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練習試合 大谷高校戦 2回表1回裏、竜皇の攻撃。
真琴の頑張る姿に触発されたのか、打線がつながり始めた。
タクのタイムリー、井上の内野安打、アキの犠牲フライで、
あっという間に2点を返し、2-2の同点に追いついた。
ベンチは初めて本気で沸いた。
翼はメガホンを振り回しながら、
「みんな、すごい!! そのままいこう!!」
と声を枯らして応援した。
そして、2回表。
真琴が再びマウンドに上がった。
まだ表情は硬いけど、1回を投げ切ったことで、
わずかながら肩の力が抜けていた。
しかし——
3番打者。
大谷高校の1年生捕手。
坊主頭の、あの男だった。
真琴の瞳が、一瞬で揺らいだ。
マウンドの上で体が強張り、息が浅くなる。
フラッシュバックが頭をよぎる。
怒鳴声、拳、バックヤードの冷たい床……。
球が、大きく外れた。
ボール。
次の球も、大きく逸れる。
アキはミットを構えたまま、静かに真琴を見つめていた。
そして、マスクを外した。
「真琴! 俺の目見て!」
大きな声がグラウンドに響いた。
アキはマウンドには行かない。
ただ、キャッチャーの位置から、真っ直ぐに真琴を見据えて、
笑った。
優しく、力強く、
「俺も真琴のこと見てるから!」
その笑顔を見た瞬間——
真琴の肩から、力が抜けた。
中学時代の恐怖が、
アキの笑顔に溶かされるように薄れていく。
真琴は深く息を吸い、
腕を大きく振りかぶった。
放たれたストレートは、
これまでで一番綺麗な軌道を描いて、
アキのミットのど真ん中に、
いい音を立てて吸い込まれた。
「ストライク‼︎‼︎‼︎」
審判のコールが、グラウンド全体に響き渡った。
その瞬間——
ベンチが、爆発した。
「よっしゃああああ!!」
「真琴ぉぉぉ!!」
「ナイスピッチ!!!」
翼はメガホンを振り上げ、
涙目になりながら叫んでいた。
「真琴くん!! 最高だよ!!!」
応援席からも、
「真琴ー!!」「がんばれー!!」
と、大きな声が次々に上がる。
相手のベンチや観客席は、
「ワンストライクでなんでこんなに盛り上がってんの……?」
と、完全に困惑した顔をしていた。
ただ一人——
バッターボックスの坊主頭の男だけが、
舌打ちを漏らした。
「チッ……なんでこいつなんだよ‼︎」
彼は、負けたと思った。
真琴が、もう自分の影に怯えていないことを、
はっきりと悟った瞬間だった。
マウンドの真琴は、
小さく息を吐き、
アキに向かって、
初めて、
ほんの少しだけ、笑った。
アキもまた、
マスクを被り直しながら、
静かに、満足そうに頷いた。
この一球で、
チームの空気が、
完全に変わった。
大谷高校戦 3回表 2-2
2回裏に同点に追いついたものの、
3回表は再び大谷高校の攻撃。
真琴はなんとか2回を投げ切ったが、
マウンドを降りた瞬間、ベンチで崩れ落ちるように座り込んだ。
タオルを頭からすっぽり被り、肩を激しく上下させている。
精神の消耗が、誰の目にも明らかだった。
その姿を、アキはネクストバッターサークルからじっと見ていた。
4番・浅尾拓実の打席。
アキはタクの背中に歩み寄り、
低い声で、必死に頼み込んだ。
「タク……頼む。
勝ちたいんだ。死ぬ気で塁に出て欲しい」
タクはヘルメットを被りながら、
チラッとベンチを見た。
真琴が、タオルで顔を隠すように項垂れている。
あの華奢な体が、今にも折れそうに見えた。
タクは静かに頷いた。
「……わかった。
ぜったいに出る」
その一言に、アキの目が熱くなった。
タクはゆっくりとバッターボックスに向かった。
初球——甘く入ったストレートを、
完璧に捉えた。
ガッシャーン!!
鋭い打球がライト線を破り、
タクは迷わず二塁へ滑り込んだ。
「セカンドヒット!!」
ベンチが一気に沸いた。
次は5番・アキの打席。
アキはゆっくりとバットを構え、
フルカウントまで粘りに粘った。
6球目——相手投手が力んで投げたストレートを、
アキは全身で振り抜いた。
ドォォォォン!!
打球はセンターの頭上を軽々と超え、
フェンス最上段に直撃した。
「ツーベースヒット!!」
その瞬間、球場が凍りついたように静まり——
次の瞬間、今日最大の歓声が爆発した。
「うおおおおおおお!!!」
「アキいいいいいい!!!」
「4-2!! 勝ち越しだあああ!!」
翼はメガホンを振り回しながら、
涙を堪えきれずに叫んでいた。
「タク!! アキくん!! 最高だよ!!!」
ベンチでは、みとらが飛び跳ね、
井上が大声で絶叫し、
真琴はタオルから顔を上げ、
呆然としながらも、
ゆっくりと拳を握りしめていた。
アキは二塁ベース上で、
タクと拳を合わせながら、
ベンチの真琴に向かって、
大きく親指を立てた。
3回表終了。
スコアは4-2。
竜皇高校が、初めての練習試合で、
見事な逆転勝ちを収めた。
アキはベンチに戻るなり、
真琴の前に屈んで、笑った。
「見てたか?
お前の分も、ちゃんと打ってきたぞ」
真琴はまだ言葉が出せなかったけど、
震える唇で、
小さく「……ありがとう」とだけ、呟いた。
この試合で、
チームの心臓は、
確かに、
一歩前へ進んだ。