、目的地にたどり着いた。テレビの街頭インタビューで映ったりする有名で人通りの多い場所だ。辺りには待ち合わせをしているであろう人がたくさんいる。確か、この辺だったハズ。……合ってるよね?ヤバい。アタシ、方向音痴だから自信ない。アウターのポケットからスマホを取り出して確認しようとしたそのとき、ねぇと背後から声をかけられた。
え、アタシ?あ、道聞かれるとかかな?この辺の土地勘ゼロなんやがどうしよ。ひとしきり考えを巡らせてから声の主がいるであろう方向に振り向くと、同い年かちょっと上くらいの黒髪のお兄さんがいた。うっわ~…すげーイケイケの兄ちゃんじゃん。普段関わらない人種だから免疫ないしチャラそうだしこわぁ…。
「今1人?」
「え、はい…」
わぁ…めっちゃ顔良いなこの人。というか肌白っ!顔ちっちゃ!まつ毛長っ!モデルみたいなオシャレな服着てるし。クリスマスに彼女いなくて困ったことなさそ~。
などと、勝手に偏見マシマシなことを思っていると切れ長の翠の瞳と目が合い、反射的に逸らしてしまう。なに…今の。あのまま見入ってたら心を奪われそ…ってアタシなに言ってんの!?なんか心拍数がおかしい気もするし…。不整脈かな?知らない人に急に話しかけられて緊張してんのかな?
「待ち合わせとかしてる?」
「してない、です……」
待ち合わせが…なんだ?質問の意図がよくわからない。別に1人ですけど…。
「マジ?じゃあさじゃあさ!オレとちょっと遊ばない?」
ん?
「どう?絶対楽しい時間にするから!」
んんっ!?もしや…コレって……?
「な、ナンパぁ~!?」
「うおっ!?いやまぁ、そうだケド?」
びっくりして変な声出た!そして肯定するんかい!
「待て待て待て……はぁ?なんで!?」
ナンパとか人生初です!訳がわからないよ!
「なんでって、アンタがカワイイからだけど……」
か、か、カワイイだぁ!?!なにさも当たり前みたいな顔で言ってくれちゃってんのこの人?恥じらいとかないんか?
「だ、騙されんからな!とういか誰でもいいのか!」
「誰でもいいってなンだよ!?意味わかんねェし」
「だってアタシ…か、かわいくないし。手当たり次第に声かけてんじゃないの?」
自分の顔が良いことを自覚して、『可愛い』だのなんだの甘い言葉を使ってうら若い乙女達に声掛けまくってんでしょ?そうだろ!アタシ知ってるんだから!
「いやいやいや、めちゃカワイイし。手当たり次第とかじゃ、ねェし……」
今ちょっと歯切れ悪くなかったか?やっぱそうじゃん!図星じゃん!
「お断りします!」
「ちぇ……つれないなァ」
はぁ…。なんなのよコイツ。……あ、そだ。今日ここに来た本来の目的は人探しだ。忘れるとこだった。危な…。気は進まないけど、せっかくだし聞いておこう。
「この人、知ってますか?」
ある画像を映したスマホの画面を提示して尋ねる。
「……知らない」
少し画面を凝視したあと、首を振った。1人目から知ってるなんてそう簡単にはいかないよね。この調子で聞いていけば見つかる、かな?地道すぎる?
「アンタ、この人探してんの?」
「そうです」
まだ探し始めたばっかだけど。
「あー、もしかして彼氏?」
「は?じゃなくて…兄です」
見せたのはアタシのお兄ちゃんの写真。数ヶ月前から行方不明になっている。何か事件か事故に巻き込まれたのかもしれない…。捜索願はとっくに出されている。警察も捜索してくれてはいるが成果は芳しくない。最後に目撃されたのがちょうどこの場所なので、ここで聞き込みをすれば手がかりが得られるかもしれないと考えたのだ。それが唯一の手掛かりでもあるし。
「1人で探すの?オレが手伝おうか?」
「結構です!」
絶対下心あるでしょ。ダメダメ!
「アンタ1人だったら変な野郎に絡まれるって」
今まさに絡まれてますけどね~と言ってやりたかったが我慢した。偉いぞアタシ。
「大丈夫です!じゃあっ」
「ちょっ…!」
会話を無理やり切り上げ、そそくさと立ち去る。なんか言おうとしてたけどし~らないっ!さ、気を取り直して…聞き込み調査開始!