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「千鉱!!!!!」

部屋中に父さんの大きな声が響く。

「もういい、お父さんなんて嫌いだッ!!!」

俺は小さな体を震わせて、父さんに向かってそう叫んだ。


きっかけは些細なことだった。

それが何だったかなんてもう忘れた。

積もりに積もって、普段なら我慢できたことも出来ず、いつもなら言わないことを口に出してしまったんだ。

気がついた時にはもう遅い。

ハッと父の方を見ると、一瞬悲しそうな顔をして俺から顔を逸らし勝手にしろと言う。

その言葉を聞いてハッと頭から足まで冷たくなる。

やってしまった…と強く拳を握った。

子供の自分でも、父を傷つけてしまった事にどうすればいいか分からず心がチクリと痛む。

そして痛む胸の辺りのシャツを握って隠したんだ。


それからは、ずっとここに居てもしんどいだけだと。父は勝手にしろと言った、ならこの家から出ていこう。

なんて、本で読んだ主人公のような考えが何故か浮かんだ。

1歩出した足を引き返すのは違うし、それに喧嘩した手前すぐ戻るのは何かが引っかかる。

ならと、玄関の扉をサッサと閉めて家の裏側に行くと、そこには誰もいない静かな場所が広がっていた。

といっても、結界の中だし父以外に居るはずもない。生き物だって居ないのだから静かなのは当然。

草の生えた地面にお山座りをして顔を埋める。

すると、さっきまで我慢していた涙がポロポロと視界がぼやけるほどでてくる。

「うぅ…ひっ…」

頭の中には父さんに怒られたこと、言われたことが壊れたレコードのように繰り返し流れる。

基本的に優しい父があそこまで言うんだ。

自分が百パーセントとはいかなくても、悪いところがあるのは分かってる。

だけどと理由をただただ並べていく。

『勝手にしろ』

最後に言われたこの言葉が頭から離れない。

止まらない涙をそのままにしていたらいつ間にか眠っていた。

それからどれくらい時間が経ったかな。

と言っても、空はまだ明るいし周りは変わらず静かだ。

なんで俺はここに…と、寝ぼけた頭を起こすように瞼を擦りながら起き上がる。

ああそうだ…父さんと喧嘩したんだ。

思い出すとまた涙が溢れてくる。

そして、不安がつもりに積もる。

「いらないって言われたらどうしよ…」

父から直接言われてる訳じゃないけど。

面と向かって言われたら、俺は何処へ行けばいいんだろ。

ぼーっと、空を見ながら涼しい風が頬を撫でる。

視界の端で結界が波打った気がした。

「え?」

結界の方へ目を向けると、また自分より少し上辺りが波打った。

なんだろうと近づいてみる。

おかしい、外からはここが見えないはずなのに。

そっと俺も手を伸ばし結界を触ると向こう側から手が出てきた。

「わっ手だ」

いきなり出てきたから、俺はビックリして後ろに後ずさる。

すると、目の前にある手はグーパーと動かした後俺に向けて手招きをした。

「来いってこと…?」

怖いけど、この時は好奇心の方が勝った。

近くまで行ってみると、自分より上にあった手が俺の目の前まで下がってくる。

そして握手を求めるかのように手を差し出してきた。

「あくしゅ?」

恐る恐るその手を握る。

すると向こうも分かったのか、ゆっくり握り返してきた。

そして手のひらを向けろと、ジェスチャーで伝えてくる。

それに従い手のひらを上にしてみると、長い指が俺の掌に字をさらさらと書き始める。

「は、じ、め、ま、し、て」

一つ一つゆっくり書いてくれる。

それを声に出しながら読む。

そうしたら向こうが手のひらをこちらに向ける。

この手にも書けということか。

俺は慌てて、同じ言葉を書いたあと名前を聞くことにした。

すると、指が手のひらをと示したのでそっと自分の手のひらを当てる。

「ゆ、ら」

ゆらって言うんだ。

君はと問いかけてくるのに、ゆっくりゆらの手のひらに書く。

「ち、ひ、ろ」

少し考えたあと、指がこちらに向いてくる。

ちひろかとなぞられ、向こうからしてくる質問に答えつつ、俺は父と喧嘩したこと伝え相談に乗ってもらった。

それからどれ位話したか。

向こうからお願いがあると言われた。

「お願い?」

それは何か聞き返すと、俺はこの中に入りたいけど入れないとのことだった。

また入るには中の人からの許可がいる。

そうゆらは言うのだ。

「どうやったらいいの?」

やり方なんて知らない。

父さんや柴さん達だって教えてくれない。

どうやったらいいんだろう。

そう聞くと自分を招いて欲しいと言う。

声に出して呼べば入れるんだと。

結界ってそんな簡単だっけ…

でも、長いこと話したし悪い人ではなさそうだ。

そう考えた俺は結界に向かって話しかける。

「ゆらさんどうぞお入りください」

そう呼びかける。

すると目の前の結界がグワングワンと、波を打つように揺れ始めた。

そして、向こうからはスーツ姿の男の人が入ってくる。

怖い。

これが男の人を見て思ったことだ。

入れてから、知らない人を招いてしまった。

どうしよ、お父さんにも聞いてないのに。

喧嘩してることなんて忘れ、自分がしてしまったことに焦りを感じる。

家の方へと男を見ながら下がる。

すると、背にドンと壁が辺りもう下がれないことを悟る。

どうしようどうしようと、隙を見て逃げるかなんて考えるもこの人から目を離していいのか。

また目尻に涙が溜まってくる。

「千鉱…招いてくれてありがとう。会いたかったよ」

そう彼は、俺の前まで来ると膝をつき目尻の涙を長い指が拭いとる。

「へ…」

「さっきまで話してただろ。ゆらだ幽」

「ゆ…ら……あー!!!」

手のひらでなぞって話していた相手が、目の前のスーツの人だった。

それを知ると、驚きと共に涙が止まる。

この人だったんだ。

俺が驚いていると、幽はクスクスと口元に手を当てて笑いはじめた。

「千鉱は可愛いな」

俺の頭を撫でながら、頬を撫で止め目をじっと見る。見つめ返すと、渦巻いたような目を目尻を下げる。

「さて、千鉱はお父さんと喧嘩したのだったな。どうする?俺と共に来るか」

そうしたら、嫌な父の顔を見なくて済むぞ。

「!?」

「こちらにはお前を迎え入れる準備が出来ている。だからどうだ?俺の手を取るのは」

急な話についていけなくなる。

今日知った仲なのに、なんでこの人は知ってるのか。何故が聞きたいが、相手の有無を言わせない雰囲気に押されてしまう。

目の前に、今日何回も見て触った手の平が向けられる。

「大丈夫だ。外は怖くないし、俺がずっと一緒にいるからな。だから」

その身を俺に委ねればいい。

千鉱の目を、幽の手が覆いそう囁きかける。

千鉱は急に真っ暗になったのに警戒しつつも、力が抜けていくを抵抗できずされるがままになる。

さっきまでまっすぐ立っていた千鉱は、急に前に倒れそうになるのを幽が支え抱き抱える。

「あぁいい子だ。さあ千鉱俺の頬にキスしてみろ」

グッタリしていた千鉱が、幽の頬に手を当ててそっと触れるキスをする。

それに目を細め笑う幽と、肩に頭を乗せて無表情の千鉱。

「さて、父親に別れの挨拶をしにいこう」

「はい…幽さん」


幽は、横目に千鉱を見ると目が座っており先程までコロコロ変わっていた姿はもうない。

まるで操り人形のようだ。

だがこれも順調に進んでいる証拠。

最初からこの予定だったのだ。

千鉱を自分の手元に置き一緒に地獄で踊ろうと。

そのための序章にしかならない。

この日のために色々な策を練った。

こうも簡単にことが運ぶとはな。


千鉱を抱えたまま、結界の外へ呼びかける。

「さあ始まりだ」

外から結界の破壊の音が響くが、それにすら反応しない千鉱。

表側からドタバタと人の音がする。

計画通り、妖刀と千鉱を奪ってこの世を地獄へとまたあの世界へと変えよう。

愛しいこの子と一緒に地獄でワルツを

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