テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
アレイゴの街を出て、早数日。
辺境に近付くにつれて、大きな街よりも小さな田舎の村が多くなってきた。
祭りが開催されていたアレイゴの盛り上がりが嘘のように、静かな山道と小さな村が続く。
街道を行く人の数も減り、景色を眺めながら馬上で揺られる時間が増えてきた。
いまだ追っ手がかかる気配は無い。
だが、安心は出来ない。ここはまだアトキンズ王国の領土なのだ。
一つの街にゆっくりと滞在することも無く旅路を急ぐのも、早く国外に出てしまいたいという思いからだろう。
私達が目指すのは隣国ボロミアにあるイグナーツの街。
グラディスさんが以前冒険者として滞在したことがあるという街だ。
魔の森に接していてモンスターの動きが活発だが、それだけ冒険者ギルドが賑わっている街とも言える。
街を治める辺境伯も穏健な人物と評判高く、アトキンズ王国の貴族から逃れて過ごすには丁度良い街だと聞いた。
まだ旅路は半ばほど。
グラディスさんと二人っきりの時間にも慣れてきた。
今は早く目指すイグナーツの街に着いて、のんびりと羽を休めたい。
そう思いながら馬を進めていると、不意にグラディスさんが手綱を引いた。
見上げれば、グラディスさんの瞳は鋭く細められ、前方を睨み据えている。
同じように前方に目を凝らすと、遠くに小さな影が見えたような気がした。
「あれは……?」
「馬車だ。魔物に襲われているようだな」
私からすると小さな点にしか見えないのだが、グラディスさんには馬車と認識出来ているらしい。
流石は熟練の冒険者、視力からして違うのかな。私も目は良い方だと思っていたんだけれど。
馬の腹を蹴り、街道を走る。
前方の小さな点が、少しずつ鮮明に見えてきた。
荷馬車を囲う魔物の群れ。
でっぷりと肥えた体型に、黄ばんだ肌。豚を思わせる醜悪な容姿――そう、オークの群れだ。
馬車の周辺にはオークの死体が転がり、その中にオークにやられて倒れた護衛らしき冒険者達の姿も見える。
「ぐあっっ」
馬車を守ろうと立ち塞がっていた冒険者が、巨大な棍棒の一撃を受けてよろめいた。
肩を痛打して武器を取り落とした彼に、オーク達が群がる。
とどめを刺そうと一体のオークが棍棒を振り上げた、その時だった。
「火の玉」
グラディスさんが低く呟くと、眼前に現れた火の玉がオークめがけて放たれた。
「グギャッ!?」
棍棒を振り上げたオークに、火の玉が命中する。
悲鳴を上げ、倒れるオーク。少し遅れて、肉の焦げる臭いが漂ってくる。
他のオーク達が一斉に振り返り、こちらを見た。
グラディスさんは左手で私をしっかりと抱きしめたまま、右手でスラリと剣を抜いた。
「しっかりと捕まっていろよ」
「はい!」
残るオークは六、七体ほど。
馬を走らせて冒険者との間に割り込み、剣を振るう。
私の姿を見たオークは、歓喜の声を上げて醜い手をこちらに伸ばしてきた。
それらを薙ぎ払うように、グラディスさんの剣が切り裂いていく。
彼の戦いぶりをゆっくりと観察する時間も無かった。
勝負はあっという間。
気付けば、全てのオークが街道に倒れ伏していた。
「大丈夫か?」
「あ、ああ……助かった」
グラディスさんが声をかければ、しゃがみ込んだままの冒険者が力無く言葉を返した。
どうやら生き残った護衛は彼一人だけのようだ。
彼もまた半身を血に染めて、右手は武器を持つこともなくだらりと垂れ落ちている。
「あ、有難うございました……! この御礼は、なんと言って良いか……」
馬車の幌がまくれて、商人らしき親子が顔を出す。
商人の顔は涙と鼻水で濡れていた。護衛が次々に倒れ、死を覚悟していたのだろう。
グラディスさんに頭を下げながら、感涙にむせび泣いている。
対して、彼の息子は冷静だった。
私とグラディスさんを値踏みするような視線を投げかけては、目が合った瞬間に気まずそうに視線を逸らす。
「……ありがと」
年は私とそう変わらないくらいかな。
不躾な視線ではあったが、ちゃんと御礼を言えるだけ良い子なのだろう。
ただ、顔を逸らしたままでぶっきらぼうな口調。素直になれないお年頃らしい。
「なに、たまたま通りがかっただけだ」
グラディスさんも素っ気なく返し、剣についた血糊を拭う。
オークの群れを単身仕留めた実力といい、その様子は一目で歴戦の冒険者と分かるだろう。
「あ、あの……このまま街道を進まれるのであれば、良ければご一緒にいかがですか」
商人に声をかけられ、グラディスさんが片眉を上げた。
幸いにして馬車に繋がれた馬は無事だったようだが、荷馬車に合わせて進むとなればどうしてもペースは落ちる。
オークの群れに襲われた護衛の冒険者の何人かは命を落としているようだ。
その亡骸を運んだり、冒険者ギルドに連絡をしたりと、商隊と同行することになれば歩みが遅れてしまう。
グラディスさんは、じっと私を見つめた。
追っ手が来る可能性もあり、私の身を案じてくれているのだろう。
グラディスさんが心配してくれるのは嬉しいけれど、だからといってこんな目に遭った人達を放っておくのは心苦しい。
「私なら大丈夫です」
私が頷けば、グラディスさんは諦めたような表情で息を吐いた。
グラディスさんは先を急ぎたかったのかな……だとしたら、ちょっと申し訳ないのだけれど。
でも、彼等を放っておくのも悪い気がしてしまう。
「とりあえず、次の村までは一緒に行こう」
「あ、有難うございます!!」
仲間の弔いもあり、護衛の冒険者達は街道を引き返すことにした。
商人親子と私とグラディスさんの四人で、一台の荷馬車と一頭の馬に揺られて街道を進む。
御者を務めていた冒険者が離脱した為に、荷馬車の御者台には商人のランドル・キーナンさんが座っていた。
幌を開けた馬車の荷台に、息子のレジナルド君が座って足をぶらぶらとさせている。
荷馬車にあわせ、ゆっくりと馬を進める。
次の村は、リオンの村。
辺境の田舎村だが広い畑を持ち、豊かな村だと聞いた。
「リオンの村には行き着けの店がありましてね。そこの料理はなかなかおすすめですよ」
御者台に座るランドルさんが、そんなことを教えてくれた。
ごく短い間だが、二人旅から四人に増えての旅路。
グラディスさんに恩義を感じているランドルさんは、何かと私達の世話を焼きたいと声をかけてくれる。
ここまで二人で旅をしていたけれど、たまにはこんなのもいいな……なんて思ううちに、少しずつリオンの村が近付いて来た。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
#異世界転生
#婚約破棄
#ハッピーエンド
千椛