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高野:中学校教員。技術室にこもって仕事をしている。大学時代は友人からの依頼でバンドを組みベースをしていた。若井:中学3年生。心身不調が多い。トラウマがある。ギターを始めたばかり。


———————‐——————-‐


3限開始のチャイムが鳴った。やっとできた空き時間。学年通作るぞ、と思っていた時、聞き馴染みのある声がした。


「せーんせ、たかのせんせ、」


ドアのはしっこから目までを出して俺を呼んでくる。


「んだよ、また来たの?」


「いや?普通に教室つらい」


「普通じゃないです」


「普通です、まぁとにかく俺この時間はここにいるから」


失礼しますもなくずかずか入ってきてちゃっかり俺の隣に座ってくる。絶対なんかあっただろ

とか思いながらパソコンを打ち続けていると向こうから話しかけてきた。


「今日ね、あんま寝られなかった」


「いつもでしょ」


「いつもより」


「あぁ、じゃあカウンセリングする?」


「俺がカウンセラーね」


「どう考えても俺がひるとの話聞くんだろ」


冗談を言える余裕はまだありそう。でもこいつの性格上、すぐ溜め込んで疲れてしまうからちよっとずつ話してもらわないと。


「今日はどうしましたか?」


「うーん…ちょっとトラウマ思い出して寝れなくて。」


「あー、あれね?最近薬は?」


「一応飲んだ」


こいつは2年の頃、イジりが過ぎたいじめを受けていた。女から性的暴行も受けたと聞いた。

聞いているこちらまで心が痛くなる話だ。


「どんな感じなの、その寝る時とかさ」


「どんなも何も?目つぶったらあの時のこと全部思い出すんだよ」


「そっか、まあ無理に寝なくていいと思うよ俺

は」


「やっぱそうだよなぁ」


「今ねむい?」


「あんま」


かりかりとメモを取りながら聞いている俺とぱ

ちぱちと指パッチンをしながら飽きたとでも言わんばかりにきょろきょろする若井。



「楽になった?」


「うん、結構」


「じゃあそんなひろとに朗報ね」


「え?何?気になる」


「実は音楽の大森先生からギター借りてます」


「…まじ?」


「うん、やりたいでしょ」


研究室の奥に置いてあるギターを引っ張り出してきて渡すと、おもちゃを与えられた子供のように目を輝かせて弾き始めた。


「先生歌ってよ」


「前下手だって言っただろ」


「嘘つけ、去年気向いて学校来た時3送会の合唱練習で歌ってたの聞いたし」


「下手だっただろ」


「うまかった」


「何なら弾けるのよ」


「ん~、人にやさしくとか?」


「ふっる、ブルーハーツ好きなの?」


「うん」


パソコンでコード進行を調べて見せる。若井がギターを弾き始めると、俺も歌った。音楽室じゃないのに、ここには音楽が溢れていた。


「やっぱうまいよ」


「俺が弾くから歌ってみ」


「やだよ、歌うの嫌い、てか先生が弾けるのはベースでしよ」


「確かにそうだけど、てかお前そんなんで卒業式とかどうすんだよ」


「ロパク?」


「疑問形やめて」


「そっかあ、俺も卒業すんのか」


「泣きそうだよ」


「俺が卒業すんの寂しい?ここに俺がいないの寂しい?」


「そんなんじゃないよ、無事に卒業できるのに感動してんだよ」


「失礼な」


そうか、こうやって若井とバカみたいな話をしていられるのもあと少しか。ちょっと寂しいような気もしなくもない。



学年通信を作り続ける俺に時々口を出してくるのもなくなると思うと寂しいな。


「ここはこの写真がいいと思うよ」


「これ絶対ひろとが撮った」


「バレた?」


「体育祭、カメラマン任せたの俺だったな」


「去年はね?今年はやりたいですって話してやらせてもらった」


「あ、でもこれ上手いね」


俺が指を指したのは3年生がリレーでスタートダッシュを切った瞬間だった。


「それ褒めるんだ」


「え、個人的なお気に入りは?」


「これ」


若井が指を指したのは彼がきっと1年生の円陣の中に入って撮ったであるう写真。


「あ、確かにこれもいいね、全員カメラ見て

る」


「でしょ、山中先生にここ入って撮ってって言われたの」


「ほんとカメラやってる時のひろとっていきい

きしてるよな」


「自分じゃわかんないけど」


「俺はそう見える。」


こいつが卒業するまで、あと少し。俺は絶対にこいつの記憶に残ってみせる。






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