コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「ロア!!」
今日こそアレを寄越すんだぞ、と盛大に悪役さながらの啖呵を切って医務室に突撃してきたのは茶色い頭。真っ白な部屋ではかなり浮いている。
できればこんな所で見慣れたくなかったと溜息も程々に、苦し紛れにいつもの言葉をかける。
「ウジェンヌ、いつも言っているだろう?あの薬は強いんだ。君でもそう何回も服用できる物じゃない」
「それに、いくら甘くて砂糖菓子に似ているからといって―」
患者でもない君にあれを処方することはできない、と言いかけた瞬間、彼女がもう目の前にはいない事に気が付く。
さっと顔面から血の気が引き、慌てて周囲を見渡すと、既にウジェンヌは薬棚の前で何やらごそごそお目当てのものを探していた。
声にならない叫び声を押し殺しながら、痛む頭を抑えてどうにか彼女を抱きかかえる。
しばらくそのままどうすることもできず硬直していると、ものすごい音をたてながら怒号とともに扉が開かれる。
我らが薬剤師、チェイだ。
大方こいつを追ってここまで来たんだろう。
部屋を隅まで見渡し、ウジェンヌを抱えた俺と床に散らばったよくわからない薬瓶を見留めると、状況を理解したのか、コツコツと凄まじくヒールの音を響かせてこちらに迫ってくる。
そのまま何も言わず俺の手からウジェンヌをぶん取り、暴れるそれをものともせず、あっという間に部屋を出ていってしまった。
俺はまたもや呆然と立っていることしかできず、過ぎ去った嵐の後の、荒地の片付けをしなければ、とかくだらないことを考えていた。
今頃ウジェンヌはチェイや、もしかしたらモニカなんかにこっぴどく叱られていることだろう。
俺もチェイのお叱りなら何度か受けたことがあるが、あれは恐ろしいなんてもんじゃない。修羅そのものだ。
散らばった薬瓶を立て直しながら、俺はどうして彼女はあれを求めるようになったんだっけ、とそもそもの原因を思い返す。
そう、あれは彼女が、体内の魔力の塊が原因でぶっ倒れたとき。
報せを聞いていてもたってもいられなくなった俺は、苦しむウジェンヌを早く楽にさせてやろうと、あの薬を彼女に飲ませたんだった。
結果として彼女の記憶には「なにかの拍子に意識を失ったけど、甘くて丸い何かを食べたら良くなった」という記憶しか残らず、未だに「甘くて丸い何か」を探し求めるに至っている。
倒れた後に飲まされるものなんて、大体碌なもんじゃないと誰でも分かるだろうに、なんだってあの天の使い族様とやらは、何百年生きているくせしてオツムは弱いんだ。
嫌なもんだ、あいつらは長年の、神の使い様待遇のせいで自分らが一番正しいと本気で思っている。
当のウジェンヌも、幼子のような姿とは裏腹に、途方もないくらい天使思想に染まりきっている。
俺自身も天使の奴らには何度か会ったことがあるが、碌に話なんか通じやしない。
今の時代、そんなんじゃ前時代的だと言われるかも知れんが、天使共が文字通り糞だということは隠しきれない真実だ。
心の中で悪態をつきまくって、満足してふと手元に注目すると、何故か一つだけ空いている瓶の蓋があることに気がついた。
暴れる心臓を抑えながら、それを注視する。
取扱注意。
魔力塊融―
そこまで目を走らせて、もはや立っていられなくなって机にもたれ掛かる。
あの女、ついにやりやがった。