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せっかく二人で映画館まで行ったっていうのに、くだらないケンカに気もそぞろで内容なんか全く覚えちゃいなかった思い出(?)の映画がDVDになったと言って、渡辺がさっそく買ってきた。
阿部はあれ以来、もう渡辺と映画館へ行くのはやめようと心に決めていた。彼が大人しく開演を待っていられるようになったら考えてもいいけれど、それまではこうして部屋でDVDを見るくらいが丁度いいと思う。
そんなわけで二人は今夜、渡辺の部屋で一緒にDVDを見ることにしたのだった。
「阿部ちゃんどれだっけ?」
「そっちの、炭酸のやつ」
「オッケー」
コンビニで調達してきたペットボトルとスナック菓子を並べ、部屋のカーテンをきっちり閉める。電気を消して、デッキにDVDをセットする。と、そこまでしてから、渡辺は阿部の隣に腰を下ろした。
二人は各々の仕事をこなした後、デリバリーで軽く夕食をとり、風呂も済ませてしまって、もう後は何も気にせずにDVDに集中できる環境を整えた。加えて、明日の仕事は午後からだ。今、彼らを煩わせるものは、心配事一つだって存在しなかった。
「じゃあ、再生するよ」
「うん」
阿部がリモコンの再生ボタンを押した。いくつかの映画の予告が流れた後、ようやく本編が始まる。この辺りは見覚えがあるような気もする。
ちらりと阿部が隣の渡辺を窺うと、彼はクッションを抱えてもう真剣な顔で画面に釘付けになっていた。渡辺が見たいと言っていた映画なので当然と言えば当然だった。
阿部もテレビに視線を戻す。
しばらく見ていると、それは想像していたよりもポップなラブストーリーで、いかにも渡辺が好きそうな映画だった。相変わらず、隣の渡辺は真剣だ。
「………」
甘さ控えめのレモンサイダーを飲みながら、なんとなく、阿部は映画ではなく渡辺を眺めてみた。きゅ、っと唇を結んで映画を見続けている渡辺の様子がなんだか面白く思えてきたのと同時に、阿部の胸に不意にイタズラ心を芽生えさせる。
テレビ画面の光しかない仄暗い室内。渡辺の白い頬が、目の前でまるで発光しているかのように、阿部の目に眩しく映った。
「………、何?」
阿部が吸い寄せられるように、その頬に触れるだけのキスをすると、渡辺はほんの少し驚いた顔でこちらを向いた。口元だけで微笑んで、阿部はテレビ画面に向き直った。渡辺も照れたように笑いながら、また映画の内容へ戻っていく。それを確認してから、また、渡辺の方へ顔を向けてほっぺにキス。
「もー、何だよ?」
渡辺がまたこちらを見て、今度は目尻を垂れて小さく笑い声を上げたので、阿部は思わずその柔らかな唇にも触れたくなってしまった。そこまでしたら、渡辺は怒るだろうか。そんな思いに反して、身体は渡辺に近付いていき、気が付いたらもう唇がくっついていた。
「ん……」
阿部の考えは杞憂だったようで、阿部がゆっくりとキスの角度を変えれば、渡辺もそれに合わせて阿部の首にしがみつき、薄く唇を開いてその先を促した。阿部は誘われるままに、その中へ舌を差し込んだ。
「んん」
お互いの舌を伸ばして、裏も表も無いくらいに絡め、舐め合う。唇を甘噛みしたり、唾液を啜ったりする。時折、吐息とともにくぐもった声を上げながら、二人は飽きもしないでただキスに夢中になった。
もしかしたら、こんなにキスだけに時間をかけたのなんて人生初なんじゃないかというくらい、唇がもう離れないんじゃないかというくらいに、何度も何度もずっとキスを繰り返した。
「ん、阿部、ちゃん…阿部ちゃん」
「は、ん…翔太」
キスの合間に名前を呼び合う。一度離れて見つめ合い、また近付く。
阿部も渡辺も、はっきり言って映画なんてもう見てる場合じゃなかった。完全に身体が熱くなってしまって、どうしょうもなくなっていた。
「ねえ、阿部ちゃん…っ」
先に痺れを切らしたのは渡辺の方だった。渡辺は、はあはあ肩で息をしながら阿部のTシャツを捲し上げた。興奮した様子で、阿部の頬や唇、首筋、色んなところを啄みながら、余裕なく手のひらを動かしてくる。
「うわっ」
渡辺の口付けに、阿部はたまらなくなって彼の両手首を掴むと、そのままフローリングへ押し倒した。ゆっくりやったつもりだったけれど、実際は倒れ込むようになってしまった阿部が渡辺を見つめると、渡辺の潤んだ瞳がじっとこちらを見上げてくる。
「あ…ん…」
もう一度、確かめるように唇を合わせる。またしつこく舌を動かして、流れっぱなしのDVDの音がひどく遠くに聞こえるくらい、阿部はただ渡辺とのキスに没頭した。
それから、唇で渡辺の頬や首筋、鎖骨を辿り、Tシャツを脱がせて、胸や腹へもキスを落としていくと、阿部の唇が白い肌に吸い付くたびに、渡辺は小さく声を漏らしながら震えた。
阿部の手が渡辺のスウェットの中に忍び込んで、熱くなった欲望を握り込む頃には、もう短い喘ぎ声を絶えず開けっ放しの口から零すだけになっていた。
「翔太、すごく硬い…」
「や、あ…っ」
下着と一緒にスウェットを脱がせてやってから、再度、硬くなったそこへ手を這わす。ぬるぬるした透明の液体で濡れて光る先端を指で撫でると、一際大きく渡辺の身体が跳ねた。
「ああ、阿部ちゃん…やば、い、それ…気持ちいい」
渡辺という男は、本当に欲望に忠実だった。
仕事も忙しく、毎日が目まぐるしく過ぎていく二人は、そう頻繁に身体を重ねられない日常を送っていたが、それでもこうしてお互いを求め合う時、渡辺はいつだって快感に対してはすぐに従順に反応を示した。
このくらい、普段も素直だったらいいのに。頭の隅でそんなことを考えながら、思いのまま阿部は手の中の渡辺を愛撫した。
「あべちゃ、だめ…俺、も…」
そろそろと、渡辺がこちらに腕を伸ばしてくる。黙ってしたいようにさせてやると、渡辺の手のひらが阿部の熱くなった部分に触れた。
「…俺も、触りたい」
そんなことを言われたら、たまらなくなるって、彼はわかってやってるんだろうか。阿部は起き上がって自分の着ていたものを勢いよく脱ぎ捨てると、また渡辺の身体に覆いかぶさった。
「翔太、触って」
「あ、ん…ん」
耳たぶを唇で撫でながら、渡辺の手のひらへ熱を押し付ける。阿部は片手で渡辺の欲望を擦り上げ、手を動かすたびに聞こえてくる可愛い声に耳を澄ませた。
「ああ、翔…翔太、ん」
「阿部ちゃん、阿部ちゃん…あっ、もう、俺…」
「ん、いく? 」
阿部が尋ねると、渡辺は首を横に振ってから、手のひらの中の阿部自身を示して「これ…欲しい」と、吐息混じりの声でねだった。
阿部は思わず、喉をひくつかせて息を吸い込んだ。今のこの状況に、渡辺の仕草一つ一つに、いちいち興奮してたまらなかった。
「待って翔太、ちゃんと、準備しないと…」
高鳴る鼓動を抑えながら、阿部は冷静を装って渡辺の奥へと触れ、まだ閉ざされているそこを揉むように撫でてから、ゆっくりと指を埋めていく。片手では渡辺の白い太ももを撫でながら、中を広げるように丁寧に。
「うん…、ん…あっ」
「翔太…っ」
唾液を落とし、何度も指を抜き差しするうちに次第に柔らかくなったこそへ、阿部は先ほどと同じように、ゆっくりと慎重に腰を進めた。瞬間、渡辺の熱に包みこまれて、思わず吐息が漏れる。
渡辺もはじめこそ苦しそうに眉を寄せたものの、すぐに快感を訴える恍惚とした表情に変わって、震える指先で阿部の腕にしがみついた。
「はっ、あ、あ…あっ」
「ん…あ、翔太っ、気持ちいい?」
「うんっ、いい、あ…、気持ちい…っ」
熱い。全身から湯気が出ているんじゃないかと思うくらい、熱かった。何もかもが熱くて、身体も、頭の中も、全部が気持ちよくて、おかしくなりそうだ。
「ああっ、阿部ちゃん…あ、だめ…あっ」
阿部はもう渡辺の様子を窺う余裕もなく、ただ熱に浮かされるままに腰を突き動かした。下から聞こえる渡辺の艷やかな声が、より一層阿部を狂わせていた。
可愛い、可愛い翔太。出来ることなら、ずっとそばにいて、ずっと抱き合っていたい。ずっと、二人でこうして熱を分け合っていたい。
「翔太っ」
「あべ、ちゃ…っ、あ、俺、いきそ…」
「あぁ、俺もっ」
ストロボのように、目の前がチカチカ光る。
ぎゅっときつく互いを抱き締め合って、二人は殆ど同時に、これ以上ないほどに高まった熱を解き放ったのだった。
「………、」
気が付けば、もうとっくにDVDは終わっていて、テレビにはタイトル画面が表示され、繰り返し同じBGMが流れていた。
こうして熱を放った後、我に返る瞬間はいつだって慣れることなく、照れくさくて、恥ずかしい。先ほどまでの自分は一体どこへ行ったのかと心底不思議に思うくらいだった。
阿部は上半身裸のまま、黙ってティッシュを捨てたレジ袋の口を縛りながら、ちらりと渡辺を窺ってみた。
渡辺も、黙ったまま脱ぎ散らかされた服を拾い集めている。
「…あ、これ阿部ちゃんのだ」
「ん? ああ、翔太のは、こっち…」
阿部が目の前のTシャツを拾って渡辺へ手渡す拍子、渡辺の丸い瞳とばっちり目が合ってしまった。すぐに逸らそうとしたけれど、タイミングを逃して、そのまま彼の垂れ目に吸い込まれるんじゃないかと思うくらい見つめ合う。
「へへ…」
しばらく見つめ合っていると、急に渡辺が照れたように笑った。阿部もつられて笑ってしまった。
渡辺はささっとパジャマ代わりのTシャツとスウェットに身を包むと、つん、と阿部の腕を引いた。
「なあなあ、阿部ちゃん聞いて」
言いながら近付いてくる渡辺に自然と耳を傾ける。
「あのさ、俺、阿部ちゃんのことが…」
と、小さく耳元に囁かれた「大好き」を聞きながら、阿部はただ自分の顔が崩れていくのを感じて、思わず右手で口を覆った。
俺も大好きだよ、俺の方が、好きだよ、翔太、愛してるよ。一瞬で色んな言葉が頭の中を一杯に埋め尽くしたけれど、結局ひとつも口から出ることはなかった。阿部は代わりに渡辺を抱き締めると、さっき飽きもしないで繰り返したキスを、もう一度、渡辺の唇へ贈った。
このキスが終わったら何と言って愛を伝えようか、そのセリフを考えながら。
コメント
4件
やーーーーー!!!最高!!!!💚💙
しょぴが純愛を説くのが可愛いし、不器用なのに熱い想いの2人が本当に素敵です🥺 七夕にいいあべなべ読めたぁ🥺🥺🥺ありがとうございます!
純愛っていうか、エロス🫣 ご馳走様です💚💙