翌日、紬は少しだけ緊張しながら図書室に向かった。昨日、蒼太と2人きりで暗号解読をしたことが、まだ夢みたいだった。図書室の扉を開けると、蒼太はすでに奥の席に座り、熱心に資料を読み込んでいた。「おはよう、橘くん」
「おう、おはよう。昨日見つけた資料、結構面白いぞ」
蒼太はそう言いながら、何冊かの本を指し示した。2人は早速、昨日の続きから暗号解読を始めた。記号の意味、数字の羅列、そして古い地図……。様々な資料を照らし合わせ、少しずつ暗号の核心に迫っていく。
「この記号、やっぱり古代文字みたいだね」
「ああ、この数字は、本のページ数と関係あるんじゃないか?」
2人は意見を交換し合い、時には議論しながら、暗号解読を進めていった。昼休みも、放課後も、2人は図書室にこもり、暗号解読に没頭した。
暗号解読を通して、2人の距離はさらに縮まっていった。本の話、学校の話、そして時々、お互いの過去の話……。2人は、少しずつお互いのことを知り、心の距離を近づけていった。
しかし、2人の間には、まだ超えなければならない壁があった。それは、周囲の目、そして、お互いへの気持ち……。
蒼太は、クラスの人気者だ。いつも周囲には、たくさんの友達がいて、笑顔が絶えない。一方、紬は、読書好きで少し内気な女の子。クラスでは、目立たない存在だった。
「橘くんと、もっと話したい……」
そう思う一方で、紬は、自分の気持ちに素直になれずにいた。人気者の蒼太と、地味な自分。2人が一緒にいるところを、誰もが不思議に思うだろう。
そんな時、クラスで文化祭の出し物を決めることになった。様々な意見が出る中、蒼太は、ふと、図書室をモチーフにした出し物を思いついた。
「なあ、みんな。図書室みたいな、静かで落ち着ける空間を作ってみない?そこで、みんなで本を読んだり、お茶を飲んだり……」
蒼太がそう提案すると、クラスのみんなは、少し戸惑った表情を浮かべた。しかし、紬だけは、目を輝かせた。蒼太と一緒に、文化祭の準備ができる。そう思うと、胸が高鳴った。
文化祭の準備が始まり、紬と蒼太は、毎日放課後、一緒に作業をした。図書室のレイアウト、本の選定、そして、お茶の準備……。2人は、意見を出し合い、協力して準備を進めていった。
準備を通して、2人の距離はさらに縮まった。しかし、同時に、紬は、自分の気持ちに気づき始めていた。
「私、橘くんのこと……」
そう思った時、紬は、自分の気持ちに戸惑った。人気者の蒼太を、自分が好きになるなんて……。そんなこと、ありえない。
文化祭の準備が進むにつれて、クラスの中にも、2人の関係を噂する人が出てきた。
「橘くんと篠原さんって、最近、仲良いよね」
「何か、付き合ってるんじゃないの?」
そんな噂を耳にするたびに、紬は胸が締め付けられる思いがした。
「私、どうしたらいいんだろう……」
紬は、自分の気持ちに悩み、蒼太との距離を置こうとした。しかし、蒼太は、そんな紬の気持ちに気づいていないようだった。
「なあ、紬。文化祭、絶対成功させようぜ」
蒼太は、いつものように明るく笑いかけた。その笑顔を見るたびに、紬は、自分の気持ちを押し殺した。
文化祭まで、あとわずか。紬は、自分の気持ちと、周囲の目との間で、深く悩んでいた。
図書室で始まった、秘密の暗号解読。それは、2人の恋の始まりを告げる、小さな冒険だった。しかし、同時に、それは、2人の間に、大きな壁を作る、試練でもあった。
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