テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
第四十七話 青いリボン
翌日。
彼女は、
昨日からずっとキーホルダーのことを考えていた。
「ずっと」
裏側に刻まれていた、短い言葉。
あれが何を意味するのか。
誰が刻んだのか。
どうして自分が持っているのか。
考えても答えは出ない。
彼女は机の上にキーホルダーを置き、
青いリボンを指でつまんだ。
少し古くなっている。
けれど、結び目だけはしっかり残っていた。
ふと、リボンの端に小さな文字があることに気づく。
「……これ、文字?」
よく見ると、
青い糸の一部が文字のようになっていた。
彼女は写真を撮って、彼に送った。
『これ見て』
『何?』
『リボンに何か書いてある』
彼も画像を拡大する。
『本当だ』
『読める?』
『……一文字だけ』
『何の文字?』
彼はしばらく黙った。
『「M」に見える』
彼女の指が止まる。
その文字に心当たりがあった。
でも、それを口にすることはできなかった。
『偶然かな』
『たぶん』
そう返しながらも、二人とも同じことを考えていた。
キーホルダー。
青いリボン。
写真。
そして、事故の前日に残された記憶。
全部が少しずつつながっている。
その夜。
彼は古いデータをもう一度調べた。
今まで見ていなかったフォルダを開く。
そこには、
事故の数日前に撮られた写真がいくつか残っていた。
その中の一枚。
机の上に、同じキーホルダーが置かれている。
そして、その横には青いリボン。
彼は写真を拡大した。
リボンの下に、小さなメモがある。
今度は文字が読めた。
「返すの忘れない」
彼はしばらく動かなかった。
『見つけた』
彼女に写真を送る。
『これ……』
彼女からの返信は、なかなか来なかった。
やがて、
『返すって、誰に?』
と届く。
『分からない』
『でも、私のリボンも元々ついてたわけじゃないかもしれない』
『どういうこと?』
『最近見つけた昔の写真を見たら、私のキーホルダーにも同じ跡があった』
彼は写真を見つめる。
二人のキーホルダーは、
最初から別々だったわけではない。
もしかしたら、一度は同じ場所にあった。
そして、何かの理由で分かれた。
『事故の前に、何か返そうとしてたのかな』
『分からない』
『でも、これなら少し分かる気がする』
『何が?』
彼女は少し迷ってから送った。
『私たちが探してるのは、昔の出来事そのものじゃなくて』
『うん』
『そのときの約束なのかもしれない』
彼はその言葉を読み返した。
確かにそうだった。
写真を探しても。
記憶を探しても。
二人が見つけているのは、
いつも「誰かとの約束」に
つながるものばかりだった。
彼はキーホルダーを手に取った。
裏側の文字を見る。
「ずっと」
その続きを知りたい。
誰と交わした言葉なのか。
そして――
なぜ、その相手のことだけを
自分は忘れてしまったのか。
彼は、初めてその疑問を真正面から考えた。
答えはまだ出ない。
けれど、逃げる気にもならなかった。
#転生
桜咲かな
974
コメント
1件
「ずっと」の続きが気になって仕方ない…!😢 青いリボンに刻まれた「M」、二人のキーホルダーが元は同じものだったかもしれない伏線、そして「返すの忘れない」っていうメモ——全部が少しずつ繋がっていく感じが切なくて、胸がぎゅっとなりました。事故の前の約束ってなんだったんだろう…。クラリスさんの伏線の張り方、本当に好きです。続きが待ちきれないです🕯️🤍