鬼族の村の入り口付近。しばし、ナジュ父とリゥパは見つめ合ったまま、無言の時間が続く。やがて、その時間に耐えきれなくなったムツキが恐る恐る口を開く。
「えっと……、お義父さんとリゥパが知り合いだったのか? リゥパが言っていた知り合いはお義父さんってことか?」
リゥパはムツキの問いに頷く。疑うな、と言わんばかりに彼女は彼をジッと見つめる。
「昔、ちょっとね」
「…………」
リゥパは答え、ナジュ父は無言のまま、ポリポリと頭を掻く。ナジュミネは何が何だか分からないといった様子だ。そこに割って入るのは、怖いもの知らずのメイリだ。
「えー、なんだか怪しいなあ。ひょっとして、もしかして? えー、そういうこと?」
メイリがニヤニヤしながら思わせぶりなことを言うと、リゥパが彼女の頭を軽くポンポンと叩く。怒っているというよりは注意をしているといった感じである。
「メイリ? さすがにムッちゃんの前でそういう邪推は怒るわよ? そんなのじゃないから。ちゃんと……教えるわよ。というか、教えないと無表情で睨み付けているナジュミネに後で何されるか分かったもんじゃないわ……」
ナジュミネは先ほどの様子から、リゥパを視線で射殺そうと思っているかのように凝視している。
「……そんな顔してないよ?」
「いつもと口調が違うのが怖いわよ……」
ナジュミネの口調がいつもと違うため、リゥパがドキッとして後ずさりする。
「いや、ナジュはここだと口調が昔に戻るんだよ」
「あぁ……そうなのね……。えっと、あー、……もう! 簡単に言うと、カイが昔、樹海に来たことがあった時に私が告白してフラれました! カイには既に想い人がいるって言われたの! その時に、二度と顔を見せるな! って、私が言ったのに、今、会っちゃったから、お互いに気まずいだけ! はい、終わり!」
リゥパは早口でざっと説明する。自分がフラれたということを説明するのが恥ずかしかったので、彼女の顔は真っ赤に染まっている。
「……ほんと?」
「本当よ! ね、カイ?」
「そうだな」
ナジュミネが無表情で疑いの眼差しを父親とリゥパに向ける。
「仲良さそうね……」
「……ナジュ。リゥパは母さんの命の恩人だ」
ナジュ父が仕方なくと言った感じでナジュミネに説明する。彼女の目に生気が戻る。
「……え、そうなの?」
「……母さんが死に瀕する病になった時に、特効薬になる樹海の薬草を煎じてくれたんだ。わしは世界を駆けずり回ったが、樹海しかないとなって、無理やりに侵入した。その時にリゥパと会った」
ナジュミネはその事実にも驚くが、普段以上に長い話をする父親にびっくりする。
「やめてよ、命の恩人とかガラじゃないんだから! その時、煎じた薬草にはフラれた私の涙が入っているんだからね! もう、恥ずかしいんだから!」
「リゥパ、疑ってごめんね」
ナジュミネがリゥパの両手を手に取り、真摯に謝る。しかし、リゥパは彼女の口調がいつもと違うので、調子が狂いっ放しだ。
「ちょっと、ナジュミネのその口調はなんだか調子狂うわね……まあ、誤解が解けたならいいわよ。それよりも、さっさと漢どうしの拳の語らい? を始めたら?」
「そ、そそ、そうだな」
ムツキは話の衝撃が大きすぎて、まだ理解が追い付いていなかった。
「あ、ダーリン、動揺してるー。リゥパを取られた気分になっちゃってるんだー♪」
「そ、そんなことないぞ!」
ムツキがメイリにそう言うと、ナジュ父がゆっくりと口を開く。
「婿殿」
「は、はい!」
「わしは婿殿にナジュを取られたということであいこだ」
「そうでした! すみません!」
ナジュ父なりのフォローに、ムツキは90度になるほど頭を下げる。
「いや、あいこじゃないわよ……今の私はムッちゃん一筋なのよ? あいこって、どういうことよ……。カイがただただ負けてるだけだからね? ムッちゃん、勝ってるからね?」
リゥパのその言葉で女の子が全員で小さく笑う。
その後、ナジュ父に連れられて、鬼族の村の外にある場所に着いた。綺麗に草がむしられて、土が見える円形の場所は、何かの試合会場に使われているように整備されている。
「さて、と。では、マスターとナジュミネさんのお父さんの闘いを始めます。お互いに武器はナシの拳のみです」
ムツキとナジュ父はキルバギリーの言葉に肯く。
「お義父さん、胸を借ります!」
「それはわしのセリフだ」
その瞬間、ムツキやナジュ父よりも早く、ネコさんチームが一糸乱れぬ整列で待機していた。
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