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俺は、記憶にある頃から一人だった。
家族はいない。
死んだのか、捨てられたのか。
とにかく貧しい時代だった。
そんな中でも俺は、馬鹿正直に生き、馬鹿みたいに死んだ。
騙されて殺された。
その時代にあって、なぜ人を信じたのか。
周りのやつらは、死んだ俺を嘲笑っていたことだろう。
今の俺でさえ、ため息をつくほど愚かな事だ。
だが、死んだ事で清々していた。
不毛な毎日から解放されて、ようやく静かに眠る事が出来るからだ。
安心して眠った事など、一秒たりと無かった。
それがどうだ、貪るように眠る事が出来るなど、まさしく夢のようだ。
やっとの惰眠を邪魔されたのは、女神を名乗る女の声で起こされた時だった。
――かの地で生き、世界を担う一人となるように。
意味の分からない言葉と、そして、見た事もない世界がそこにあった。
温かな家庭。
味わった事のない幸福。
優しい両親と、さらに聖女のような姉。
俺はそこに生まれ、そこで育てられた。
家族のために何でもしたし、する事はほとんど褒めてもらえた。
幸せな生活。
戦争が始まるまでは。
国境付近の村だったのが災いした。
突如急襲された故郷は、あっけなく蹂躙された。
少ない人数で善戦はしたとも言えるが、それはほんの数十秒足らずの話。
数に押し負けた。
当然といえば、当然の結果。
誰もが家族を守るために戦い、誰もが家族のために死んだ。
俺だけが、逃がされるという……死んでも死にきれない悪夢を残して。