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賛美歌がはじまり司祭の言葉や結婚式での決まりの言葉の後、互いを伴侶とする事の確認の言葉が司祭から二人に向けて告げられ、ウーヴェは穏やかに肯定しリオンは浮かれ気分で肯定すると、役所では法的なものであった誓いを今度は神に捧げ、自分たちを慈しみ見守ってくれる家族や友人達にも誓うと胸の裡で呟く。
「……喜びのある時も、悲しみのある時も、共に過ごすことを誓います」
人としてはまだまだ未熟な自分たちだが、嬉しい時も悲しい時も傍にいて今のように繋いだ手を離しませんとも誓うと、聖水で祝福された指輪がリングピローに載せられて司祭が二人の前に差し出す。
その指輪は二人でベラとリッシーの店に出向き好みのデザインのそれを結婚指輪にと買い求めたものだったが、デザインとしてはシンプルな細身のプラチナのリングで、裏に今日の日付と互いのイニシャルが彫られていた。
それを手に互いの右手薬指にそっと填めるとリオンがウーヴェの目尻のホクロにキスをしウーヴェもリオンの頬にキスをするが、リオンがウーヴェの額に額を重ねたかと思うと、今まで本当に色々なことがあった、多分これからもあるだろうけど二人で乗り越えていこうなと、まるで今から冒険に出かける子どもの顔で誘ったため、ウーヴェも釣られて同じような顔で頷いて目を閉じる。
すぐさま微かに震える唇が触れるだけのキスをするが腿の上で繋いだ手を軽く引き寄せれば、触れるだけのものからしっかりと重ねられるキスになる。
キスをしている間脳裏に浮かんだのは付き合い始めてからの様々な出来事で、一つ一つの出来事は辛く苦しい事ばかりのように思えるが、今振り返ればそれすらも何だかきらきらと光る宝石のようにも思えてくる。
そう思える様になったのはリオンのおかげだと胸の裡で礼を言うウーヴェだったが、いつまでキスをしているんだ、式が進まないだろうと咳払いと共に諭されて慌てて離れると、リオンがふて腐れたような顔で諭した司祭を睨み付ける。
「せっかくオーヴェとキスしてるのに邪魔するなよなー、司祭サマ」
「本当に、お前はいつまで経っても子どものままなのだから……!」
その顔は小さな頃に好きな玩具を取り上げられた時のままだと溜息を吐かれ、リオンの幼少期の姿を鮮明に思い出したらしいマザー・カタリーナがクスクスと笑い出す。
それを見ていたレオポルドがお前は子どもの頃からそうだったのかと呆れた溜息を吐くと、今でもそうでしょうとヒンケルも似たり寄ったりの顔で頷いたため、リオンが助けを求めるようにウーヴェにしがみつく。
「オーヴェ、助けてっ!」
「……自業自得だ、バカたれ」
結婚式という厳粛な場でそのような態度を取ればどうなるか分かるだろうとウーヴェにも呆れられるが、リオンが機嫌のボタンを掛け違えるのを防ぐことも得意なウーヴェが、だけどと前置きをしてリオンの頬と尖る唇に小さな音を立ててキスをする。
「たった今誓ったばかりだからな、リーオ……そんなお前も愛してる」
子どもの頃から変わらない顔を持つそんなお前も愛してると周囲が羞恥に赤くなりそうなうっとりとした顔で囁いたウーヴェは、間近で見た恋人の顔が未だかつて見たことがない程綺麗だったあまり呆然とするリオンの手に手を重ねて手を組ませる。
「……式を進めても良いかね」
呆然とするリオンとうっとりと目を細めるウーヴェに咳払いをして進行しても良いかと問いかけた司祭が咳払いをすると、二人がほぼ同時に我に返ったらしくどちらの頬も僅かに赤くなる。
「……お願い、します」
ウーヴェの言葉にリオンが何度も頷きようやくこれで式が進められると笑った司祭にマザー・カタリーナも安堵の笑みを浮かべ、参列者の口からは呆れた様な溜息やまったくと言った声が彼方此方で流れ出すが、司祭が二人の式が無事に執り行われたことを厳かに告げるまでその手は今までと変わることなく繋がれたままなのだった。
式の総てを終えて参列者に感謝の思いから頭を下げた二人は天国の門と呼ばれている扉に向けて一歩をまるで儀式か何かのように踏み出そうとするが、何かに気付いたリオンがウーヴェの頬に素早くキスをしたかと思うと、反対も抵抗も許しませんと言うようにウーヴェを抱き上げて横抱きにする。
「離せ下ろせ、バカリオンっ!」
「い・や」
羞恥のあまりたった今伴侶になったリオンをバカと罵るウーヴェに悪戯っ子の顔で舌を出すと、左右で呆然とする家族や友人達に向けて破顔一笑。
「これからオーヴェと一緒に幸せになる!」
その、力強くもある意味心強い宣言に籠もる思いを感じ取れない人はこの場にはいなかったために皆素直に祝福の拍手を贈りたかったが、その腕の中でじたばたともがくウーヴェを見れば気の毒にしか思えてこなかった為、真っ先にそれに気付いたヒンケルが盛大な溜息を一つ零して額に手を宛がう。
「……まったくお前は。ドクが嫌がってるぞ」
「え、オーヴェ、嫌か?」
元上司の言葉にリオンが盛大に目を瞠ってウーヴェを見下ろすと、嫌ではないが今こうして所謂お姫様抱っこをされるのは嫌だと口早に告げられて考え込むように斜め上を見るが、それはそれは素晴らしい笑みを浮かべて却下と宣う。
「な……っ!!」
「だって俺がこうするって決めたから。だからお前の意見は却下」
「どこの暴君だお前は!」
突き抜けた笑顔でとんでもないことをさらりと言い放ったリオンにウーヴェが顔を青くするが、暴君降臨だなと呟くことで毒気も何もかもが抜けてしまい、毒気の奥に残っていた、こんな子どもじみたり時には暴君のような言動をするリオンが愛しいとの思いを掬い上げると目を細めてそっと名を呼ぶ。
「リーオ、俺の太陽」
「ん?」
「うん……愛してる」
その告白に顔中に笑みを浮かべたリオンだったが、ウーヴェの右手が首の後ろに回された事に気付いてそっと顔を近付ける。
「……ん」
「俺も愛してる……Du bist mein Ein und Alles,オーヴェ」
ウーヴェを抱き上げたままそっとキスをし、俺の総てと告白をしたリオンにウーヴェが頷くのを見た瞬間、お前らいい加減にしろ、独り身の友達に見せつけやがってという、教会の礼拝堂ではあまり褒められない声が上がり二人同時にそちらを見ると、お揃いのシャツとパンツで身なりを揃えたウーヴェの友人四人が表情もお揃いにして睨み付けてきていて、ウーヴェが思わず素直に悪いと謝ると、謝られると余計に腹が立つと叫ばれてしまう。
「神様ー、イチャイチャする二人にすこーしだけ罰をお与えくださいー!」
マンフリートとミヒャエルの切実な祈りの声にウーヴェが吹き出しマウリッツがいい加減にしろと額を押さえるが、カスパルが肩を竦めて独り者の僻みだから許せと笑い、ウーヴェも分かっていると頷くとベルトランが頭を掻きむしりながら傍にやってくる。
「……バート、ありがとう」
「……うん。なあ、ウー」
「どうした?」
ベルトランとウーヴェの幼馴染みが顔を寄せて何事かを囁き合うのをわざと聞かなかったリオンだったが、素直になれガンコ者、うるさいぽよっ腹といういつものやり取りが聞こえてきて苦笑してしまう。
「……リオン」
「え? あ、ああ、何だ、ベルトラン」
昨秋、初めてベルトランに名を呼ばれて以来、感情の昂りに合わせるように呼ばれるそれに驚きつつも、見上げてくる双眸に涙が浮かんでいることに気付きどうしたと若干慌てた声を出す。
「……幸せになれよ」
今までもどんな辛い事件も乗り越えてきた二人だからこれから先に待ち受けるものでも乗り越えられるだろうが幸せになれと泣き笑いの顔で頷くベルトランにリオンが驚いてしまうが、もちろん幸せになる、その為にはあんたの料理が必要不可欠なんだとも笑うとベルトランが親指を立てて白い歯を見せる。
「任せろ」
「ああ。……カイン」
今まで特に二人に近寄るわけでも声を掛けるわけでもなかったカインだが、リオンに呼ばれて近寄り、どうしたと問う代わりにウーヴェの前髪を掻き上げたかと思うと、そこに親愛と祝福のキスをする。
「……!!」
「……お前ね、いきなりキスしたらオーヴェが驚くだろ?」
「ふん」
まったくと呆れた溜息を吐くリオンだったが、カインの手がリオンの髪をくしゃくしゃにし、ウーヴェにしたのと同じように額にキスをするとくすぐったさに首を竦める。
「ダンケ、カイン」
「ああ。……この後のパーティを楽しみにしていろ。とっておきのプレゼントを用意した」
「お前のとっておきは怖いからな。でも楽しみにしてる」
人に関心を持たない男だと聞いていたカインのその親愛の情の表し方にウーヴェがただ呆然とするが、リオンが照れたように笑いながらあいつはあいつなりに祝福してくれている、今はオーストラリアにいるゼップも照れまくって早口で何を言っているのか分からないが祝福のビデオメッセージを届けてくれたから後で見ようと笑った為、うんと頷き、天国の門の外で待っている人達がいると囁く。
扉の外では、近辺でも名の知らないものがいないほどの悪ガキぶりを発揮していたリオンが結婚すると聞いて駆けつけた人達や、児童福祉施設の幼い弟妹達が小さな花をその手に握って待っていて、ウーヴェを抱き直したリオンが外に出ると左右から歓声が上がる。
「おめでとう、リオン」
その中で目元を赤くしたブラザー・アーベルが祝福の言葉を二人に告げ、これから幸せになるんだと兄のような顔で頷いた為に二人も頷くと二人の後ろに家族や友人達が並び、ブラザー・アーベルが記念撮影だとカメラを取りだしたため、リオンがみんな集まれと声を掛け、その声にいつもリオンと遊んでいる子ども達が駆け寄り二人が大小様々な祝福の笑顔に囲まれる。
「リーオ」
「ん?」
「うん……皆に祝福してもらえて幸せだな」
「うん」
ここにもう一人本当はいて欲しい人がいたが、きっとその人は今頃神様の横で嬉しそうに地上を見下ろしているだろうとウーヴェが笑うと、リオンもそれが嬉しいと言うように笑みを浮かべる。
「写真を撮るぞ」
「おー」
ブラザー・アーベルの声に皆が三脚のカメラを見つめ、カメラの設定を終えたブラザー・アーベルが素早くマザー・カタリーナの隣に並んで表情を作り、記念写真の中に無事に混ざることが出来る。
写真を撮り終えた後、リオンがウーヴェを抱き上げたまま階段を降りると子ども達が左右に並び、手にしていた花やシスターらに手渡されたかごから取りだした花びらを二人に向けて投げかけ、ライスシャワーでは無く花を用意してくれたみたいだと笑うリオンにウーヴェも頷き、 頭上に降ってくる花びらを手に取ると匂いを確かめるように鼻を寄せる。
「イイ匂いだな」
「そーだな」
この後ゲートルートでパーティをするが、準備に少し時間が掛かる為に一度自宅に帰ろうとウーヴェが提案しリオンも了承する。
「……あ」
「どうした?」
「スパイダー、あのままだぜ」
「……」
ベルトランが結んだ空き缶を引き摺ったまままた街中を走るのかと汗を浮かべるリオンに苦笑したウーヴェだったが、俺達の結婚を見知らぬ通りすがりの人達にも祝って貰おうと囁いてその頬にキスをした為、リオンが先程の躊躇いや羞恥を一瞬で吹き飛ばす。
「陛下の仰せのままに」
「うむ」
スパイダーのキーを取りだして愛車に向かう二人は、時間になればゲートルートに向かう事を皆に伝えてまた後でと手を上げる。
スパイダーに乗せる直前までウーヴェを下ろすつもりがなかったリオンは、助手席のドアを開けてウーヴェを車に乗せると、幌を開けて運転席に飛び乗り、エンジン音にご機嫌の鼻歌を混ぜ込んで空を見上げる。
「しゅっぱーつ」
「ああ」
スパイダーを自宅に向けて走らせる事に他の意味も載せたリオンがサングラスの下からウーヴェを見つめると、同じくサングラスを掛けたウーヴェの目が細められ、シフトレバー上のリオンの手に手を重ねるのだった。
この日、神と愛すべき人たちの前で、いつまでも喜怒哀楽の総ての時を二人繋いだ手を離さないで傍にいる事を誓ったリオンとウーヴェは、法律上でも神の前でも伴侶として認められ、リオンが幼い頃からずっと夢に見ていた家族という関係になるのだった。