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「……お姉様は自分たちが大変なことをしてしまったという自覚はあるんですか」


自分の声が震えているのがわかった。


相手がお姉様じゃなかったら、我を忘れて掴みかかっていたかもしれない。


このお腹の大きさで両親が気が付かないはずはないし、お姉様は実家から追い出されたのかしら。それならそれで、私に連絡をくれてもいいのに……。


サフレン辺境伯家は息子の不祥事でもあるし、面倒を見ているのかもしれない。

それに第二王子にはなんと言っているのか気になるわ。

お姉様は成人だけど、両親にまったく責任がないわけではないということで罰を受けている可能性がある。もしかしたら、それで連絡ができなかった?


お姉様が話し出さないので色々と考えていると、お姉様は涙をハンカチで拭き、私を見つめて話し始める。


「……悪いことをしたという自覚はしているわ。だけど、私はずっとレイロが好きだった。あなたのことがずっと羨ましかったの」

「そんなことを言われても困ります。それよりもあなたの婚約者だった第二王子殿下には、このことをなんと伝えているんですか」

「それが……」


お姉様はハンカチで両目を押さえながら話す。


「かなり怒っているの。それは第二王子殿下だけじゃない。国王陛下もよ。娘を管理できなかったということで、お父様は城の牢に入れられているの」

「……は?」

「牢に入れられてはいるけれど、期間は決まっているから安心して大丈夫よ」

「安心!? 大丈夫!? 何を馬鹿なことを言っているんですか! お父様が牢屋に入れられることになったのは誰のせいだと思ってるんですか!」

「ごめんなさい、本当にごめんなさい」


お姉様は近くのソファに座り、嗚咽をあげる。


お母様は私に心配をかけさせまいと、わざと連絡してこなかったんだわ。

魔物と命がけで戦っている時に、こんな話を聞かされたら集中どころじゃないもの。


お父様がどうなっているのか確認しにいかなくちゃ。


その前に、お姉様にこれだけ聞いておく。


「お姉様、レイロと愛し合っているという話は本当なんですか」

「……そうよ」


間が空いたから、嘘の可能性が高い。

お姉様とは昔から仲が良かった。

だから、嘘をつく時の癖は知っている。

この嘘は、お姉様がレイロを愛していないのか、レイロがお姉様を愛していないのか、どちらかは確認してみなければわからない。


「レイロと話をさせてもらいますが、その前にお父様がどんな状態か確認してきますので失礼します」

「待って!」


話をしていた談話室から出ていこうとすると、お姉様が引き止めるので足を止めた。


「……まだ何か御用ですか」

「アイミーはレイロとのこと、どうするつもりなの?」

「お姉様はどうしてほしいんですか」

「わかるでしょう。レイロと別れてほしいの。私たちのためじゃなく、お腹にいる子供のために」


お腹の子供に罪はなく、悪いのはお姉様とレイロだ。

私が二人を許せるはずがないし、お姉様のお腹の子供のためにも離婚という選択肢しかないだろう。


「言われなくても別れるつもりですのでご心配なく。あ、もう一つお聞きしたいのですが、よろしいでしょうか」

「……何かしら」

「魅了魔法を使ったわけではないですよね」

「使っていないわ。私には使えないもの」

「使えないことはないでしょう」


魅了魔法はかなりの魔力を消費するので使える人間は少ない。

でも、お姉様なら可能だ。


魅了魔法を使うことは禁忌であり、使ったことがわかれば、魔法が使えなくなる檻の中で一生を終えることになる。


このことは学園に通っている時、耳が痛くなるくらいに先生から聞かされた話だ。


そんな魔法を使おうだなんて一度も思ったことはなかった。

でも、今のお姉様なら使いそうな気がして聞いてみたけれど、憤慨した様子で言い返してくる。


「違うわ。魅了魔法なんかじゃない。私はあなたほど優秀じゃないのよ」

「そうですか」


嘘はついていなさそうね。

ということは、レイロは自分の意思でお姉様と関係を持ったことになる。


妻や可愛い弟が命がけで戦っている時に浮気していただなんて、本当に最低だ。


「ごめんなさい。アイミー、許して」

「許すわけがないでしょう」


そう吐き捨てて部屋を出ると、怒りに任せて乱暴に扉を閉めた。

廊下にいたメイドが悲しそうな顔で一礼して去っていく。


どういうことなのよ。

お姉様が第二王子と結婚したくない気持ちはわかる。

だけど、それは王子からの命令であって、私にはどうしようもできない。


私が幸せそうだったから奪ったの?

それとも、本当にずっとレイロが好きだったの?


どっちにしたって、妹の夫を寝取るだなんてありえない!


その後、義父母と話をして、私は実家に帰ることになった。

その時、義父母は床に膝をついて謝った。


二人のことは大好きだし、お姉様とレイロのことで二人を責めても仕方がないと思った。

だから、離婚を認めてもらうことで、私は二人を許した。


実家に戻るため、サフレン家の馬を借りようと厩舎に行った時、第3騎兵隊に所属している仲間が駆け寄ってきた。

十人以上はいるので、何かあったのか不安になる。


「アイミー様!」

「皆、どうしてこんな所にいるのよ。何かあったの?」


驚いて尋ねると、昼間からお酒を飲んでいるのか、いつもよりも顔を赤くした仲間が話し始める。


「いや、さっきまで独身組で慰労会をしていたんですけど、何か隊長が珍しく怒ってて、しかも酔い潰れちゃったんすよ」

「で、アイミーが可哀想だってブツブツ言い続けているから、アイミー様の様子を見に行くついでに隊長を送り届けようって話になったんです」

「久しぶりの夫婦の再会だから邪魔しちゃ駄目だろうなって思ったんですけど、なんか気になっちゃって」


仲間からの優しい言葉に、我慢していたものがこらえきれなくなる。


「うぇっ」


私が表情を崩して情けない声を上げると、周りを囲んでいた仲間たちは焦った顔になった。


「ど、どうしたんですか!?」

「夫婦喧嘩とかですか? 任務を終えて帰ってきた奥さんと喧嘩する旦那なんて、そりゃ隊長も怒りますよ。何が原因ですか? くだらない理由じゃないですよね」

「……浮気された」

「へっ!?」


仲間たちは間抜けな声を上げて動きを止めた。


「夫が私の姉と浮気していて、姉からお腹に私の夫との子供がいるって言われたぁっ!」


子供みたいに叫んで、その場にしゃがみ込んだ。

涙を見せないように膝と膝の間に顔を埋める。


「お、夫が浮気!? アイミー様の夫って、たしか隊長のお兄さんっすよね!?」

「負傷兵で帰った人じゃないですか! 帰るのは良いとしても浮気? え? 本当に?」

「嫁が命がけで戦ってんのに浮気なんて信じられないですよ! しかも、レイロ様って騎兵隊の隊長じゃないですか!」

「アイミー様、もうレイロ様を殴りましたか? 顔が変わるまで殴っても許されると思いますよ! お姉さんのほうはまあ、無事に子供を生みおえてから顔面変えてあげてください」


顔面変えてあげて発言にはさすがに笑ってしまった。


皆が怒ってくれるから、辛くて苦しかった気持ちが楽になっていく。


「私っ、第3騎兵隊の後方支援で本当に良かった。みんなっ、本当にありがとう」


服の袖で涙を拭いてから顔を上げると、仲間たちはホッとしたような顔になった。

気持ちを落ち着かせてから尋ねる。


「エルも心配してくれていたんでしょう? 悪いけど、お礼を言っておいてくれない?」

「……どこかへ行かれるんですか」


心配そうな表情の仲間たちに微笑んで答える。


「離婚するから実家に帰るだけよ。心配しないで。また、出征する時があったら私もみんなと一緒に行くわ」


その時、仲間に引きずられるようにして、エルが連れてこられた。


「……俺も一緒に行く。……うぇ。う……、気分が悪い。……吐きたい」

「あなた、かなり体調が悪そうね。ああ、もう仕方ない子ね!」


顔が真っ青になっているエルを放ってはおけず、魔法で体調を戻してあげてから尋ねる。


「どうしてエルも一緒に来るの?」

「……助かった。ありがとう。一緒に行く理由だけど、兄さんはアイミーの実家近くの宿屋にいるんだよ。俺は兄さんと話がしたいだけだ」

「……どういうこと? 外出していると聞いたんだけど?」

「本当は違うんだ。エイミーがシトロフ家から追い出されたと同じで、兄さんもサフレン家から追い出されたらしい。エイミーの面倒をシトロフ家が見てるのはお腹の子に罪はないからって理由だってさ」


さっきは謝罪を受けて、離婚の話しかしていなかった。

サフレン辺境伯夫妻もかなり動揺しているのね。


「わかった。それなら一緒に行きましょう。それから、心配してくれてありがとう」


礼を言うと、エルはレイロのことで何度も謝ってくれたのだった。

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