コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
私の恋人は、かっこよくて、優しくて、頭が良くて──完璧かと思いきや、意外と抜けている。
「しっかり厚着してマフラーつけてカイロまで持ってくるのに、どうしていつもいつも手袋だけは忘れちゃうのかなぁ、亮平くんは」
呆れ顔でぶつぶつ言う私を見て、亮平くんは照れたように笑った。
『ごめんね?〇〇』
「ねえ、笑い事じゃないってば。
亮平くんの手冷えやすいから、心配してるんだよ。
ほら、貸して?」
そう言って彼の手を取れば……やっぱり。氷のように冷たい。
「ひゃー、今日も冷た……」
呟きながら、亮平くんの両手を自分のそれで包んで、息を吐きかけてさすりながら温める。
『ほんといつもありがとう。〇〇の手を俺がポケットの中で温めてあげるのもいつかはやってみたいって思ってるんだけど、これじゃダメだね笑』
「あー、それ漫画とかドラマでよくあるやつだ。亮平くんはそういうベタなシチュエーション好きだもんねぇ」
『うん、結構憧れてる』
私はいわゆる子供体温というやつなのか、年がら年中手が温かい。
そりゃ私だって、ポケットの中で手を繋ぎながら温めてもらうなんて甘い妄想をしたこともあるけど、実際には真冬でも温めてもらわなくちゃいけないほど手が冷たくなることはない。
ずっと持て余してきたその子供体温は、今こうして亮平くんの手を温めることで報われている。
何とか彼の手に体温を戻そうと躍起になっていると、亮平くんが遠慮がちに話しかけてきた。
『……ねぇ、あのさ』
「ん?」
『手袋忘れてるの、わざとだって言ったら、どうする?』
「え?」
顔を上げると、亮平くんの優しい目と目が合う。
『こんなふうに〇〇に手を温めてもらいたくて、わざと毎回手袋してきてないって言ったら……怒っちゃう?』
言いながら、そっと私の頬を両手で包む亮平くん。
亮平くんの手も、冷たい風に撫でられていた私の頬も、すごく冷たいはずなのに、……彼に触れられているところは、ものすごく熱い。
忘れてた。亮平くんは確かに抜けているけれど、策士でもあったんだ。
「……ずるい。そんなの」
『ふふ、怒った?』
余裕そうな顔、今はちょっとだけむかつく。
「怒ったかも。手が温かい人は心冷たいからね」
『出た、迷信』
「迷信じゃないよ、現に亮平くんは心温かいじゃない」
『確かに、握手文化がある国にはそういうことわざが存在するし、全く根拠がないってわけでもないみたいだけど。〇〇に限っては迷信だよ』
私の頬を愛おしげに撫でながら、亮平くんは微笑む。
『こんなに優しくてあったかくて可愛い子、他にいないもん』
「……だから、ずるいって……」
『わー、〇〇のほっぺあっつい笑 照れちゃった?』
「……もう手温めてあげないよ?」
『えっごめん、それだけは……』
楽しそうに揶揄ってくる亮平くんを、じと、と睨めば途端に慌て出すのが可愛くて、思わず吹き出してしまう。
「ふふ、冗談だよ。私だって亮平くんの手を温めてるこの時間、大好きなんだから」
だからずっと、私だけに温めさせてね。
照れくさくて言葉にはできない、そんな想いを込めながら冷たくて温かい亮平くんの手に手を重ねると、亮平くんは全てを見透かしたかのような優しい顔で微笑むのだった。