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「はい、好きな作業ですから大丈夫です」
「ドレスのリメイクまで出来るの?」
「それは初挑戦ですけれど、出来ると思います。先日のワンピースリメイクを気に入っていただけたようなので頑張ります」
私の目的を知っている篤久様は、どんな気持ちで質問をし、何を考えて私の返事を聞いているのか分からない。
「初挑戦のドレスリメイクがうまくいけば、真奈美さんはそういうお店を持てるんじゃないか?」
「お店…?」
「そう。リメイクの看板を出して営業する店」
いや……本当にどういう気持ちで篤久様がそう言ったのか分からない。
「……ご主人様くらいの年齢になって、そんな時が来たら楽しいかもしれません」
「真奈美さんが、いろんな人生経験をして、ひとつひとつしっかりと自分のものにしているから言えることだと思います。容易に“そうですね”と言わないところが、今の真奈美さんのいいところだね」
ご主人様がそう言う間、篤久様はじーっと私を見ているようで……それは私の本心を見透かされる気がした。
……私は遥香への復讐以外の未来を思い描いたことはない……
「今のは父さんの年齢になって言えること。過去を振り返って、未来を見て……それは真奈美さんの若さじゃ出来なくて当然」
「ははっ、その通りだよ。だから真奈美さんの返事は完璧だっただろう?」
「俺にも出来ない返事だと思う。俺もまだ過去を振り返って未来を見る余裕はない。真奈美さんと同じ……今、現在に必死だからね」
「その積み重ねがないと、振り返る過去もない人生になるからね。篤久も真奈美さんも、まだまだ今だけに一生懸命でいい」
今だけに一生懸命でいい……いいんだ。
私はご主人様の言葉を噛みしめるように、エプロンの前でぎゅっと両手を握りしめた。
「話が逸れてしまったけれど、運転も支払いも彼で大丈夫だからよろしくお願いします」
「分かりました。ありがとうございます」
篤久様は先日の話の中で、遥香母子の使える金額には上限があると言っていたから、その範囲内では何をしてもいいということなのだろう。
おそらく、運転手さんはご主人様に誠実に仕えておられる。
そう思う理由は、ご主人様が大切な趣味コレクションの高級車の管理を運転手さんに任せておられるから。
だから、明日の支払い金額は奥様に請求されるに違いない。
翌日、いつもは挨拶程度しか話をしない運転手さんの隣に乗って
「よろしくお願いいたします」
と言うと
「私の方でも店は調べましたが、桑名さんの行きたい店にまず行きましょう」
静かにそう言って下さる。
「ありがとうございます。えっと……ここなんですけど……ここしか知らなくて」
きよ美さんに教えてもらって以来、何度か行ったことのあるお店の品揃えがいいと思うけど、他を知らないから分からない。
私は運転手さんにスマホを見せると
「私の調べた店と同じですね」
また静かに……どこかのスナイパーのように身を隠す人か、っていうくらいの雰囲気で返事があって、すぐに車が動き始めた。
コメント
7件
今だけに一生懸命でいい✨✨ 御主人様も、篤久様も、ほんま素敵やわぁ(*´艸`*) あ、運転手さんも🤭🍀
ご主人様にしろ篤久さんにしろ,あのとって付けた母娘意外真奈美ちゃんの心強い護守さんよね。
こんな良い言葉を言ってくれるご主人様がなぜあれ母娘と結婚したの?しかも家庭内別居しても離婚しないし?!