塔に近づくにつれて、空気が変わっていった。
甘い匂いはするのに、どこか焦げたような苦いにおいが混じっている。
風もさっきより強くなっていて、砂糖のかけらが痛いくらい顔に当たった。
「ミル、この塔……すっごく大きいね」
「昔はね、もっと綺麗だったんだよ。光ってて、甘い風があたたかくて……」
“昔は”。
その言葉がまた胸にひっかかった。
塔を見上げると、表面はカラメルのような模様にひびが入り、ところどころ溶け落ちている。
本当に、崩れる寸前だ。
「急ごう。中に入れば“鍵”の場所がわかるはず」
「うん!」
ミルの背中を追いながら、塔の大きな扉に近づく。
扉はキャンディガラスでできていて、透き通っているのに硬そうだった。
近づくまでは透明だったのに、私たちが触れた瞬間――
パリンッ。
「え? 割れた!」
「受け入れてくれたんだよ。のあちゃんを、ね」
ミルは優しく笑ったけど、私はどういう意味かわからなかった。
扉をくぐると、塔の中は外よりもずっと暗かった。
天井は高く、壁はキャラメル色の渦模様がゆらめいている。
「ここ……生きてるみたい」
「うん。この塔は“甘味の源”そのもの。心臓に近い場所と言ってもいいかな」
「心臓……?」
言葉の意味に戸惑っていると、塔の奥から低い音が響いてきた。
ドク……ドク……。
まるで心臓の鼓動みたいに。
「ミル……これって」
「源が、不安定になってる証拠。もっと急がなきゃ」
ミルが私の手をぎゅっと握る。
その手は前と同じ、甘い光の温度だった。






