これは、ばあちゃんがお祖母さまから聞いた話だよ。
むか〜し 昔、とてもケチな男がいて、嫁にめしを食わせるのは勿体ないと、30歳をとっくに過ぎても嫁を取らず、独り者でいました。
そして、もし食べずによく働く女でもいれば是非に嫁にしたいものだ。めしを食わせると金がかかる、などとケチなことを考えていました。
ある晩、男の家を訪ねてきた者があり、旅の途中で道に迷ってしまったと言う。「どうか今晩泊めて欲しい」と言うが、男は「ウチにはお前に食わせるものは何も無いが、それでもよければ泊まるがいい」と言いました。
訪ねてきた者は、「わたしはものを食べない女です。ありがとうございます」と、ほっとした様子で家に上がりました。
「そいつは驚いた! 本当に食わんのか?」と訊くと
「はい、今までものを食べたことがありません」と答えました。
旅の途中と言ったのに、女は次の日も、そして その次の日も、男の家に居続けました。
ある日、「わたしは何も食べません。 その分 一生懸命に働きます。わたしをあなたの嫁にしてください」と言って帰ろうとしないので、男は女を嫁にしました。
女はとてもよく働きましたが、本物に何も食べません。
よい嫁をもらったと、はじめの内は喜んでいましたが、どうもおかしいぞ。あんなに働くのにめしを食わないはずがない。
米びつのコメが減っているのもおかしい。あれはただものではない、鬼かもののけではないか?
男は不思議に思い、ある朝 仕事に出かけるふりをして 家の天井のはりの上に身をひそめ、そこから嫁の様子をこっそりと見ていました。
すると、嫁は一升の米を用意して、大釜でめしを炊き始めた。 やっぱり俺が居ないあいだに こっそりと食べていたんだな。
嫁は炊いためしで 33個もあるたくさんのおにぎりを作って、大きな桶にぎっしりと並べました。
驚いたのは ここからです。おにぎりの前で嫁がぱらりと髪をほどくと、頭のてっぺんに大きな口が開いており、その中におにぎりを ぽいぽいと放り込んで、桶いっぱいのおにぎりを あっという間に平らげてしまいました!
男は息を飲んでその様子を見ていましたが、女が上を向き、男の方をにらんで 恐ろしい声で
「あんた、見ぃ〜たぁ〜ねぇ〜!!」と言いました。
男はビックリして足を踏み外し、天井のはりの上から落ちて、ドッスンと大きな桶の中に入ってしまいました。
化け物となった嫁は、男を縄で縛って逃げないようにすると 桶に蓋をして、背中にしょって家を出ると、どんどん山奥に向かって行きました。
鬼になった嫁が、大きな桶を背負って山に差し掛かったところで、空が真っ黒い雲におおわれて、雷が鳴り響き、大つぶの雨が降り出しました。
そして、谷に差し掛かると そこに沼があらわれた。
桶の中は雨で水かさが どんどん増えて、男はすきをみて桶から逃げ出したが、鬼となった嫁は雨水の重さで、それにしばらく気がつきませんでした。
そのすきに、男は しょうぶの花がいっぱいに生えた沼の草かげに身を隠していました。
男が逃げたことに気づいた鬼となった嫁が、もの凄い形相で戻って来ました。そして、「逃げてもムダだよ。わたしの目はごまかせないよ!」と恐ろしい声で言いながら戻って来ました。
しょうぶの草むらに隠れていることが見つかってしまい、男は 両手で草を握りしめて 神仏に祈りました。
するとどうでしょう。鬼はしょうぶの匂いが苦手だったようで、また その細長い葉が鋭い剣のように見えたようで、ひるんでいる様子に見えました。
それに気づいた男は、手当り次第にしょうぶの葉をむしっては投げ むしっては投げつけていると、なんとその鋭い葉が鬼に刺さって、鬼はしょうぶの葉がこわくて 山に逃げて帰りました。
男は ほうほうのていで家に帰って来たが、めし食わぬ女を嫁にもらうもんじゃないと懲りて、ケチをやめて、似合いの嫁をもらって 幸せに暮らしたんだとさ。
そして、男が鬼に食われそうになった日がちょうど今日! 旧の暦で5月5日の端午の節句だったもんだから、毎年 この日には 家の軒下にしょうぶの花を吊るすと 鬼除けになると言われるようになったんだよ。
むか〜し、ぽっこり。お話はこれでおしまい ☺️✨
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