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「……にしても、『胞子放出』って何だよ、全然ワクワク感ねぇぞ……」
モルグ・マッシュとして異世界の森で目覚めて何日か経った。自分の体をじっと見つめながら独り言をつぶやく。ドラゴンに転生するはずが、まさかの人型キノコ生活。違和感しかない。
「まぁせっかくだし、スキルの説明でも見てみるか……」
頭の中で念じると、ステータスウィンドウが自動的に現れる。
【スキル:胞子放出】
対象範囲内に毒性の胞子を放出し、吸い込んだ生物に対して行動不能、あるいは体力を減少させる効果があります。
※毒性は自身には影響しません。
「……毒持ち……。まさか俺、異世界で最初に覚えたスキルが『毒撒き』とはなあ」
ションボリしつつも、自分の手を見る。すると——
「え、こ、これ……?」
指先から、キラキラ光る白っぽい粉のようなものが煙のようにゆっくり漂っている。
「いつの間に!?」
慌てて手を振ると、胞子はふわっと周囲に広がる。
「どうやって止めるんだこれー!?……ええい、意識して“止まれ!”」
ビビりながらも強く念じると、ピタリと胞子の放出が止まる。
「……まさか、イメージで操作できるのか?『出ろ』、『止まれ』、っと……おお、行ける!」
なんとなくコツがつかめてきた。
「よし、こんな便利な毒胞子、使い道を考えないとな……。まずは食料確保、だな」
森を歩いていると、小動物やモンスターらしき影がちらほら現れた。腹が鳴る。キノコになってもやっぱり腹は減るのだ。
「ってことで……自分の体のそばに胞子の罠を仕掛けてみるかな」
足元に広がる地面にゆっくりと、透明な毒胞子を重ねていく。見た目じゃ全然分からない。これ、思った以上に便利かも。
数十分後——
「……あれ、あそこに来るのは……ウサギか?それとも小型モンスター?」
一匹の、毛の長い四足獣が俺の周りに近づいてきた。
「……よし、今だ!」
毒胞子を念じて発動。それと同時に、モンスターが動きを止め、ふらりと倒れた。
「おお!?本当に効いた!これは……案外キノコも悪くないかも」
慌てて駆け寄り、肉をドロップ品としてゲット。
「……さて、今度は肉を焼いて……」
森で木の枝を集めて焚き火を作る。キノコながら器用な手を使って火打石をカチカチ。
「よし、着火成功!俺、もしかしなくてもサバイバル向いてるのか?」
焚き火の上に枝で肉を刺し、じっくりあぶる。ジューッと音がした。
「……おお、匂いもいい感じ!いただきます!」
焼き上がった肉にかぶりつく。
「……うまい!キノコの舌でも味分かるんだな……」
夜になって、森の静寂の中、小さな焚き火の光が揺れている。
「……キノコに転生なんて不本意すぎるけど、少しだけ楽しくなってきたかもな……」
焚き火を見つめながら、モルグ・マッシュはしみじみと呟いた。
「だが……クソ女神、あんたのせいで色々苦労しそうだぞ……」
夜空に向かって叫びたくなる衝動を抑えつつ、モルグの静かな夜が始まった——。