六話
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『何考えてんの?』
苛立ちを含んだ声がセミの鳴き声に混ざって鼓膜を刺激する。
信号の青い光が警告するように点滅していて、立ち止まった私達の横を生温い(なまぬるい)風が吹き抜けていった。
『さらは―――』
見ないで。
そんな、軽蔑するような眼差しを向けないで。
下唇を噛み締めて、目蓋をきつく閉じる。
「ねぇ!さらがリーダーするのどう?!」
美玖の声にはっとして顔を上げた。
「…ぇ…?リー、ダー…?」
「うん!」
別のことを考えていたので、どうして突然そんなことをいい出したのか話が見えない。
手のひらの灰色をぎゅっと握りしめる。
「リ、リーダーなんて私に向いてないよ…?」
私よりも橙色を纏っている美玖のほうがあっていると思う。
行動力があって、言葉に力がある。
それに美玖なら人の輪の中心に立って話ができる。
私は意見を言うのが苦手だから、まとめ役はできそうにない。
「そんな事無いって~!」
美玖が声を弾ませた。
「さらって周りと上手くやるの得意なイメージだし!合ってるよ!」
そう思ってくれるのは嬉しい。
でも周りと関係を築いていくのは不得意な方だ。
だから人に合わせて流されて、楽をしてしまう。
「無理に押し付けんなよ」
間宮くんが咎めるように言うと、
「だって~」
と美玖は口を尖らせて教卓側へ視線を見ける。
「私はリーダーはやりたくないし」
誰を見ているのかすぐにわかった。
美玖が避けているのは、先程私が見ていた女子―――加藤恵美。
制作グループのリーダーは恵美らしく、輪の中心になって何かを話している。
美玖がリーダーになると、恵美と必然的に関わることになる。
それを避けたいみたいだ。
七月の前半までは私達のグループにいて、美玖が大好きだったはずの子。
自分の意思を強く持っていて、曲がったことが嫌いで、真っ直ぐな言葉を投げかけてくる。
そういう彼女を美玖は気に入っていて、ペアでなにかするときはいつも恵美に声を掛けていた。だけど、美玖に対して恵美に物申したことによって、平穏だった三人の関係は変化した。恵美への好意は、オセロのようにひっくり返って敵意になってしまったのだ。
「お願い!さら、リーダー頼んでもいい?」
ほんとはやりたくない。
けどやりたくないのは美玖も同じ。
少し憂鬱な気分だけど…。
「うん。やってみるね」
「..宮原はそれでほんとにそれでいいわけ?」
「大丈夫だよ」
口角を上げて笑みを作る。
居場所を失いたくない。失敗してがっかりされないようにやるならしっかりしなきゃ。
「ありがと~!やっぱさらは優しいし頼りになる~」
心になにかが引っかかる。
美玖がくれた優しいとか頼りになるという言葉は、いい意味なはずなのに素直に喜べない自分がいた。
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