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創作
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がたごと、なんて音を立てながら電車が揺れる。
先程まで座っていた椅子を、深く座り背もたれをつくった。
揺れている視界の中、後ろにある窓をふとのぞく。
田舎らしい独特の田んぼに、濁りかけている川の水、そして浅葱色の空。
夏らしさ、というものはこういうことだろうか。都会では味わえない空気だ。
「…玲香、暑くない?」
窓辺をずっと眺めていると、隣にいるお母さんが口を開いた。
ぱたぱた、と手をうちわ代わりにしているようだ。
小さな風がこちらにも流れてくる。
「…うん、暑くないよ」
今の返事、上手く言えたかな。
あまり不自然に返事を返して、親を困らせる訳にも行かない。
自分は親にとって、きっと迷惑な存在なのだから。
ぐるぐる嫌な思考が芽生えた。
少しでもこの気持ちから逃れるために、軽く自分の頬に手を置く。
生ぬるい体温が指にひろがる、顔が暑い。
自分を叩く勇気なんてなかった。
「玲香、そろそろ降りるわよ。荷物、ちゃんと持ってね」
親のその言葉に、ふと我に返る。
自分の膝の上にぽつんと乗せられている、重く大きいリュックの紐を掴む。
紐を肩にまきつけ、リュックにつけている小さなキーホルダーが小刻みに揺れた。
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