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二階への階段を昇りきったコユキは、振り返りながら言う。
「クッソ長い階段ね、この城高く見せるためかなんか知らないけど、ワンフロアにスペース割き過ぎでしょ? 天ぷらってやつね」
そう言葉通り、ここまで昇ってくる間にあった段数は軽く二百を越えていただろう。
コユキはアヴォイダンスの応用で、二十段位づつビョーンと飛んで来たので楽だったが、普通に歩いて昇るとすれば結構きつかっただろう。
例の如く(ごとく)重目の扉をこじ開けて室内へ入ったコユキは驚いた。
一階の気持ち悪さと打って変わって、良く手入れされているであろう立ち木の、手前に広がった草原、いや庭園だろうか、それが広がっていたからである。
庭園の中央付近にはテーブルと椅子が置かれ、そこに一人の若い女性が優雅にお茶を飲んでいた。
女性は日焼けが気になるかのように、アプリコット色をした広いブリムの帽子を被り、その身を包むドレスは黄色に緑の刺繍を施した、キラキラと光り輝く不思議なものであった。
テーブルにはタケの長い白いクロスが掛けられ、その上から薄桃色の短めのクロスが重ねられていたが、共に苺の果実、葉、花の刺繍を誂え(あつらえ)、統一感を演出している。
女性が手にしたティーカップやソーサーとお揃いのティーポットが置かれたテーブルには、花瓶に入れられた真紅の薔薇が、作り物には無い豪華で可憐な姿を誇っていた。
ポットと薔薇に挟まれる形で三段のプレート、所謂(いわゆる)ケーキスタンドに乗せられた、美味しそうなお菓子の数々、周囲のテーブルの上に並べられた数種類のココットに入った甘味も見える。
丁度空腹を感じていた、意地汚いコユキからグ~っと音が鳴り、気付いた女性が顔を向けながら尋ねた。
「貴女も召し上がりたいのかしら?」
「うん、頂戴!」
勢い良く答えたコユキの体は、それっきり動けなくなってしまったのである。
お菓子に釣られてコユキが見つめた女性の目は、一階のグローリアと同様に妖しく光っていたのだった。
同じ轍(てつ)を踏むとは、コユキらしくなかったが、全ては飢えが齎(もたら)した悲劇、そう言うことであろう。
内心で、しまった! と反省するコユキに向けて、女性が先程とは雰囲気を一変させて話し掛けてきた。
「へっ! 掛かったな、聖女さまよぉう! へへへ、なんでぇチョロイじゃねーかぁ! グローリアの婆(ババア)も大した事無ぇーなぁ!」
「なっ?」
ガラリと変わったのは口調だけではなく、ガラの悪そうな表情に加えて、物腰も筋モン、いわゆる『反社』の方みたいに変わっている、歩く姿も肩で風を切って蟹股だった。
そのまま、驚いているコユキの近くまでやってくると、いかにもソレらしい感じで言うのだった。
「おう、聖女のネエちゃんよう、俺ゃあ『嫉妬のインヴィディア』つーもんだ、ワリィがテメーの中の『嫉妬』を増幅させて貰うからよお、恨むんじゃねぇぞ~」
そう言うと、コユキの左手にそっと触れて、恐らく記憶と忘れ去られた筈の彼女の精神にアクセスを果たすのであった。