テラーノベル
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濃い緑…何ていうのかな、この色は。
私は汚れた黒板の前で一人佇む。
誰も居なくなった中学校の教室。
グラウンドからは部活に励む声と音が聴こえる。
大体、黒板って言ってるのに
何故黒ではなく緑なんだろう。
そんなことを考えながら、髪の毛を耳にかけ
今日も黒板消しを二つ、両手に取る。
チョークの粉がセーラー服につかないように
気をつけながら、窓際へ行く。
カーテンの向こう側、開けた窓の外に手を一杯に伸ばし
黒板消し同士で叩く。
パァン、パァン、と心地よい音が向かいの校舎に反響する。
と同時に白い煙が辺り一面に舞う。
それを吸わないように顔を遠ざける。
黒板消しを叩いている時の私の顔は
眉間にシワを寄せ、目付きの悪いしかめっ面で
さぞ不細工な顔をしていることだろう。
黒板消しクリーナーと呼ばれる機械はある。
しかし、全くクリーンにできない代物である。
黒板消しの中に深く入り込んだチョークの粉までは
ちっとも吸ってくれやしない。
まるで八つ当たりでもしているのかというくらい
強く叩いてやらないと、黒板消しは綺麗にならない。
黒板消しが汚いということは、黒板も汚い。
毎授業毎に黒板にチョークで書かれた文字は消されるが
時とともに黒板は白く濁り続け
放課後になると、とてつもなく汚い白い残留物が
黒板全体を纏っていた。
そんな黒板を放課後に綺麗にするのが
私の日課であり、楽しみであった。
友人の部活がない時は
一緒に帰ろうと友人が待ってくれてる時もある。
教室に残って、駄弁るクラスメートが居る時もある。
今日は一人、静かに黒板を綺麗にできる。
白い粉が出なくなるところまで叩き終わると
私はカーテンを避け、黒板の元へ行く。
端っこから、丁寧に横一列ずつ、下から順に
黒板消しを滑らせていく。
一番上までは手が届かないのだが。手が届かないところは
特に汚れてはいない。
端っこまで行ったら、もう一度黒板消しを叩きにいく。
そして最後に、縦一列ずつ、端っこから綺麗にしていく。
黒板の端までいったところで
全体を見直す。
よし、綺麗。
満足気に、一人頷いた瞬間───
ガラッ。
教室の前のドアが開き
クラスの男子、早瀬が入ってくる。
私の存在には気付かず
一番後ろの列の自分の席に走っていき
机の中を覗き込み、ゴソゴソしている。
どうやら忘れ物を取りに来たようだ。
私はそれを横目に
窓際カーテンの外へ行き、また黒板消しを叩く。
パァン、という音に、早瀬が驚いたらしい。
「えっ…」
そんな声が漏れたのが聴こえた。
叩き終わった黒板消しを持って、カーテンのこちらに戻ると
早瀬と目が合う。
「なんだ柏木か、びっくりした…。」
私を見てそう言う。
「何だと思ったのよ。」
言いながら黒板消しを戻す。
「いや、ポルターガイストかなって。」
「んなわけあるかぁ。」
笑いを含ませた言い方で、手を洗いに行こうとすると
「あ、黒板めっちゃ綺麗。」
早瀬が言った。
「でしょ。」
「え、何。もしかして、毎日柏木がやってたの?」
思いがけない言葉に立ち止まり、振り返る。
「うん。」
「いっつも毎朝、きれーだなって思ってたんだ。
そっか。柏木の陰の舞だったんだなぁー。」
気付いてくれてる人が居た。
別に誰のためにしていたわけではない。
ただ、自分が気持ち悪いからしていただけで。
だけど、こんな風に思ってくれたことが
何とも言えない、胸にふわりと温かいものを感じた。
返事の仕方がわからなくなった私は
「じゃ、手ぇ洗ってくるわ。」
と言った。
「おう。俺も行くわ。」
早瀬が忘れ物を手に、同じドアから出ようとする。
先に教室のドアを出て廊下を歩いてると
「柏木!」
早瀬が後ろから声をかけてくる。
「なに?」
振り返ると、私の左肩を指指した。
「チョークの粉、ついてる。」
見ると、セーラーの襟のところが少し白くなっていた。
「うぁ、最悪。」
早瀬が近づいて、ポンポンと襟の汚れを払う。
髪の毛が、早瀬の手に触れて揺れた。
「はい。
ありがとな、いっつも。」
そう言って、走り去っていった。
私は、何となく立ち止まったまま早瀬の後ろ姿を見ていた。
少し左耳が熱い気がした───。
コメント
1件
うわあ、すごく好きな雰囲気……🥀 黒板がなぜ黒じゃなくて緑なのか、ってとこから始まるの、めっちゃ分かる。私も学校で黒板見るたびに同じこと考えてた。柏木が毎日一人でこっそり黒板を綺麗にしてる姿、なんか尊い……。誰のためでもなく、自分の気持ち悪さを解消するためだけにしてたことが、早瀬の「ありがとな、いっつも」でふわりと報われる瞬間、胸がぎゅっとなった。 セーラーの襟に付いたチョークの粉を払ってもらうシーン、左耳が熱くなる感じ、すごく青春だなあ。この距離感、めっちゃ刺さります……🤍
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羊と亀のお遊戯会
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𝐚𝐨𝐢
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