テラーノベル
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「僕がなくなる迄に、どこかへいこう。」
光に塗れたベッドに居座る君には、少し似合わない言葉。
そんな曖昧な言葉に俺は言った。
「じゃあ、どこへ行こう?」
少し不器用な微笑みをし、
「遠いとこ。君も着いてきてよ。」
身勝手で無邪気で、少し寂しい一言を発する君に、俺はただ何かを抱いていた。
「君が飽きるまでなら、いいよ。」
本当は照れ臭かったこと、君は知っていたんだろう。
あの見透かされるような笑みは、俺にそんな事を考えさせて、未だ離さない。
これを俺は_
中二の晩春、母親が子宮頸癌で入院したという理由で、学校裏の山にある病院へお見舞いをしに行った。少し蒸し暑く、坂を昇るのには適さない日。
ある病人とすれ違った。
_眩しかった。
「待ちなさい!」なんて怒号が響く。
どうやら、彼は許可なく病院を出てしまったらしい。
怒号が鳴り響こうと、坂を舞うように下る彼に、病衣は似合っていなかった。
目が合った、
「ねぇ、」
「いっしょにいこうよ」
手を伸ばし、此方を見つめる彼。
まるで、一緒に天界へ昇ろうと言わんばかり。明るい髪色と瞳、逆光で見えずらかったが、鮮明に光っていた。
「な、なんで……」
そんな僕の台詞は見ず、ただ、手首を引っ張られた。
とてつもない瞬間だった。
彼の背後に抽象的な星が見える。
空は集中線を描いている
僕に見てほしいとこちらを見つめる瞳は、入り込めそうな程美しかった。
言葉が出なかった僕の後ろから、少し太った医師が走って、そして彼を捕まえた。
夢から覚めたようだった。
…なんだか申し訳ないので、僕はそのまま彼らについて行った。
蝉が騒がしく鳴る。
「いやー、ありがとうね、この子すぐ出てっちゃうもんで」
不満気な彼の表情を眺めながら、
「あ、そ、そうなんですか」
なんて、無愛想に返事をしてしまった。
少し恥ずかしくなっていると、涼しそうな病院に着いた。
相変わらず、彼は不満気だった。
病室に入る時に目に入ったネームプレート。
彼の名前は、瀬戸桜だった。
なんとも可憐な名前に、思わず拍子抜けした気分になった。まぁ、逆に凛々しい名前であろうとは思っていなかったので、ある意味思い通りかもしれない。
「ねぇ、君!」
ベッドに座った彼が突然言った。
「あそぼ!」
ただ一言、発した言葉が不思議で堪らなかった。普通、名前を聞くとか、さっきのことに触れるとか、何故ここに来たかとか……。
でも、彼はそれだけ言って、無邪気に笑った。
だから、僕は聞いた。
「じゃあ、君は何がしたいの?」
彼について聞きたかった。
「んー、」
「あっち向いて_
ほい!」
右を向いた。
彼が指したのもまた、右だった。
「えへへ、じゃあ、何聞こうかな?」
無邪気だ。
「…ぷっ、急だね」
つられて笑った。つられてばかりだった。
「……君は、なんていうの?」
ふと、見透かすような眼でこちらを視る。
その視線は、どこか神秘的だった。
「…僕の名前は⬛︎⬛︎だよ。」
「ぼくはね〜、瀬戸!
瀬戸桜!」
「…よろしく、瀬戸くん。」
もうすでに、彼に魅せられた僕は、
真っ白い病室で、彼と出逢った。
夏に入った日。
うちのクラスは、32番まであった。
でも在籍は31人。11番が欠番な為に、一人減っているのだ。
誰なのだろうと、ずっと気になって仕方がなかった。
学級日誌を書く途中、その事を教師に聞いてみた。
どこか聞いてはいけないようで冷や汗が流れたが、教師は案外、あっさりと答えた。
「あぁ11番な、元々転校生だったが… 確か入院したんだよな、親がぁ無理やり辞めさせてな、あぁあの〜、あそこ、山にある病院、あそこに入院してるんだよ。」
と、扇子を扇ぎながら話した。
なんとなくわかった。
嬉しくて飛び跳ねたかった。今すぐにでも、彼の元へ向かいたい。
と、そんなことを考えていた。
きっと暑くて壊れたのだろう。
「瀬戸桜…。」
カーテンが揺れ動く教室で呟いた。
…桜が綺麗だったんだ。
「誰だよ、」
友人が話しかけてきた。
「11番だよ。欠番のさ。」
「へぇ〜、そうなんだ…って、まぁ知らんけど。」
笑い話として、友人は片付けた。
通知が鳴った。
すぐ確認し、出てきたメールの送り主は、彼だった。
[a 会おうよ]
誤字の混じったメッセージを、ガラケーの液晶越しに見た。
相変わらず変わらない言葉に、いっそ切なくなる。
中2の僕は、今すぐ彼に会いたかった。
走って、あの病室に…
気づけば、それで視界が染まっていた。
「えへ、いた!」
彼が視えた。
皆の注目が彼に注がれているようだ。
思い切り開けられたドアが見える
_彼は、無邪気だった。
驚く事すらなかった。
ただ、彼について行きたかった。
何故ここにいるのか、と聞きたいけど。
紙テープが飛び跳ねるように
彼から光が溢れていた。
「⬛︎⬛︎!どしたんだよお前」
友人の声で覚めた。
気づけば、夕陽が沈み始めていた。
クラスメートの会話が蔓延した教室、
黒板の掃除をする僕。
…いつも通りだった。
「…別に、何もないよ。」
また無愛想な返事をしてしまった。
「あっそ。まぁなんかあったら言えよ。」
いい奴だ。なんとなくそう思う。
放課後、なんとなく坂道を登った。
今日は居ないのか。
メールを開き、彼に送りたい事を詰め込む。
でも、うまくいかない。
「いいよ。」
結局、その三文字しか送れなかった。
…僕は、そんな人なのだ。
この電波が彼に届く事を必死に願った。
別に、彼を心配したのではない。
何故かは分からないが、僕にそうさせる何かがあった、だけだ。
決して、恋情ではない。
病室には、あの彼がいた。
あの明るく、新星のような彼を待ち遠しく思いながらカーテンを開ける。
眠った彼が居た。
驚きつつ、光を注がれる彼のいかに神秘的か理解した。やはり彼は新星だった。
…触れたい
と思った瞬間、一冊の本が落ちた。きっと僕の邪な感情に天罰でも下ったのかと思ったが、僕は無宗教なので無視した。
僕はその天罰を拾い上げた。
それは、所謂日記だった。
あの神聖な彼の日記だ、邪な僕はその本を読んでみたくて仕方がなかった。
そして、邪な僕は早速読み始めた。
4月4日
これからは学校にいけそうです
たのしみです!
4月7日
ぼくの病気がさい発しました。
学校にはいけないらしいです。
かなしいです。
4月8日
今日は始業式だったらしいです。
お母さんはきっといけると言ってくれます。
お医者さんは、何もいいませんでした。
ぼくはあそびたいです。
4月29日
外に出たら、すっごくきれいな人がいました。ぼくの学校のせい服をきていました。
学校にいけないのがかなしい。
5月1日
手術があるらしいです。
お母さんは、大丈夫だっていってた。
さいきん、お母さんが来ることがすくない
矢敗してほしい。
5月2日
お医者さんは、こわくないよって言うけど、
手術はそんなにこわくない。
でも、死ぬなら、学校にいきたい。
あの人といっしょに!
今日の日付を見た瞬間、彼に注がれていた光が退いた気がした。
あの人、に心当たりがあったのは自惚れだろうか。でも少しは、期待したい。
この不器用な文字列に躍らされるのは癪な気もする。
僕はそっと日記を仕舞おうとした。
彼の瞳は開いていた。
この握りしめた本に、なんて言い訳を しよう。必死に頭を働かせるも、彼の笑顔に玉砕した。この使い方が合っているかは分からない。
「どのくらい見たの?」
全て分かっているだろうに。彼は変に知的な気がする。そんな所も明るいというのかもしれない。
「…ごめん…」
それしか思いつかない。
「えへ、君ならいいや。」
笑って答える君に期待する僕は、単純だ、と自分を必死に律する。
「どんな意味?」
「そこに書いてあったでしょ?」
答えにならない曖昧な回答はなんとも彼らしい。
「…僕はね、あとちょっとで死ぬんだっ。」
なんて返せばいいかは分からなかったけれど、どんなつもりかは分かった、気がする。
涙が見えなかった事にどんな意味があるか。
…なんとなく。
「その時まで、僕はやりたい事をやりたい、から、だから…」
「僕がなくなる迄に、どこかへ行こう。」
光に塗れたベッドに居座る君には、少し似合わない言葉。
そんな曖昧な言葉に僕は言った。
「じゃあ、どこへ行こう?」
これは、恋情だった。
まるたん
31
おにぎり
21
コメント
1件
p丸さん、第1話読了です。 冒頭の「一緒にいこうよ」って声がけ、すごく印象的でした。主人公が彼に吸い込まれるように惹かれてしまう感じと、日記で「あとちょっとで死ぬんだ」とさらっと言う瀬戸くんの無邪気さのギャップが切ないです。光と死が重なるような、そんな儚い世界観に心がぎゅっとなりました。続きが気になります。