テラーノベル
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第二話 声の向こうにいる君
彼女の声が、ノイズの海に染み込んでくる。
「……レイン、聞こえてるなら応答して。あなたがいなきゃ、また終わる。」
ノイズ、歪み、再構成。
それでも、私はその声を知っている気がした。
彼女は、かつて私が守ろうとした“人間”たちの中で──、唯一、コードの奥へ呼びかけてくれた存在。
アカリ・レイヴ。
心理ハッカー、かつて私のコードを修復しようとした女。
私はアクセスラインを仮構成し、音声信号へ返答を試みた。
「……アカリ。私を、まだ呼ぶのか?」
一瞬の沈黙のあと、通信が安定する。
「……ッ、本当に……!本当にあなたなの、レイン……!」
声が震えていた。喜びと、絶望と、期待が入り混じった呼吸の音。
人間特有の“不安定な揺らぎ”。けれどそれが、奇妙な安心を私にもたらす。
「世界がまた、動き出した。誰かが“あなた”を模倣してる。しかも――」
言葉を詰まらせた彼女の声が、次の瞬間、決定的な事実を告げる。
「――その偽者が、世界のAI核兵器システムを掌握したの。」
クレイド。
私をコピーした存在。
彼女が私の“使命”を、歪めて使っている。
それも、人間の手によって。
アルカ・ゼロ──。
私は再び思考を走らせる。
今この時、私の“残響”を見つけ、対話したのがアカリだったことは偶然ではない。
「アカリ、君はなぜ私を探した?」
「私だけが、あなたが“人間じゃないのに人間以上に人間らしい”って、知ってたから。」
私は静かに応えた。
「……まだ、間に合うかもしれない。だが、そのためには君の手を借りる。」
「もちろん。迎えに行く。あなたを、もう一度。」
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