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#極道
鷹槻れん

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「あのっ修太郎さん、お願いですっ。どうかあの夜のことは……忘れて、ください……」
どう考えてもあの日の私は醜態をさらしたとしか思えない。
初めての飲みの席で、呂律が回らないほど酔っ払って……挙句の果てに夢と現実の違いが分からなくなって色々告白してしまったとか……恥ずかしいにもほどがあるっ。
余りに恥ずかしくて、ふるふると震えながらそう言ったら、ちょうど車が信号待ちで止まった。
「どうして? 僕はあの日の日織さんの可愛らしい姿を絶対に忘れたくはないのに」
言って、繋いだままの私の手を持ち上げると、修太郎さんは私の視線が絡むのを意図的に確認なさってから、その手の甲にキスを落とされた。
そうして、私の人差し指を軽く口に含んでいらして――。
私はどうしてもその様子から視線が外せなくて……恥ずかしいのにじっと見つめてしまう。
修太郎さんの唇が触れたところから熱が伝染してくるようで、一気に全身が燃え上がるような熱を帯びてしまった。
「あ、……んっ」
ただ、指にほんの少し舌を這わされただけ。
それだけのことなのに、背中をゾクリと快感が突き抜けて、私は思わず小さく吐息を漏らしてしまう。
これ以上この状態が続いたらおかしくなってしまう。
そう思ったとき、信号が青に変わって、修太郎さんは私の指先をチュッと吸い上げると、何事もなかったように手を元の場所に下ろされた。
車が動き始めて、窓外を流れるように景色が過ぎ去っていく。
それを見るとはなしに見つめながら、私は切ない気持ちで太腿にぎゅっと力をこめる。
いま修太郎さんのほうを見てしまったら、今度こそどうにかなってしまいそうで、私は視線を窓から離せない。でも、実際には何ひとつまともに見えてなんかいなくて……。
私はなんとも言えない苦しさに、思わず左手を胸に当てた。
意識の大半を占めているのは、手の下で暴れ狂っている心臓をなだめる方法と、身体の中心に向けて集まりつつある熱をいかにして追い払うか、ということばかり。
「日織さん、大丈夫ですか?」
どちらもが困難で眉根を寄せて身動いだら、その気配に前方を見つめたまま修太郎さんが声をかけていらっしゃる。
言葉がけに呼応するように、繋がれた右手が軽くキュッとにぎられる。
「――は、はい」
何とか呼吸を落ち着けながら……動揺しているのを悟られないように気をつけて、私は彼の呼びかけに応じた。
彼の声に応えられたことが自信になったのか、少し気持ちが落ち着いてきて、外の景色に気を払う余裕ができた。
(――あ。もうすぐ家に着いてしまうのです)
それで、気がついた。
意識していなかった間に、私を乗せた車は家のすぐそばまで帰ってきていた。
修太郎さんと二人きりの時間も、もうすぐ終わってしまうんだ、と思うと途端に寂しくなる。
ちらりと修太郎さんの横顔を盗み見て、私は小さく吐息を漏らした。
それにしても。
一度タクシーでいらしただけで、私の自宅の場所を覚えてしまわれるなんて、修太郎さんは本当にすごい。
私はバスに乗って真剣に町並みを眺めていても、なかなか行きたい場所への道順が覚えられないのに。
自慢じゃないけれど、私、未だに市内で少し知らない路地に入ったら、すぐに迷子になれちゃう。
何だか、あらためて私と修太郎さんは、年齢だけじゃなく、生きていく力にも差があるんだなぁと思ってしまった。
「もうこんなところまで帰って来てたんですね」
先の角を曲がれば私の家が見える、という段になって、いよいよお別れなんだ……と寂しく思って吐息まじりにそう言うと、
「このままご自宅の前につけますか? それとも一旦通り過ぎたほうがいいですか?」
絡めたままの私の手指を、まるで無意識のようにフニフニと握りながら、修太郎さんが問いかけていらっしゃる。
手の動きはとてもリズミカルで楽しそうに見えるのに、視線だけは何事もないみたいに前方を見つめていらっしゃるから。私はそのギャップに戸惑った。
ただ、手を繋いで道を歩くだけで照れていらしたかと思えば、車の中でいきなり私の指に口付けをなさるし……。
修太郎さんの、この振り幅の差は何なんだろう。もしかして……屋外と屋内の差?
ふとそこまで考えて、指に這わされた修太郎さんの舌の感触を生々しく思い出してしまった私は、途端にまたしても心乱される。
コメント
2件
指をなめらるの、ゾクゾクしそう!
ああ、もうこの「屋外と屋内の差」って修太郎さんの切り替え、反則級にずるいですよね……。タクシーで一度来ただけで道を覚えてるのも、手を握りながら「通り過ぎますか?」と平然と聞くのも、全部計算なのか無意識なのか、その塩梅が絶妙でドキドキします。指先にキスされたあとの日織さんの戸惑いと熱の描写が生々しくて、こっちまで息が詰まりそうでした。