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〜side蓮〜
正直、あの日からもう小野と会うことは無いだろうと思っていた。
彼女も自分と同じく暇を持て余したがゆえの行動だったのだろう、と。
けれどその予想とは裏腹、気づけばほぼ毎日小野と顔を合わせている。
「あれ?もう前読んでたやつ読み終わったの?」
「あぁ、まぁ途中からだったし。大して長くない作品だったから」
「ふぅん。で、今は?」
「今はこれ」
「…随分難しそうなのを読むねぇ、こういうジャンルってなんて言うんだっけ、純文学?」
「たしかそうだったと思うよ。父さんに借りたんだ。本の虫で、買ってもすぐ読み切っちゃって家に山積みでさ」
「へぇ〜、じゃあさ、今度なんかおすすめしてよ。私も、野上くんほどじゃないけど本は好きだし」
「そっか、それなら今度、選りすぐりのものを持ってくるよ」
そう言うと小野は微笑んだ。
夕陽に照らされて輝く笑顔に、知らない感情が芽を出すような。不思議な気分になった。
「遥」
いつかの日と同じように真山が顔を覗かせる。
こちらを渋い顔で一瞥すると、小野を手招きした。
「なに?」
「…遥、私ちょっと野上と話したいからさ、先昇降口行っててくれない?」
「いいけど…じゃあまたね、野上くん」
手を振る彼女に、曖昧な笑みを浮かべる。
それと入れ違いで今度は真山が向かいの席に座った。
「野上、だよね。ごめん、遥から話聞いてたから名前知ってた」
「いや別に、大丈夫だけど。君は、真山さんでしょ?」
「いちいちさん付けってめんどくさいし、真山でいいよ」
「わかった」
真山のキツい視線に、思わず目を逸らす。
そんな僕に構わず話を続けた。
「野上さ、遥のこと好きになっちゃダメだよ」
「は、?」
突拍子もない話題の切り口に、弾かれたように顔を上げた。
「急かもしれないけど、こうでも言っておかないと後悔するの、野上だから」
後悔…?
「それは、どういう意味」
「そのままの意味。あたし遥のこと凄く大切に思ってるから、遥のこと苦しませたくないの」
話の飛ぶ方向が分からない。
言葉のたった一端ですら、するりと手中を通り抜けていってしまうような、取り留めのない話に聞こえる。
そう聞こえる理由がただの驚きからか、言葉に表しづらいあの感情からかは分からない。
ただ呆然と、真山を見つめ返すことしかでき無かった。