翌朝、出社すると岩隈の失脚に関する噂は、お喋りな女子たちの手によって社内全体にまで広がっていた。
どこへ行ってもその話題で持ちきりで、理人は少しばかりうんざりしていた。
そんな中、自席で溜まった書類を片付けていると、朝倉がおずおずと近付いてきた。 用があるならさっさと言えばいいものを、彼は一向に話し出す気配がなく、ただ理人のデスクの前に立ち尽くしている。
「……何か?」
募る苛立ちを隠さず、理人は椅子を回転させて朝倉に向き直った。ギロリと睨みつけると、朝倉はびくりと肩を震わせ、気まずそうに口を開く。
「あの、部長……。少し、お話があるのですが」
「ここでは話せない内容か?」
「……はい」
不審に思いつつ視線を上げると、目が合った瞬間に朝倉は怯えるような表情を浮かべ、サッと目を逸らした。
(このままでは埒が明かないな……)
理人は小さく息を吐き、椅子から立ち上がった。
「わかった。……行くぞ」
「えっ、あっ……」
有無を言わさず朝倉の腕を掴み、エレベーターへと向かう。年齢こそ朝倉の方が十以上も上だが、会社という組織において立場は自分の方が上だ。
時間の無駄だと言わんばかりの態度でエレベーターに乗り込み、最上階のボタンを叩きつけるように押した。
上昇する箱の中、朝倉は無言で俯いたままだ。本当に気の利かない男だと理人は内心で嘆息する。
「あの、部長……どこへ行くんですか?」
「……」
ようやく口を開いたかと思えば、それだ。理人は答えず、階数表示パネルをじっと見つめる。
妙に居心地の悪い静寂が、狭い空間を支配していた。
ふと隣を盗み見ると、朝倉は相変わらず何を考えているのか分からない能面のような顔をしている。
いつもなら目を見て話すはずの彼が、今日は執拗に視線を落としているのが、どうにも引っかかった。
屋上に辿り着き、重い扉を押し開く。 空はどんよりと薄暗く、分厚い雲に覆われていた。
肌を刺すような寒気がピリピリと痛い。これから雪でも降るのだろうか。
周囲に誰もいないことを確認し、理人は振り返った。
途端に、朝倉が目に見えて身体を強張らせる。
「で。話ってなんだ? 手短にしろ」
「……じつは、その……確認してもらいたいものがありまして」
「私にか?」
要領を得ない話し方に、理人の眉間の皺が深くなる。わざとらしく溜息を吐いてみせた。
「そんなものは、メールで送ってくれればいいだろう」
「いえ……直接確認していただきたいんです。部長の、その目で」
「はぁ? なんだそれ……」
朝倉が無言でスマホを差し出してきた。 冷めた目でその画面を覗き込んだ瞬間、理人の心臓がドクリと跳ねた。
映し出されていたのは、薄暗いオフィス。 その中心で、縋るように互いを求め合い、濃厚なキスを交わす二人の男。
――自分と、瀬名だった。






