──────Hれいまり視点──────
「…ぇ?」
その衝撃的な言葉に思わず声が出る。
勇者が人に感謝されたことがない。
それはおとぎ話を信じてやまない私からしたら言葉に言い表せないほどの驚きだった。おとぎ話の勇者は、皆から感謝され、応援され、賞賛を送られ、仲間と共に敵を倒し、ハッピーエンド。紆余曲折もあるし、大まかでもあるがこういう話だったはずだ。でも、実際は感謝すらされたことがない。その真実と綺麗事の差に、思わず吐きそうになる。
そうか、これは。いや、これが。『真実の物語』なのだ。何一つ脚色されていない、真実なはずなのにどす黒い、この現実が。
私が固まっているといえもんさんは焦りながら目元の涙を乱雑に拭い、すぐに笑顔になる。
「すみません。初対面なのに、泣いてしまって。勇者なのにかっこ悪いところ見せちゃいましたね。忘れてください。」
「───ぁ、」
私は、何も言えなかった。言いたいことは沢山あるのに、それが喉を通らない。だって。その美しい金色の瞳の奥に、私は映っていなかったから。
───どうか、私を見て。私は、他の人たちとは違う。だから、どうか───あなたを救わせて欲しい。
そう思っているのに。それを言葉にすることが出来ない。なにかに引っかかってしまうかのように、それがいえもんさんに届くことはなかった。
「じゃあ、れいまりさん。あとはあなたを村まで送りますね。迷った子を助けるのも勇者の仕事ですからね。」
そう、柔和な笑みを再度うかべる。けれど、今ならわかる。これは勇者という人間が自信を覆い隠すための仮面なのだと、そう悟った。
ただ、私はそのことについてなにか言うことが出来なかった。私もまた、仮面を被っているから。
私はこの後を知っている。というより何となく分かる。どうせ、誰も幸せにならないバッドエンドなのだ。めめ村は誰一人救われない。そんな、諦めきった心を私も隠しているから。
「───ありがとうございます!」
私もまた、ニコッと笑顔をうかべる。
私と、あなたはある意味似たもの同士なのかもしれない。なんて思いながら。
私はこの体の記憶を辿る。まだ曖昧な部分が多い。こんなことは滅多になく、そして曖昧になる時、どんな条件があってそうなるかもわかっていない。
かろうじて思い出せた家にいえもんさんと共に行く。幸いなことに、森の中は通らなくても家には帰れそうだった。ほっと胸をなでおろしながらもその間に考えるのは自身の記憶について。曖昧な記憶では、この子に成り代わっていることが親などの身内にはバレてしまうだろう。その間には何とか話し方の癖などを思い出してしまいたい。
そんなことを思いながら私はいえもんさんと共にこの世界の家に向かう。
「…れいまりさんはなんでこの森に来ていたんですか?」
話の途中、突然話題が変わり、一瞬自身の歩みを止める。たしかに、何故だろうか。そこの部分の記憶は思い出せていない。そのため、少しはぐらかしながら答える。
「木の実を集めに来てたんです!ほら!このフードに木の実を沢山入れて、夕飯に食べるつもりだったんですよ!」
明るくそう答えればいえもんさんは微かに口角を上げた後、眉をやや下げながら
「そうなったら、君のご両親が心配してるんじゃないんですか?」
「そうですねぇ…たしかに、心配してるかも…怒られちゃいますかね?」
そう返すと、いえもんさんははっきりと言い切る。
「大丈夫ですよ。親なら誰しも子供を愛してますから。怒られるかもしれませんけど、それより帰ってきてくれてありがとう、という感謝の気持ちが強いですよ。」
「…!!そうですね!ありがとうございます!」
思いの外、いえもんさんは親に対して思い入れが強いらしい。その心づよい言葉が私の気持ちを後押ししてくれている。つくづくいい人だなーと思う。
私は、いえもんさんを見る。私とあまり背丈が変わらず、雰囲気は大人っぽいが、その顔は童顔で、おそらく、15いっているかどうかくらいの歳だろう。───そんな子供にここの大人はこの世界の運命を委ねているらしい。あまりにも無責任な話だと思う。けれど、その少年(性格は大人だが)が今、大人に対し信用を置いているならば、本人からしたら勇者、という肩書きはそこまで苦痛ではないのかもしれない。
そんなことを思いながら再び談笑を始めれば、そこには私の家があった。
森の近くにある、小さな集落。おそらく総人口100人前後だろう。こじんまりとした家からはなぜだか懐かしい気がした。同時に、涙が込み上げてくる。
「…ここですか?」
「そう!ここだよ!」
私はそういいながらドアを何回かノックする。そうすれば、私の母が出てくる。母は驚きの表情を浮かべている。その次に──────
バチンッ
そんな、音の次にやってきたのは右頬の激痛。叩かれた。実に母に。じわりと、溜まってた涙が流れ出す。
「───ぇ。お、おかぁさん?」
思わずそう声が出る。私は勢いで倒れ込んでしまった姿勢から、やや視線をあげる。
そこには、顔を真っ赤にした母親が悪魔のような顔を浮かべながら私の頬を叩いた手を震わせていた姿があった。
「なんであんたが生きてんのよ!!なんで死んでないのよ!!気持ちわるい!!!!!!」
「ま、まま。私、帰ってきたんだよ?おうちに。なん、で」
この言葉は私ではない。なぜだか勝手に言葉が喉を通る。過呼吸になり、声が涙声になり始める。それでも、疑問が尽きない。
なんで叩かれたの?なんで怒られてるの?なんで罵倒されてるの?
「自分を『私』だなんて言うな!!気持ち悪い!男のくせに女のように振る舞うなって言ってんだよ!!消えろよ!!死ねよ!!なんで魔獣に食われてないんだよ!!!」
「ぁ、ごめんなさッ」
「喋んな!!その声も、その見た目も、その性格も何もかも嫌いなんだよ!!あの女そっくりだわ!!!あのなよなよしたあのクソ野郎に!!!」
「ごめんなさい!二度と女みたいにしないからぁ!ごめんなさい、ごめんさない…!!」
「やっと消えたと思ったらなんで死んでないんだよ!!迷惑なんだよ!!生贄なんだから大人しく食われればよかったのに!!この村のヤツら全員死ぬんだよ!!お前が身勝手に生きたせいで!!生き汚いヤツめ!!死ね!!早く死んで償えよ!!」
私はそのまま髪を掴まれ、勢いよく投げ飛ばされる。そこまでの距離ではなかったが、確実に心のどこかにヒビが生えた。
あぁ、そうなんだ。私が家に着いた時の涙って───帰ってくる恐怖の涙だったんだ。
私は、突然思い出されたこの体の記憶を辿る。
私はお母さんとお父さんとの間に生まれた子供だった。そう思ってた。けど、本当はお父さんがほかの女と浮気した時に作られた子供らしい。お母さんは、お父さんに捨てられて、私の面倒まで擦り付けられた。
お母さんは、私の事が相当嫌いらしい。飯抜きなんて当たり前で、家の中にすらそうそう入れられず。生贄として捧げるため、という邸で殺さなかっただけらしい。
ワタシハアイサレテイナカッタ。
それだけなはずなのに。そんなこと、ありふれたルートのひとつのはずなのに。私は、涙を止めることが出来なかった。私の顔は血と涙でぐちゃぐちゃになっていく。前と、逆みたいだ。なんて、力が抜けていくことを実感しながら思う。
呆気ない死だ。でも、死ぬ前に一つだけ。一つだけ望ませて欲しい。
誰か私を愛して。私は愛に相当飢えているらしい。
ここで切ります!今回は3000文字!贅沢に書かせてもらいました!何度も消しては書き直して、消しては書き直して…。それでも上手くいかずに試行錯誤させてもらいました。いつもだいたい40分くらいで物語書いているのですが、今回は1時間半くらい…ほぼ倍ですね。びっくりですよはい。今回は私の思想をねじ込ませてもらいました。まあ、親から必ずしも、また誰もが愛されているわけではない、このことが書きたくて書かせてもらいました。皆さんもどうか、親を大切にしてください。こんな偉いことを語っていますが、私は割と恵まれた生活を送っています。けど、まわりだと割とそういう人が少なくて…。皆さんにも知ってもらいたいと思って今回は書きました。
今回の題名『ヒアイ』は悲哀、非愛。そんな意味を込めさせてもらいました。また、H愛という無理やりな読み方もできるようにしてます。題名について説明すると、皆様の考えが狭まるため、あまりしないのですが…今回は特別ということで。
それでは!おつはる!
コメント
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久しぶりに見たけど表現力が格段に上がってて最高ですぜ兄貴... 元の子の境遇も可哀想がすぎる てかみんな可哀想で涙🥲︎
最初みたときの感想 「うわぁ...うわぁ...親ヤバ」
元の子も可哀想ね