「姉さぁーーん!姉さあーーーん!!!」
ドタバタと蝶屋敷の廊下を駆け回るしのぶ。自分を探すその姿はさながら犬のようだとカナエは思う。
「落ち着いてしのぶ、どうしたの?」
はぁはぁと息が荒れ、肩で呼吸をしているしのぶを捕まえる。
「ねッ、姉さんッ!!かなっ、カナヲがっ!」
「カナヲに何かあったの…!?」
最近新しく家族になった愛しの妹の名前を出されカナエも少々焦ってしまう。それに気付いたしのぶは慌てて「違う違う」と首を横に振る。
「カナヲがねっ!喋ったの!!」
キラキラとした瞳でそう言われ、カナエは大きな目を更に見開いた。
「まぁ!本当に?何て言ったの?!」
ここ、蝶屋敷に来てから2日目が経った。一言も喋らなかったカナヲがついに。説明が下手な己と違い、しのぶは教えるのが上手く、得意であった。やっぱりしのぶに頼んで良かったわ、と心の中で喜ぶ。
「「栗花落カナヲ」って!自分の名前を言えたの!」
カナヲが自分で選んだ苗字。名付けは決めたのは自分だけれど、気に入ってくれていたようだった。
「んまぁ〜!カナヲ〜!」
先程のしのぶと同じくドタバタと廊下を走りカナヲが居るであろう部屋へと向かう。これでも柱である。気配で察知するなどお手の物。
「カナヲの声、姉さんも聞きたいなぁ!」
スパーンと襖を開ける。するの案の定そこにはカナヲとアオイがいた。一緒に自分の名前を書いている。
「カナエさま!」
アオイもしのぶと同様に青色の瞳を輝かせていた。
「姉さんだけカナヲの声を聞いてないなんて仲間はずれだわ?」
「………」
カナヲの隣にちょこんと座りその小さい可愛らしい口が開くのを待つ。今か今かと動悸がおさまらない。
「もう姉さん、カナヲが困ってる!凝視するのやめてあげて!」
「…………~~~~、」
「!」
カナエはカナヲの口が開いたのを見逃さなかった。何と言っているのかは聞き取れなかったが、高く幼く、可愛らしい声だ。
「カナヲ〜!!可愛いわぁ!!」
耐えきれなくなりカナエはぎゅーっ!とカナヲを抱きしめる。習字の墨が羽織にかかりそうになりしのぶはヒヤッとした。
「それに字も上手ね!!流石ねカナヲ!」
可愛いは正義ー!と叫び、困惑しているカナヲを置いてけぼりにカナエは1人突っ走っている。
「カナヲが困ってるわ!」と再度注意しようとしたしのぶは「しのぶの教えも凄いわねぇ!」と褒められ一緒に抱きしめられてしまい照れて何も言えず終いになる。
見てるこちらが恥ずかしいくらいに仲の良い胡蝶姉妹にアオイは人知れずいいなぁと思う。
「わわっ…?!」
急に腕を引かれ誰かに抱きしめられた。
____それは誰でもない、カナエである。
「ふふっ、可愛いもう1人の妹を放っておくわけないでしょう?」
女神のような、天女のような、この世の美しいを兼ね備えた微笑み。アオイは恥ずかしさも感じたが、なにより嬉しさが心を満たした。
終
コメント
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カナエ姉さん素敵です🫶🏻️💞 心温まるストーリーに癒されましたァ〜!!