テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
l 。 l 🏐
放課後の図書室。窓の外では、後輩たちの元気な掛け声が遠く響き、新しい季節の匂いが風に乗って運ばれてくる。
けれど、背の高い本棚に囲まれたこの「一番奥の席」だけは、数年前から時が止まったままのように、濃密で、逃げ場のない静寂が澱(よど)んでいた。
ノートを広げ、ペンを握る私の手首には、今は制服の袖ではなく、薄いレースのカーディガンが纏(まと)い付いている。
その下には、消えることのない指の跡と、幾重にも重なった赤黒い「独占の証」。
「……ねぇ、紬。またぼーっとしてる。何、俺のこと考えてた?」
隣から聞こえてくる、低く、少し鼻にかかった気だるげな声。
角名倫太郎。
大学に進学しても、彼は私のすべてを管理し、支配し続けている。
私のスマホには、今も彼以外の連絡先は一つも入っていない。私の視界に入る男は、彼の手によって一人残らず排除され、私の世界は「角名倫太郎」という一人の男だけで完結していた。
「……あ、……すみません。……角名さんのこと、考えてました……っ」
「……ふーん。いい子だね」
角名さんは満足げに目を細めると、私の腰を引き寄せ、当然のように自分の膝の上に座らせた。
図書室という公共の場。けれど、彼はもう周囲の目なんて気にしていない。
私が彼のものであり、彼が私の飼い主であることを、隠す必要さえなくなっていた。
「……ねぇ、紬。あの日、ここで初めて君を見た時。……まさか君が、こんなに俺なしじゃ生きていけない『人形』になるなんて、思わなかったよ」
角名さんの長い指先が、私の頬を、唇を、そして首筋の痕跡をなぞる。
私は彼に触れられるたび、身体が勝手に熱を持ち、従順に彼を求めてしまう。
「攻略不可」だと思っていた境界線は、もうどこにもない。
私は、彼の張り巡らせた蜘蛛の巣の中で、自由を奪われることに最高の快楽を感じる、哀れな獲物へと成り果てていた。
「……角名、さん……。わたし、もう……あなた以外、何も見えない……っ。……ずっと、そばにいて……っ」
「当たり前でしょ。……君を逃がすわけないじゃん。……一生、俺の部屋で、俺の腕の中で、俺のことだけ見てればいいんだよ」
角名さんは私の瞳を、その光を失った虚ろな瞳を覗き込み、陶酔したように笑った。
彼は懐から、一台のデジタルカメラを取り出した。
あの日、私が彼を撮っていた、あのカメラ。
「……今度は、俺が君を撮ってあげる。……俺だけのものになった、綺麗な君を。……一生、逃げられないように、記録してあげるから」
(シャッター音)
フラッシュの白い光が、薄暗い図書室を一瞬だけ暴力的に白く染める。
レンズ越しに結ばれた、歪な愛。
攻略完了の、その先にあった未来。
それは、二人だけの、出口のない、けれどこの世で最も幸福で残酷な「監禁という名の楽園」だった。
私は、彼の腕の中で、永遠に解けない呪いに身を委ねながら、静かに、幸せそうに微笑んだ。
角名先輩の甘い毒_fin
コメント
2件
角名さんまじさいこーすよね
まぢ面白かったです! 角名さんさいこー