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170
吸血鬼パロ
⸻
最強無敵連合の撮影スタジオ。
今日の撮影はシード、18号は不在のようだった。
ライトの熱と、機材の電子音。
いつも通りの空間、いつも通りの空気。
——のはずだった。
⸻
「よし、ラストいくぞ」
ニキが声を出す。
その声に全員が反応する。
「OK〜」
「準備できてるよ」
でも。
(……なんか、?変?)
ニキの視線がひとりに向く。
ニキの相方、しろせんせーに。
しろせんせーはカメラの横の壁にもたれかかるように立っている。
「……」
表情はいつもと変わらない。
無表情気味で、淡々としてる。
でも。
(顔色、悪くね……?)
ライトのせいじゃない。
明らかに血の気がない。
「ボビー?」
小さく呼ぶ。
「ん?」
返事はいつもと変わらず普通だった。
「……大丈夫?」
一瞬の間。
「大丈夫やで」
すぐ答えた。
でも。
(いや絶対違うだろ)
ニキの中で違和感が強くなる。
「ほんとに?」
「しつこいなぁ、ほんとやって」
軽く笑う。
でもその笑いがどこか浅い。
「いつも通りでしょ」
「そうだよね」
弐十とはとねが不思議そうに言う。
周りは気にしてない。
でも。
ニキだけが引っかかる。
撮影はそのまま進む。
しろせんせーもいつも通りこなす。
でも。
カメラが回っていない瞬間。
一瞬だけ、息が浅くなるのを
ニキは見逃さなかった。
⸻
撮影が終わる。
「お疲れ〜」
いつもの解散の流れ。
「じゃ、またな」
しろせんせーもさっさと帰ろうとする。
「……ボビー」
呼び止める。
「なんや」
歩いている途中で振り返る。
「ほんとに大丈夫?」
少しだけ、真剣な声。
「大丈夫や言うとるやろ」
少しだけ強い口調。
それ以上、踏み込ませないように。
(……なんで隠すんだよ)
ニキの中であることが決まった。
⸻
夜。
しろせんせーの家の前にニキはいた。
インターホンを押しても反応がない。
「……おい」
何度か鳴らす。
返事はない。
嫌な予感が強くなる。
ドアノブに手をかける。
——開いた。
「は……?」
鍵がかかってない。
そのことがとても不安ですぐ中に入った。
暗い。
電気もついてない。
「ボビー!!」
声を張る。
奥の部屋へと進む。
カーテンが閉め切られて光がほとんど入らない。
その中に
倒れ込むように座っている影。
「……っ!」
一歩一歩ゆっくり近づく
その影の正体は、しろせんせー。
顔色は昼よりさらに悪い。
呼吸も浅い。
「おい、何してんだよ……!」
肩を掴む。
「……来んな」
弱い声。
拒絶されてしまった。
「…っ!ふざけんなよ!!」
思わず強くなる。
「こんな状態で放っとけるわけねぇだろ!!」
「……大丈夫や」
「どこがだよ!!」
声が震える。
「ちゃんと話せよ!!」
でも。
「言えん」
短い拒絶。
沈黙。
胸が、締め付けられる。
「……なんで」
声が、掠れる。
「なんで俺には言わねぇんだよ……」
視界が滲む。
「いつもさ」
言葉が止まらない。
「俺のことばっか考えてるくせに」
涙が落ちる。
「自分のことは後回しで」
「ふざけんなよ……」
ぐっと拳を握る。
「俺のことだけじゃなくて、自分のこと大切にしてよ……」
ぽろぽろと涙がこぼれる。
「っ……」
しろせんせーの目がわずかに揺れる。
「……すまん」
かすれた声。
「泣かんで」
ゆっくりと腕を伸ばす。
ニキを引き寄せる。
抱きしめる。
弱いはずなのに。
その力はいつも通りで。
「……ボビー」
胸元に顔を埋める。
少しして。
「……話す」
観念したように呟く。
「俺な」
一瞬、息を整える。
「吸血鬼なんよ」
沈黙。
「……は?」
理解が追いつかない。
「普段は輸血パックでどうにかしとる」
「でも……切れた」
息が浅くなる。
「しばらく、飲めてへん」
「だから……この状態や」
静かに落ちる言葉。
ニキの手が震える。
「……じゃあ」
「俺の血、飲めばいいじゃん」
「誰でもええわけやない」
「人間と吸血鬼にも相性がある」
少しだけ目を逸らす。
「……お前は」
「多分俺と、最高に相性ええ」
「出会った瞬間にわかった」
空気が止まる。
「じゃあ」
ニキがまっすぐ見る。
「俺の、飲めばいいじゃん」
「……あかん」
しろせんせーはすぐ答えた。
「なんでだよ…?」
「お前やからや」
短い言葉。
でも重い。
「大事やから」
それ以上は言わない。
でも。
全部伝わる。
ニキの心臓が大きく跳ねる。
(……ああ、そっか)
その時ニキは気づいた。今まで本人でさえ気づかなかった気持ちに。
「俺さ」
小さく笑う。
「ボビーのこと、好きだわ」
しろせんせーの目が見開く。
「だから来た」
「心配だったし」
「苦しそうなの、見たくねぇし」
そっと、首元に手を当てる。
「俺、ボビーになら何されてもいいよ」
「お前になら俺の全部あげる」
静かな声。
でも、迷いはない。
その瞬間。
しろせんせーの理性が切れた。
「……ほんまに、ええんやな」
低い声。
ニキは頷く。
次の瞬間。
ぐっと引き寄せられる。
「っ……」
首筋に息がかかる。
そして。
鋭い牙が、白い肌に沈む。
「……んっ、」
一瞬の痛み。
でも。
それ以上に。
体の奥が熱くなる。
しろせんせーの腕がニキを強く抱きしめる。
まるで。
離さないとでも言うように。
静かな部屋に。
二人の呼吸だけが重なっていた。
⸻
牙が離れたあと。
部屋の空気がやけに重くなる。
「……っ、は……」
ニキの呼吸が乱れる。
力が抜けるようにそのまましろせんせーにもたれかかる。
「ニキ!」
しろせんせーが慌てて支える。
さっきまでの衝動とは違う、焦り。
「……大丈夫か」
顔を覗き込む。
ニキの目は少しだけとろんとしていて。
「……なんか、ふわふわする」
力の入らない声。
「座れ」
すぐにソファに座らせる。
「ごめん……飲みすぎたかもしれへん」
ニキがふっと笑う。
その笑い方がいつもより無防備で。
(……やってもうた)
しろせんせーの手がわずかに震える。
「……すまん」
ぽつりと落ちる声。
「無理させた」
ニキはゆっくり首を振る。
「無理じゃねぇよ」
視線が、まっすぐ向く。
でもどこかぼんやりしてる。
「……なんかさ」
少し考えるように間を置いて。
「落ち着く」
小さく呟く。
「は?」
「さっきの」
ニキは自身の首元に触れる。
「痛かったけど……それより、安心した」
しろせんせーの心臓が一瞬強く鳴る。
「……変だろ」
「変や」
ニキの体が自然と近づく。
さっきよりも距離が近い。
まるで。
“求めてる”みたいに。
「……なぁ」
少しだけ甘えた声。
「もう一回いい?」
時間が止まる。
「……あかん」
即答し強めに言う。
「なんで」
「……依存する」
低い声。
「今でさえ、なりかけとる」
ニキの様子を見る。
ぼんやりした目。
近すぎる距離。
全てが証拠。
「お前、普通の人間やろ」
「これ以上は……壊れる」
絞り出すような声。
「……じゃあ」
ニキが少しだけ笑う。
「壊れる前に、やめてくれんの?」
「……」
言葉が詰まる。
「さっきもさ」
ニキが、ゆっくりと顔を上げる。
「限界なのに、俺のこと優先しただろ」
視線が絡む。
「そういうの、やめろよ」
少しだけ眉を寄せる。
「見てて、しんどい」
その言葉が刺さる。
「……お前を守るんは、当たり前や」
「じゃあ俺は?」
即返される。
「俺は、お前のこと守れねぇの?」
沈黙。
しろせんせーの呼吸が止まる。
「……っ」
ニキが少しだけ笑う。
弱いまま、でもまっすぐ。
「ボビーさ」
手を伸ばす。
しろせんせーの頬に触れる。
「俺のこと大事にしてくれてんの、分かってる」
「でも」
少しだけ力を込める。
「自分のこと雑に扱うのは、許さねぇから」
はっきりと言う。
「俺、そういうの嫌い」
そのまま。
少しだけ距離を詰める。
「……だからさ」
柔らかく笑う。
「俺も使えよ」
しろせんせーの目が揺れる。
「頼れって」
静かな声。
「好きなんだろ?」
一瞬、空気が止まる。
逃げ場はない。
「……好きや」
観念したように呟く。
「めちゃくちゃ、どうしょうもないくらい」
ニキが、少しだけ照れた顔で笑う。
「知ってる」
そのまま肩にもたれかかる。
「だから来たし」
「だから、血もやった」
少しだけ間を置いて。
「だからさ」
小さく息を吐く。
「後悔すんなよ」
しろせんせーの手がゆっくりとニキを抱き寄せる。
今度は。
さっきよりも、ずっと優しく。
「……もうせん」
「無理すんのも」
「一人で抱えんのも」
「……お前おるし」
ニキが、小さく笑う。
「うん」
そのまま目を閉じる。
少しだけ、呼吸が落ち着いていく。
静かな部屋。
さっきまでの緊張が嘘みたいに柔らかい空気。
でも。
しろせんせーの腕は——
もう、絶対に離さなかった。
⸻
あの日から数日後。
いつものスタジオ。
カメラ、照明、マイク。
全部、いつも通り。
「よし、始めるぞー」
ニキの声で撮影が始まる。
でも。
(……近い)
キャメロンがちらっと横を見る。
しろせんせーとニキ。
距離が明らかに近い。
肩がほぼ触れてる。
「これさ、こうしたほうがいいでしょ」
ニキが身振りで説明すると、
「それやったらこっちのほうがええ」
しろせんせーが自然にニキの手を添える。
距離がさらに縮まる。
「……」
りぃちょはニヤつく。
(何これ)
以前から距離は近かった。
でもこれは違う。
“無意識じゃない近さ”
しかも。
「危ないで」
ニキがコードに足を引っ掛けそうになると、
すぐ腕を引く。
「おい、ちゃんと見とけや」
声はいつも通り。
でも。
手は離さない。
「……わかってるって」
ニキが軽く笑う。
でもそのまま自然にその距離に収まる。
(あ、これダメだ)
弐十が確信する。
完全に空気が変わってる。
⸻
撮影の合間。
ニキが飲み物を取りに立つ。
すると。
「どこ行く」
しろせんせーがニキに問う。
「水取りに」
「俺持ってくる」
「いやいいって」
「ええから」
すでに動いていた。
「……過保護すぎない?」
キャメロンが小声で言う。
「前からだけど、レベル上がってる」
りぃちょも小声で言う。
「バグってるね」
「まぁでも理由あるでしょ」
はとねもキルシュトルテもちらっと二人を見る。
⸻
その日の夜。
ニキの部屋。
「……よく来たな」
ドアが開く。
しろせんせーが入ってきた。
「体調は?」
「普通」
「ふらつきは?」
「ねぇよ」
短いやり取り。
でも。
距離は近い。
しろせんせーがゆっくり手を伸ばす。
「……いいか」
低い声で確認をとる。
ニキは少しだけ目を細めて愛おしいものを見るように。
「ん」
軽く頷く。
それだけで十分だった。
ぐっと引き寄せられる。
背中に回る腕。
前よりも強くて。
でも。
優しい。
「……無理すんなよ」
小さく呟く。
「そっちこそ」
すぐ返される。
少しだけ笑う。
そして。
首元に顔が寄る。
「っ……」
あの日の感覚がよみがえる。
でも今は。
怖くない。
むしろ——
落ち着く。
「……いくで」
「ん」
牙が静かに沈む。
一瞬の痛み。
でもすぐにじんわりとした熱。
体の奥がゆるくなる。
ニキの手が自然としろせんせーの服を掴む。
(……やば)
自分でもわかる。
少し慣れてきてる。
「……っ」
しろせんせーが一瞬だけ動きを止める。
(依存、進んどる)
分かってる。
でも。
やめられない。
ゆっくりと牙が離れる。
「……大丈夫か」
すぐに覗き込む。
「へーき」
少し息は荒いけど笑う。
「前よりマシ」
「……無理すんな言うたやろ」
眉を寄せる。
「してねぇって」
軽く返す。
でも。
「ちょっとだけ」
ニキが小さく呟く。
「……?」
「落ち着く」
しろせんせーの動きが止まる。
「こうやってると」
少しだけ照れた顔で笑う。
「安心する」
その一言で。
理性が揺れる。
「……あんま言うな」
低い声で言う。
「なんで」
「離されへんくなる」
本音だった。
ニキが少しだけ笑う。
「いいじゃん」
軽い声。
でも。
「どうせもう離す気ねぇだろ」
見抜いてる。
しろせんせーは何も言わない。
ただ。
もう一度抱き寄せる。
今度は噛むためじゃなくて。
ただ、離さないために。
「……危ないことすんなよ」
ぽつりと呟く。
「分かってる」
「一人で動くな」
「はいはい」
「ほんまに」
少しだけ強く抱きしめる。
「……分かってるって」
でも。
その声は少しだけ柔らかい。
以前よりも。
確実に。
二人の距離は近くなっていた。
触れる理由が増えて、
離れない理由も増えて。
それでも。
まだ“恋人”とは呼べない。
ただ、誰が見ても分かるくらいには——
特別になっていた。
⸻
撮影スタジオ。
いつも通り、配信準備が進んでいる。
「今日の企画これね〜」
「コメント拾う感じでいくでしょ」
りぃちょとキャメロンが相談している。
機材チェック、音声チェック。
全部順調。
その中で。
(……あれ?)
はとねがふと首を傾げる。
ニキ。
パーカー。
しかもフード付き。
「暑くない?」
「ん?」
「いや、その格好」
「別に普通だろ」
さらっと返す。
でも。
(今、夏だよね)
キャメロンも気づく。
しかも。
やたらと首元を気にしてる。
無意識に手で隠すような仕草。
(怪しい)
そしてその横。
しろせんせーが妙に静か。
いつも以上に。
ニキの近く。
(あ、これ確定だ)
りぃちょの予想が確信に変わった。
⸻
「よし、配信いくぞ!」
ニキの声で、配信スタート。
カメラが回る。
「どうも〜最強無敵連合でーす!」
いつものテンション。
でも。
コメント欄は正直だった。
〈今日ニキ服暑そう〉
〈なんでフード?〉
〈首隠してる?〉
〈なんかあった?〉
〈ニキ可愛い〉
「いや暑くねぇし!」
即ツッコミ。
でも。
ちょっとだけ声が上ずる。
その瞬間。
「無理すんな」
横からしろせんせー。
自然にフードを軽く整える。
首元を完全ガード。
コメント欄、爆発。
〈え?今の何〉
〈距離近くね?〉
〈守ってる???〉
〈ガチじゃん〉
〈しろニキ尊い〉
「ちょっと待てコメントうるせぇ!!」
ニキは焦る。
でも。
余計に怪しい。
「ニキくん顔赤いでしょ」
キャメロンがからかう。
「赤くねぇって!!」
完全に赤い。
しかも。
無意識にしろせんせーのほうに寄る。
(終わったな)
弐十、心の中で合掌。
⸻
なんとか配信を終える。
「お疲れ〜」
カメラが止まった瞬間。
——沈黙。
「で?」
キャメロン。
全員の視線が一斉に向く。
ニキとしろせんせー。
「……何が」
ニキはとぼける。
「いや無理でしょ」
「隠す気なかったでしょ」
「何もないって」
一歩下がる。
でも。
「見せて」
弐十。
シンプルな圧。
「は!?」
「首」
「やだ」
即答。
さらに怪しい。
「ほら」
りぃちょが近づく。
「やめろって!!」
ニキは逃げる。
でも。
後ろから腕を掴まれる。
「……逃げんな」
しろせんせー。
一瞬、空気が変わる。
「ボビー!?」
ニキが振り向く。
でも。
しろせんせーはそのままフードに手をかける。
「見せたほうが早い」
「おい待て!!!」
——バサッ
フードが外れる。
露わになる首元。
薄く残る、噛み跡。
「……え」
「は?」
りぃちょ、キャメロンが困惑したように言う。
「……なるほど」
「マジかー…」
キルシュトルテと弐十がどこか納得したように言う。
全員が理解した。
「ちょ、違っ……」
ニキは顔を真っ赤にしている。
言葉にならない。
「……説明して」
キャメロンは冷静にそう言った。
ニキが詰まる。
その隣でしろせんせーがため息をつく。
「俺がやった」
「は???」
ニキ以外の全員が答えた。
「吸血鬼やねん」
さらっととんでもないことを言う。
「は?????」
二回目。
「で、ニキの血飲んだ」
「待って情報多い」
「いやいやいやいや」
全員大混乱
ニキは顔を覆う。
「……言うなよ……」
小さい声。
「無理でしょ」
弐十が言う。
「てかニキは大丈夫なの?」
はとねは心配そうに聞いてくる。
「平気だって」
でも。
その瞬間。
ニキの体がふらっと揺れる。
「ほら」
しろせんせーに支えられる。
「無理すんな言うたやろ」
完全に囲う。
「いやだから大丈夫だって……」
でもそのままニキの体はしろせんせーに自然に寄る。
その様子を見て。
「……あー」
「なるほどね」
「そういうことか」
「完全に依存じゃん」
りぃちょ、キャメロン、キルシュトルテ、はとねが納得したように言う。
「ちがっ……!」
否定しようとして止まる。
できない。
図星だった。
「……まぁ」
キルシュトルテが静かに笑う。
「お似合いですよ」
「は!?やめろ!!」
ニキは限界だった。
顔真っ赤。
でもその隣でしろせんせーは当たり前みたいに肩を抱く。
離さない。
「……文句あるなら俺に言え」
低い声。
一瞬、静まる。
でもすぐに
「いや別にないけど?」
「むしろ面白い」
「もっと見せてほしい」
それぞれがからかうように言う。
「やめろって!!!!!」
ニキの叫びが響く。
⸻
その日から
最強無敵連合の中で
“ニキの首元”は、いじりネタになった。
ただ一人。
それを触れさせない男がいるだけで。
⸻
あの配信から数日。
「……やば!」
りぃちょの声がスタジオに響く。
「どうしたの」
弐十が不思議そうにりぃちょに問う。
「これ見て!」
スマホを突き出す。
そこに映っているのは——
昨夜の配信の切り抜き。
タイトルは、【ニキの首元に謎の痕…しろせんせーとの距離が異常すぎる】
コメント欄。
〈これもう付き合ってるだろ〉
〈距離バグってる〉
〈守り方が恋人〉
〈首元なに???〉
〈吸血鬼ってネタ?ガチ?〉
〈むほほしろニキ最高〉
「……終わったな」
「完全にバレかけてるね」
「てかもうバレてるでしょ」
そこに。
「何が?」
ニキがスタジオにやってきた。
「いやお前……」
弐十がスマホ見せる。
ニキは固まる。
「……は?」
画面をスクロールする。
ニキの顔はどんどん赤くなる。
「いやいやいやいや待て待て待て!!」
パニック。
「なんでこんなんなってんだよ!?」
「自覚なさすぎでしょ」
「お前ら距離おかしいもん」
「普通あんな触り方しないよ」
「してねぇよ!!」
否定する。
でも。
「してた」
後ろから低い声。
しろせんせーがいた。
「ボビー!?」
「してたで」
追い打ち。
「お前も寄ってきとったし」
「っ……!」
言い返せなかった。
事実だったから。
ニキは黙ってしまった。
「……で?」
りぃちょがニヤつく。
「付き合ってるの?」
空気が止まる。
「ちがっ……!」
反射で否定した。
でも。
一瞬、言葉が詰まる。
その間を全員見逃さない。
「今の間なに?」
「完全に怪しい」
「違うって!!!」
声が裏返る。
その横でしろせんせーは何も言わない。
ただ、じっとニキを見る。
(……やめろって、その目)
ニキの心臓が跳ねる。
⸻
その日の配信では。
タイトルからして攻めてる。
「はい、ということで今日は——」
コメント欄は開始数秒で爆発。
〈付き合ってる?〉
〈昨日のやつ何?〉
〈説明して〉
〈首元見せて〉
〈全裸待機〉
「うるせぇ!!」
ニキはツッコむ。
「何もねぇって言ってんだろ!」
でもコメントは止まらない。
〈否定弱くね?〉
〈顔赤いよ〉
〈横見ろ横〉
〈ニキニキかわいいね、ハァハァ…〉
「は、横?」
思わず横を見る。
すぐ横にしろせんせーがいた。
近い。
(いやだから近いんだよ!!)
一瞬、距離を取ろうとする。
その瞬間ぐっと、腕を引かれる。
「離れんな」
低い声。
「っ……!」
ニキは固まる。
コメント欄、完全に沸騰。
〈はい確定〉
〈これもう恋人〉
〈無理好き〉
〈公開イチャイチャすな〉
〈これ本当に見ていいやつ??〉
「違うって!!!!!」
ニキは叫ぶ。
でも。
その声すら、照れが混じる。
「ニキ」
しろせんせーが、ぽつりと呼ぶ。
「……なに」
少しだけ不機嫌に返す。
でも。
「嫌か?」
静かな一言。
一瞬音が消える。
コメントも視界から消える。
「……は?」
「こう思われるん」
「嫌なんか」
まっすぐな視線。
逃げ場がない。
「……それは」
言葉が詰まる。
嫌か、と聞かれて。
“嫌じゃない”って、分かってしまう。
(あー、もう無理だこれ)
顔が熱い。
「……別に」
小さく呟く。
「嫌じゃねぇけど」
その瞬間。
コメント欄、爆発。
〈今の聞いた?〉
〈嫌じゃないって言った〉
〈確定演出〉
〈付き合ってますありがとうございます〉
〈しろニキ確定演出きました〉
「ちげぇって!!!!!」
もう遅い。
しろせんせーは少しだけ笑う。
「ほら」
「何がだよ!」
「嫌ちゃうやん」
余裕の顔。
「うるせぇ!!!」
でもニキは無意識に
しろせんせーの肩に少し寄る。
カメラにはしっかり映っていた。
コメント欄。
〈尊い〉
〈もう言えよ〉
〈付き合ってるでいいだろ〉
その日の最強無敵連合の配信は
“ほぼ公開告白未遂”として伝説になった。
⸻
配信後。
「……どうすんのこれ」
ニキは机に突っ伏す。
顔を真っ赤にして。
「ええんちゃう」
しろせんせーは隣で平然としている。
「よくねぇだろ!!」
「俺はええで」
さらっと言う。
「は!?」
「バレても」
「……っ!」
言葉が止まる。
しろせんせーが少しだけ近づく。
「隠す気、もうあんまないし」
低い声。
ニキの心臓がうるさくなる。
「……お前さぁ」
顔を逸らした。
でも。
「……ずるい」
小さく呟く。
それを聞いたしろせんせーは少しだけ笑った。
⸻
配信炎上の翌日。
スタジオの空気は、いつも通り——
とは言えない。
「おはよー」
りぃちょはニキに挨拶をする。
「……おはよ」
ニキの元気はない。
机に突っ伏している。
「まだ引きずってるの?」
キャメロンが顔を覗きながら言う。
「当たり前だろ……」
スマホを見せる。
通知は止まらない。
〈付き合ってる?〉
〈昨日のあれ何?〉
〈説明まだ?〉
「終わった……俺の人生……」
「大げさ」
弐十が笑いながら言う。
「でもまぁ」
りぃちょがニヤつく。
「否定しきれてなかったよね」
「うるせぇ!!」
顔がまた赤くなる。
その横でしろせんせーは静かに見てるだけ。
何も言わない。
それが逆に——
(なんだよ、その余裕)
ニキの心をざわつかせる。
⸻
撮影が終わる。
「お疲れ〜」
みんなが帰り始める中。
「ニキ」
しろせんせーに呼ばれる。
「ちょっとええか」
「……何」
少しだけ警戒した声。
「来て」
短く言って先に歩く。
その背中を追う。
⸻
ビルの屋上。
夜風が少し冷たい。
街の光が遠くに見える。
しばらく沈黙が続いた。
「……なんだよ」
ニキが先に口を開く。
「昨日のやつ」
しろせんせーがぽつりと言う。
「……」
一瞬で心臓がうるさくなる。
「嫌じゃなかったんやろ」
あの時の言葉。
思い出す。
「……別に」
視線を逸らす。
「嫌じゃねぇけど」
小さく、繰り返す。
「でも違うだろ、ああいうのは……」
言い訳みたいな言葉。
「違わんけど」
「……は?」
顔を上げる。
しろせんせーがまっすぐ見てる。
逃げない目。
「俺は」
一歩、近づく。
「最初からそのつもりやし」
空気が、止まる。
「……何が」
分かってるのに、聞く。
「お前と」
もう一歩、近づく。
「そういう関係になるん」
息が詰まる。
「……っ」
言葉が出ない。
しろせんせーが少しだけ笑う。
「今さらやろ」
「何がだよ……」
声が震える。
「血、飲ませて」
「距離あんなんで」
「守り方も、あれで」
「これで何もないほうが無理や」
図星だった。
完全に。
「……っ」
ニキは俯く。
逃げ場はない。
「ニキ」
名前を呼ばれる。
優しくて、でも逃がさない声。
「俺な」
少しだけ間を置いて。
「お前のこと、好きやで」
静かに、でもはっきりと。
「ずっと」
風の音だけが響く。
ニキの頭が真っ白になる。
「……は」
やっと出た声。
「今さら……?」
かすれた声。
「今さらや」
「でもちゃんと言っとかなあかんやろ」
一歩さらに近づく。
もう、逃げられない距離。
「お前がどう思っとるか、ちゃんと聞きたい」
まっすぐ。
「俺と、どうなりたい」
心臓が痛いくらい鳴る。
(……ずるい)
全部分かってて聞いてる。
でも。
逃げたくなかった。
「……俺」
ゆっくり顔を上げる。
「お前といるとさ」
少しだけ笑う。
「安心する」
「血とか関係なく」
「普通に」
しろせんせーの目が揺れる。
「だから」
少しだけ照れながら。
「離れたくねぇなって思う」
静かな肯定。
はっきりとは言ってない。
でも。
十分すぎる答え。
しろせんせーが息を吐く。
「……それでええ」
小さく笑う。
そのまま。
そっと、抱き寄せる。
今度は、前よりもずっと自然に。
「これで文句ないやろ」
耳元で低く。
ニキの顔が一気に赤くなる。
「……誰にだよ」
「コメント欄」
「うるせぇ!!」
でも。
そのまま、離れない。
夜風の中で。
二人の距離は、もう元には戻らなかった。
⸻
告白の夜から、数日後。
いつものスタジオでは。
「……で?」
キャメロンが腕を組む。
「どうなったの?」
「何が」
ニキはとぼける。
でも。
「いや無理でしょ」
りぃちょがニヤニヤしながら言う。
「隠す気ゼロじゃん」
「距離見てみなよ」
弐十とはとねが呆れながら言う。
言われて気づく。
しろせんせーの腕は当たり前みたいにニキの肩にある。
「……っ」
慌てて外そうとする。
でも。
「そのままでええやろ」
軽く引き戻される。
「よくねぇよ!!」
顔は赤い。
でも完全に拒否はしてない。
その時点で
「はい確定〜」
「おめでとうございます」
「まだ付き合ってねぇって!!」
即反論する。
でも。
「でも好きなんでしょ?」
はとねがニキに問う。
「……っ」
言葉が止まる。
その横でしろせんせーが、ぽつり。
「付き合っとるようなもんやろ」
「は!?」
「ええやん別に」
余裕の顔。
「よくねぇって言ってんだろ!!」
でも耳は真っ赤だった。
完全にバレてる。
「……で」
弐十が口を開く。
「どうするの」
「何を」
「配信」
全員静かになる。
そう。
問題はそこだった。
もうバレかけてる。
隠し続けるか。
それとも。
「……言う?」
りぃちょがニヤつく。
「絶対荒れるけど」
「もう荒れてるだろ!!」
ニキは頭を抱える。
しろせんせーは、横で静かに言う。
「俺はどっちでもええ」
「お前が決め」
視線が向く。
逃げられない。
ニキは少しだけ考えて。
「……」
そして。
「……言うか」
ぽつり。
全員、にやける。
「マジ?」
「覚悟決めたじゃん」
みんな一斉に話し始める。
「うるせぇ!!」
⸻
その日の配信では。
タイトルからして攻めてる。
【ちょっと話があります】
「はいどうも〜最強無敵連合でーす」
いつもの挨拶。
でも空気は少しだけ違う。
コメント欄はすでに荒れてる。
〈来た〉
〈絶対例のやつ〉
〈説明して〉
〈待ってましたぞ」
ニキが一度深呼吸する。
「えーと……」
一瞬、言葉が詰まる。
その横でしろせんせーが何も言わずに立ってる。
でも。
少しだけ近い。
それが、支えになる。
「この前の配信でさ」
「色々言われてたやつ」
コメント欄は加速する。
〈首のやつ〉
〈距離のやつ〉
〈付き合ってる?〉
「……あー、まぁ」
頭をかく。
「完全に否定はできねぇ」
一瞬、静まる。
そして。
爆発。
〈え!?〉
〈え!?!?〉
〈確定!?〉
「付き合ってる、っていうか」
言葉を探す。
「……そういう関係になりました」
一瞬の静寂。
そのあと。
コメント欄大炎上(歓喜)。
〈おめでとう〉
〈尊い〉
〈やっぱりか〉
〈公式きた〉
〈しろニキ最高むほほ」
「うるせぇ!!」
照れ隠しで叫ぶ。
その瞬間。
しろせんせーがぽつり。
「恋人やで」
「ちょ!!!」
ニキは完全に真っ赤になる。
コメント欄はさらに爆発。
〈今の聞いた?〉
〈恋人って言った〉
〈無理最高〉
〈これは無料ですか〉
「お前言うなって!!!」
でも。
そのまま。
隣に、寄る。
完全に無意識だった。
しろせんせーは当たり前みたいに肩を抱く。
もう隠さない。
「……まぁそんな感じで」
ニキが小さく笑う。
「これからもよろしく」
コメント欄は祝福で埋まった。
⸻
配信が終わったあと。
「……終わった……」
ニキは机に突っ伏す。
「大丈夫か」
しろせんせーが隣に座る。
「恥ずすぎる……」
顔は真っ赤だった。
でも。
少しだけ笑ってる。
「でも」
小さく呟く。
「嫌じゃなかった」
しろせんせーの手がゆっくり伸びる。
指先で、ニキの首元に触れる。
「……もう隠さんでええな」
「お前が隠させてたんだろ」
軽く睨む。
でも。
そのまま、少しだけ首を傾ける。
「……いいよ」
小さな声。
「今なら」
しろせんせーの目が揺れる。
「……ほんまにええんか」
「うん」
迷いはない。
ゆっくりと、引き寄せられる。
今度は。
焦りも、葛藤もない。
牙が触れる。
「……っ」
小さく息を漏らす。
でも、そのまま受け入れる。
しろせんせーの腕が優しく抱きしめる。
もう、離さないように。
ニキもしろせんせーの服を掴む。
当たり前みたいに。
“そこにいる”ために。
⸻
最強無敵連合。
最強で、無敵で。
ちょっと騒がしくて。
でも。
何よりも大事な場所。
その中で。
二人の関係は変わった。
隠さなくなって、
距離がもっと近くなって、
それでも変わらないものもあって。
「……好きやで」
「知ってる」
当たり前みたいなやり取りが、増えていく。
騒がしい日常の中で。
血も、言葉も、全部ひっくるめて。
二人はちゃんと隣にいる。
⸻
おまけ
⸺
夜。
スタジオではなくニキの家。
「今日ここから配信な」
スマホをセットしながらニキが言う。
「珍しいね?」
キャメロンが不思議そうに言う。
「まぁたまには」
ソファに座る。
その隣に当たり前みたいに座るしろせんせー。
(距離近いんだって)
りぃちょはもう笑いそうだった。
「はい配信つけるぞ〜」
配信スタート。
「どうも〜最強無敵連合でーす」
ゆるいテンション。
コメント欄は爆発。
〈同棲?〉
〈距離やば〉
〈隠さなくなったな〉
〈しろニキきた〉
「うるせぇなお前ら!!」
ニキはすぐツッコミ。
でも。
いつもよりちょっと柔らかい。
「今日は普通に雑談な」
「ゆるくいくでー」
そのまま。
自然にニキの肩に腕を回す。
コメント欄は再爆発。
〈ナチュラルすぎ〉
〈公式こわい〉
〈手慣れてる〉
「外せ!!」
ニキは肩を叩く。
でも。
完全には離れない。
「ええやろ」
「よくねぇよ!!」
言いながらちょっと寄る。
(終わったー)
弐十は確信した。
「最近どうなの?」
はとねがニキに問う。
「何が?」
「生活」
ニキが一瞬だけ詰まる。
「……普通だよ」
「ほんまか?」
しろせんせーが横から覗く。
距離は近い。
「普通だって」
でも、少しだけ目逸らす。
「血は?」
りぃちょがぶっこむ。
「おい!!!」
ニキの顔が赤くなる。
コメント欄はもう祭り。
〈血って何!?〉
〈吸ってるの!?〉
〈まじで吸血鬼設定なの?〉
「言うなって!!」
「ええやろ別に」
しろせんせーが平然と言う。
「よくねぇって言ってんだろ!!」
でも。
その瞬間。
しろせんせーの指がニキの首元に触れる。
軽くなぞる。
「……っ」
ニキはビクッとする。
「ちょ、やめろって!!」
顔は真っ赤だった。
コメント欄は完全に崩壊。
〈今のなに〉
〈えっっっ〉
〈甘すぎる〉
〈見せていいやつ?〉
「反応おもろ」
しろせんせーは少し笑う。
「うるせぇ!!」
でもそのあと。
少しだけ距離が縮まる。
無意識に。
「てかさ」
「ニキくん変わったよね」
キャメロンが言う。
「は?」
「前より素直」
「なってねぇよ」
否定する。
でも。
「なっとるで」
しろせんせーが即答。
「なってねぇ!!」
「俺に対してはなっとる」
「……っ」
言葉が止まる。
コメント欄再び爆発。
〈今のやば〉
〈甘い〉
〈供給過多〉
「もうやめろって!!!」
ニキは完全に限界だった。
いじやけながらソファに沈む。
そのまましろせんせーの肩に寄る。
完全に無意識。
「……疲れた」
小さく呟く。
「ほら」
しろせんせーが軽く頭を撫でる。
「無理すんな」
優しい声。
コメント欄。
〈夫婦〉
〈これもう日常なんだ〉
〈幸せ空間〉
「……お前らほんと黙れ」
ニキは顔を埋めたまま。
でも。
少しだけ笑ってる。
⸻
配信の終わり。
「じゃあ今日はこのへんで」
「おつかれ〜」
終わる直前。
「ニキ」
しろせんせーが、小さく呼ぶ。
「ん?」
顔を上げる。
そのまま。
首元に軽く触れる。
「……後でええ?」
低い声。
意味が分かる。
「……ばか」
小さく呟いて。
でも。
「……いいよ」
ちゃんと答える。
コメント欄。
〈今の何!?〉
〈聞こえた〉
〈やばいって〉
「終わりだって!!!!」
慌てて配信を切る。
画面が暗くなる。
静かな部屋。
少しの間。
見つめ合って。
「……お前さ」
ニキが笑う。
「ほんと遠慮なくなったよな」
「お前がええ言うたやろ」
「まぁな」
少しだけ照れながら。
でも。
逃げない。
そのまま少しだけ近づく。
日常の中で。
当たり前みたいに。
触れて、寄り添って。
もう隠さない関係で。
二人の時間は、静かに、甘く続いていく。
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ごちそうさまです(最高)