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「ちょ、ちょっと待って下さい。一体どうしたんですか?」
「こっちにきて」
本宮さんは、私を強引に自分の机まで引っ張っていった。
「ちょっと、だから何なんですか?」
私の問に対し、本宮さんは机の上に散らばった資料を指さした。
「……これ、手伝って」
えっ、ちょっと待って……
まさかこの資料整理を打ち合わせ中の私にさせるつもりなの?
御曹司だからって、わがまま言う気?
「早く手伝って、恭香」
え?!
今、恭香って言った?
さっき梨花ちゃんの前では私のことを森咲って呼び捨てしてたのに……
初めてあった男性に、いきなり名前を呼び捨てにされるなんて……正直、戸惑わずにいられない。
もう本当に何がどうなっているのだろうか?
「あの、資料整理くらいなら自分でやってもらえませんか? 私は梨花ちゃんと打ち合わせ中なんです。本宮さんもわかってますよね? 今必死でお菓子のコピーを考えてるんです。邪魔しないでもらえますか」
「……わかってる。だけど、苦手なんだ」
「に、苦手?」
「ああ、だから手伝ってほしい。その代わり、今日、晩御飯ご馳走する」
晩御飯って、なんて自分勝手!
心の声がさっきからずっと口から飛び出しそうになっている。
でも……
そんな綺麗な瞳でじっと見つめられたら……
「し、仕方ないですね。きょ、今日だけですよ」
嘘だ……
私はなぜOKしたのだろうか?
自分でも驚いてしまう。
気がつけば、本宮さんのわがままに付き合うことになっていた。
私は、いろんな資料がバラバラになっているのを見てため息をついた。
本宮さんは、本当に片付けが苦手なようだ。
一見、几帳面なようにも見えるけれど、人は見かけによらない。
「こんなにたくさん……」
散らかった資料を整理しながら、私は考えた。
さっき晩御飯をご馳走してくれると言っていたけれど、本当に私を誘ってくれるつもりなのだろうか?
それとも、片付けてほしくて適当に嘘をついたのか?
口数が少ないから、さっぱり何を考えているのかわからない。
本宮さんはカメラを触っている。
高そうなカメラの手入れをしているようだ。
私は、横目ですぐ隣に座っている本宮さんを盗み見た。
キラキラしたオーラみたいなものを感じるのは御曹司だからなのか?
一弥先輩には無いオーラだ。
それにしても横顔がとても綺麗。
何だか見とれてしまう……
「何?」
「えっ!?」
本宮さんが、驚く私を見て言った。
「今、俺のこと見てた」
「い、い、いえ、み、見てません。見てないですから。変な言いがかりはやめてください。本宮さんの事なんて見てませんから」
必死に否定する私を見て、本宮さんは少し意地悪そうに微笑んで立ち上がった。
「恭香、俺のこと好きなの?」
あまりにもストレートな言葉に、死ぬほど動揺した。
「ち、違います!! 全然違います! そんなこと絶対にありません!」
私は、首を大きく左右に何度も振った。
「完全否定だな」
「えっ、あっ……す、すみません」
確かに、完全否定するのも失礼だったかも知れない。
「まあ、いい。資料整理よろしく」
そう言って、本宮さんはどこかに行ってしまった。
「……ほんとにもう。一体何なんだろう。とにかくこの資料、早く片付けなきゃ」
なんだか気持ちがドタバタだ。
本宮さん……本当に変わった人。
全くつかみどころがない。
良い人なのか、悪い人なのか、今はまだ全然わからない。
だけれど、立ち去る時の後ろ姿が、ほんの少し寂しく見えたのはなぜだろう?
私の気のせい?
そっか……
もしかして、さっきのオーラは負のオーラだったのかもしれない。
何か重苦しいものを背負っているのだろうか?
比べてはいけないけれど、本宮さんと一弥先輩は正反対な感じがする。
まるで陰と陽みたい。
確かに、二人ともかなりのイケメンには違いない。
それも、超がつくほどの最高級イケメン。
同じフロアに、こんなにもかっこ良い人が2人もいるなんて、ある意味奇跡なのかもしれない。
「森咲さん、何してるの? 打ち合わせはどうしたの? ちゃんと仕事してる? 頼むよ。全く……」
突然、石川さんに注意を受けた。
この言い方、本当に苦手だ。
ボーッとしていた私が悪いのだけれど……
「すみません。梨花ちゃんと打ち合わせしてたんですけど……」
石川さんには言えない。
本宮さんに資料整理を頼まれたなんて――
「早く打ち合わせして、なるべくたくさんコピーを出して。先方はとても厳しいから。100出しても1拾ってもらえるかどうかだよ」
「……はい、すみません」
「本当にわかってるの? 今回の仕事は絶対に失敗できないんだからね。失敗したら責任問題だ。君の失敗を背負わなければならないなんて困るからね。しっかりしてくれよ。最高のコピー期待してるから」
「……はい、しっかり考えます。すみませんでした」