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第7章 文化祭・メイド喫茶
朝から学校はいつもと違う賑わいに包まれていた。廊下には模造紙や看板、音楽があふれていて、空気がわくわくしてる。
「いらっしゃいませ〜♡ご主人さま!」
教室の扉を開けると、クラスの女子たちの可愛い声が飛び交った。
黒と白のフリルのエプロンに身を包んだ同級生が、次々とお客さんを席に案内していく。
私も同じ衣装を着ているのが信じられなくて、鏡を見た時は顔から火が出そうだった。
けれど、周りの友達に「似合うよ!」と背中を押されて、なんとか頑張っている。
「〇〇〜!お客さん一人ご案内お願い!」
呼ばれて振り返ると――そこにいたのは、亮くん。
「……なんで来てんの。」
思わず小声で言ってしまう。
「いや、クラスの出し物見に来ただけ。で、案内してくれんだろ?」
そう言って、軽く手をあげる彼。
「……こちらへどうぞ、ご主人さま。」
ぎこちない声で言うと、亮くんは目を細めて笑った。
「うわ、真面目にやってんのが逆に面白い。」
「もう!からかわないで!」
むっとして前を歩くと、後ろから「でも似合ってるって」と少し照れた声が聞こえた。
席に座った亮くんに、友達がすかさず寄ってきた。
「亮くん!メニューどれにしますか〜?オムライスとかケーキとかありますよ!」
「……じゃあ、オムライス。」
にやにやしながら私の方をちらっと見る。
「はーい!じゃあ、〇〇が担当ね♡」
友達に背中を押され、私は仕方なくキッチンに向かう。
数分後、熱々のオムライスを運んで机に置く。
「……こちら、オムライスでございます。」
一礼すると、亮くんは楽しそうに肘をつきながらこっちを見ていた。
「で、ハート描いてくれるんだろ?」
「えっ!?」
「この店、そういうサービスだろ?やってくれないの?」
「……っ」顔が一気に真っ赤になる。
すると、隣のテーブルにいた友達がちゃっかり口を出した。
「〇〇〜!『おいしくな〜れ♡』ってやつも忘れないでね〜!」
「ちょっ……余計なこと言わないで!」
「おい、早くやってみろよ。俺しか聞いてねーから。」
亮くんのからかうような低い声に、胸がドキンと鳴った。
震える手でケチャップを持ち、オムライスにハートを描く。
「……お、おいしくな〜れ♡」
小声で言うと、亮くんは吹き出して笑った。
「声、ちっさ。俺にしか聞こえてねーじゃん。」
「それでいいの!」
ぷいっと顔を背けると、亮くんは笑いながらスプーンを手に取った。
ひと口食べて、ふっと真面目な顔になる。
「……ちゃんと美味しい。ありがとな。」
その一言に、胸がまた跳ね上がる。
するとまた友達が寄ってきて、からかう声を上げた。
「なになに〜?二人でいい雰囲気じゃん!」
「もう!違うから!」
「でも、亮くんの顔赤いよ?」
「……っ」亮くんは思わず下を向いて耳まで赤くなっていた。
私はその姿を見て、心臓がさらに早くなるのをどうにもできなかった。