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💡が女装して潜入任務するお話。西がいます。
inm視点
都市の中心部にそびえ立つ高層ビル。その最上階に位置するヒーロー組織の本部で、dyticaは珍しく 上層部からの依頼を受けていた。依頼主は組織の幹部、厳つい顔の男だった。
「諸君、今回の任務は極秘だ。敵組織が主催する舞踏会に潜入し、内部の機密情報を盗み出せ」
極秘、潜入。最近は地域の安全パトロール等の比較的平和な任務ばかりだったので、久しぶりに聞く単語に少しワクワクしていた。幹部は言いづらそうにもう一度口を開く。
「…問題は、参加者は女性限定の仮面舞踏会だということだ。つまり、女装して潜入する必要がある」
幹部の言葉に、オレたちは凍りついた。女装? ヒーローとして戦うのは慣れているが、そんな任務は初めてだ。
「女装マジか」
「任務は任務ですね。誰かがやるしかない」
「そうやな。誰かが」
三人の視線が一斉にオレに向けられた。 慌てて手を振る。
「待ってよ!なんでオレ?嫌だよ!」
「ライが一番適任だろ。背低いし」
小柳が淡々と指摘する。同情するように星導は腕を組み、カゲツは頷いてい る。背が低いとはっきり言われたことはまだ許してやるが。
「おいカゲツ、お前も169だろ」
「いなみ。よく考えろ。お前しかおらん」
「いや何が???断定できる理由が分かんないんだけど」
「まあまあ。良いじゃないですか〜」
カゲツの言い分も意味わかんないし、星導も我関せずみたいな顔してるのも腹が立つ。
「星導だって髪長いじゃん!!ギリ女性でしょ」
「俺背が高すぎるんですよね〜小柳くんも」
星導は小柳と目を合わせて苦笑する。
「それにこの低音ボイスで女って言い切るのもキツイだろ」
「何その言い分!!オレだって女の人の声ではないでしょ」
「正直ギリ許容なのがいなみくらいしかおらん」
「だからお前は誰目線なのって!!」
「落ち着け」
ロウが笑いながら言う。いや、笑い事じゃないんですけど。星導 は影のように素早くオレの肩に手を置く。
「ライ、目デカいし完璧ですよ。自分だって自覚してるでしょ?俺等は後方支援に回りますから」
まあ自分の可愛さは認める、けど。オレは必死に抵抗する。
「自覚してるけど、だからって女装は別! 絶対嫌だ! みんなでジャンケンで決めようよ!」
しかし、三人は容赦なかった。星導は既に依頼案に印を押している。
「効率を考えて、ライに任せます」
「ちょ、勝手に提出すんな!!!」
依頼書を奪い返そうとした手を二人に阻まれる。
「がんばれよ、ヒロイン!」
「失敗したらぼくたちが助けに行くからな」
いや、いくらフォローしたって 押し付けたことには変わりないんですけど。結局、オレは渋々了承せざるを得なかった。任務は国家の安全に関わるものだ。嫌でもやるしかない。
本部から支給された女装グッズは本格的だった。ウィッグ、メイク道具、ドレス、そしてハイヒール。オレは、鏡の前でため息をついた。自分の大きな目は、アイラインを引くとさらに強調され、少女のように見える。ドレスもぴったりフィットし、169cmの身長も女性として違和感がない。
「クソ……なんでオレなんだよ」
独り言を呟きながらメイクさんに施してもらう。リップを塗ると、唇がぷっくりと輝き、可愛さが倍増した。ウィッグを被り、長い髪を整えると、まるで本物の女性だ。自分でも認めたくなかったが、完璧に女装が決まっていた。
三人は準備室の外で待っていた。オレが出てくると、口笛が飛んだ。
「うわ、伊波! 可愛いじゃん!」
ロウが大笑い。となりで星導も顔を抑えて笑っている。
「こんなん敵も騙されるやろ。いや、むしろ落とせる」
カゲツがからかうと、2人の笑声はより大きくなる。 オレは3人を睨みつけた。
「お前らマジで…!!絶対に成功させてやるから見てろ!!」
舞踏会の会場は、街外れの豪奢な邸宅。ターゲットは裏社会を牛耳る組織で、この舞踏会はその上層部が集まるイベントだ。オレの任務は、パーティーの参加者として潜入し、敵のボスである男爵の執務室からデータを盗み出すこと。メカニックで学んだ電磁波を使ってセキュリティを突破する予定だ。
オレはタクシーで会場に向かった。ドレス姿で歩くのは恥ずかしかったが、夜の闇がそれを隠してくれた。これは任務だから。 女装なんて一時的なもの。成功すればすぐ終わるから。
邸宅の門をくぐると、華やかな音楽と笑い声が聞こえてきた。参加者は皆、女性たち。オレも負けじと優雅に歩みを進めた。ハイヒールが足を痛めたが、耐えるしかない。
会場はシャンデリアが輝く大広間。ドレス姿の女性たちがダンスを踊り、談笑している中、周囲を観察する。敵のメンバーからは会話から情報を拾えるかもしれない。
まずはボスの執務室の場所を探す。オレは誰にも見えないところで電磁波を操り、周囲の電子機器を探知した。セキュリティカメラの位置、警備員の配置を把握する。執務室は二階の奥らしい。
しかし、潜入は簡単ではなかった。パーティーの進行役である女性がオレに近づいてきた。
「お嬢さん、初めてかしら? 一人で寂しそうね。ダンスでもどう?」
背がオレよりも高くて傷つく…じゃなくて。 オレは慌てて声を高くして答える 。
「え、ええ、ありがとうございます。でも、少し休みたいので」
「あら、シャイなのね。可愛いわよ」
女性はそう言って去っていったが、心臓はドキドキした。声の出し方が不自然だったかも …。
さらに問題が発生した。男爵本人が会場に現れたのだ。高身長の男で、鋭い目が覗く。彼は女性たちに囲まれ、談笑している。オレは近づき、会話を盗み聞きした。
「今度の計画は完璧だ。データを暗号化してある。誰も盗めないよ」
これはチャンスだと思った。男爵のポケットに小型のUSBらしきものが見えたのだ。あれが機密データか? しかし、直接盗むのはリスクが高い。執務室に行くべきだ。
オレは階段を上る。ドレスの長さにもハイヒールの感覚にも慣れずに階段を登るのも一苦労だったが、なんとか2階へ登り切る。警備員がいるが、電磁波でカメラを一時的に止めておいた。影に隠れ、執務室のドアに到達。ロックは電子式だ。潜入前にプログラミングをいじっていたので簡単に解除。
中に入ると、デスクにパソコンが置かれていた。オレは急いで接続し、データをダウンロードする。作業場で作っていたオレ特製の送信機で高速転送する。内容は敵の計画書であるテロの詳細だ。これを本部に送れば大成功。
しかし、そこで足音が聞こえた。男爵が戻ってきたのか?慌てて窓から逃げようとしたが、ドレスが絡まり転びそうになる。
「クソ、この服!」
オレに勘づいたかのように、足音はどんどん近づいたくる。音が大きくなったのも束の間、目の前の扉が開けられた。
「誰だ!」
心臓が跳ね上がる。できる限り声を高くして喉もとを隠す。
「えぇと、ごめんなさい。迷ってしまって……」
男爵は怪訝な顔をしたが、オレの姿に油断したようだ。見たか、この上目遣い。
「ふむ、美しいお嬢さんだな。パーティーに戻ろうか」
オレは心の中で冷や汗を流しつつ、男爵の腕を取って会場に戻った。ダウンロードは完了していた。男爵に近づきすぎたが、情報を得られた。オレの勝ちだ。
男爵にエスコートされ、大広間に戻る。会場は既にダンスの時間が始まっていた。男爵はオレを誘いワルツを踊り始めたので、必死にステップを踏む。舞踏の練習なんてしてなかったが、大きな目で微笑むと男爵は魅了されたようだった。
「君のような美女は珍しい。名前は?」
「マ、マナです」
ごめんマナ…………!!即興で出てきたのがお前しかいなかったんだ……!!マナに心の中で必死に謝りながら、ダンスを続ける。 ダンス中、男爵はポロリと情報を漏らした 。
「明日の作戦は成功する。データは安全だ」
オレは内心でニヤリと笑う。ダウンロードしたデータで作戦を阻止できる。そう思うと自然に笑顔が溢れてしまった。なおそれすら男爵は気に入ってくれたらしい。ダンスの時間は想像以上に長かった。ダンスが終わり、トイレに行くふりをして脱出。邸宅の裏口から抜け出し、タクシーを拾った。
本部に戻ると、三人が待っていた。オレは息を切らして報告する。
「成功した! データだぞ!どうだ!!」
3人がパソコンを覗く。奴らの計画がびっしりと書き込まれたデータが表示されていた。
「完璧、やるやん」
達成感やば。 しかし、星導もロウもカゲツもニヤニヤしている。
「ライ、すごい可愛かったんじゃないですか? 男爵に惚れられた?」
「ダンスまで踊ったん?ヒロインやん」
「舞踏館にいる時間長かったし」
「なんかドレス姿自分でも気に入ってない?」
口角を上げる3人からからかわれて気づく。そうだ、オレまだ女装したまんまじゃん。
「タクシーから降りてココまで歩いてくるときも裾持ち上げて手慣れてたもんな」
小柳が数分前のオレの真似をすると、星導もカゲツも吹き出した。顔の熱が集まったオレ は脱いだウィッグを投げつける。
「うるさい! 二度と女装なんてしない!」
「はは、ごめん。今回はありがとう」
「次回はお前らがしろよ…!!」
「いや〜〜それはムリ」
「いや、オレもムリだから」
女装はもうこりごり。あ、でも。自分の可愛さを武器にできたことが誇らしかったことは、オレだけの秘密にしておくことにした。
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