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#溺愛
高瀬船
934
#女性向け
常陸之介寛浩
840
黒猫ている
2,077
#ハッピーエンド
黒猫ている
502
コリーナ達を見送った後、今度は戻って来たオースティンとオルファを交えて四人で話をする事になった。
オースティンの足の怪我の事もあり、邸の玄関から程近いサロンへ向かう事にする。
オルファとリオルドに体を支えてもらいながらサロンへ移動し、ソファに座ったオースティンが徐に口を開いた。
「──リスティアナ。陛下に報告をしたのだが、オルファはこの家の跡継ぎでは無くなる」
「えっ!?」
衝撃的な事をあっさりとした口調で告げられ、リスティアナは素っ頓狂な声を上げてしまう。
すぐにはしたなかった、と口元を片手で覆ったが、出した声はしっかりとリスティアナ以外の三人に聞かれている。
オルファはリスティアナの反応に「そうなるよな」と苦笑し、オースティンは「まあ落ち着け」とリスティアナに声を掛けたあと、何故かちらりとリオルドへ視線を向ける。
いつも冷静沈着であったリスティアナの態度が年相応に崩れた事に、リオルドはリスティアナの反応に僅かに頬を染めていた。
「オルファの元婚約者の伯爵家が、此度の一件に僅かではあるが関わっていた。──僅かでも、叛逆を企てていた家と、我がメイブルム侯爵家の縁を紡ぐ訳にはいかぬ」
「そ、そうだったのですね……それは……確かに……。ですが、お兄様は……」
リスティアナにちらり、と視線を向けられたオルファは肩を竦めて言葉を返す。
「まあ……。伯爵家のご令嬢はその件に関わってはいなかったから、可哀想ではあるんだが。仕方ない。元々政略的な婚約だったしな」
オルファは気まずそうに後頭部をかくと、視線を外す。
政略的な婚約とはいえ、相手の伯爵令嬢はオルファに想いを抱いていたように見えるし、オルファ自身も多少情は抱いていただろう。
伯爵令嬢は関わっていなかったと言う事なので、ご破談になってしまった事はとんだとばっちりだろう。
リスティアナは相手の令嬢の心中を察すると胸に苦い物が込み上げる。
「ですが、破談になったとは言え、何故お兄様が跡継ぎでは無くなるのですか?」
リスティアナははっとしてオースティンに視線を向けると、オースティンはオルファにちらり視線を向けてからリスティアナに視線を戻す。
「オルファは、ウルム国の第四王女の元へ行く事が決まった……。あちらで第四王女様と面識があり、……オルファを大層気に入って下さったようだ」
「──ウルム国の王女殿下に……!?」
「ああ。ティシア様の下の妹御であられる。年もオルファの一つ下の十八歳だ。オルファはウルム国で公爵位を授かり、王女殿下は公爵夫人となる」
「ちょ、ちょっと……お待ち下さい……」
兄の婚約の破談の話だけでも混乱するのなな、ウルム国で新たに爵位を授かり、王女殿下を妻に、など──。
どうしてそうなってしまったのか、とリスティアナが混乱していると、今まで黙って話を聞いていたリオルドがぽつりと言葉を紡いだ。
「そう、なると……。メイブルム侯爵家の跡継ぎがいなくなり……リスティアナ嬢の夫が?」
リオルドの言葉に、オースティンは口元をゆるゆると笑みの形に変えるとゆったりと頷いた。
「──ああ。どうにも、ヴィルジール殿下はティシア王女殿下と婚約を結んだ今も尚、リスティアナを諦めていないように見える。だが、リスティアナがメイブルム侯爵家の跡継ぎである夫を迎える必要が出てくれば、ヴィルジール殿下もやっと諦めて下さるだろう。……愚かにも、あの方はリスティアナを第二妃に迎えようとしているらしいからな」
「……な!? まだ、そのような事を……っ」
ヴィルジールの諦めの悪さに、リスティアナが呆れたように言葉を返す。
「そうだろう。そもそも、第二妃などウルム国のティシア王女殿下が許す筈が無い。そもそも……我が家をこれ以上王族の内輪揉めに巻き込んで貰いたく無い。巻き込まれぬ為に……リスティアナには新しい夫候補の婚約者が必要だ」
「婚約者……ですか……」
オースティンから告げられた言葉に、リスティアナは無意識に近くにいたリオルドについつい視線を向けてしまう。
それは、リオルドも同じだったようで。
リスティアナに視線を向けていたリオルドは、リスティアナと視線が合い、きゅっと唇を噛み締める、オースティンに顔を向けた。
「……メイブルム侯爵、リスティアナ嬢の婚約者候補は、もう……決まっておられるのですか?」
眉を寄せ、何処か苦しげに言葉を紡ぐリオルドに、オースティンはゆるりと首を横に振ってリオルドの言葉に否と返す。
「いいや。何分、オルファの件も急な事だったからな。まだ何も決まっていない」
何処か挑戦的にリオルドに視線を向けるオースティン。
その視線を受けたリオルドはこくり、と喉を鳴らし、オースティンに向かって背筋を伸ばし、視線を合わしたまま口を開いた。
「──リスティアナ嬢の、婚約者がお決まりではないのであれば……条件をお教え下さい。……好いた女性が、このまま誰かの物になるのを指を咥えて見ている訳にはいきません」
リオルドの言葉に、オースティンはにんまりと口元を笑みの形に歪め、オルファは口笛を吹く。
リスティアナはリオルドの言葉に顔を真っ赤に染め上げてぱくぱくと唇を開けたり閉めたりとしてしまう。
「ス、スノーケア卿……」
まさか、婚約者になる条件を直接オースティンに聞くとは思わなかった。
オースティンは、リオルドの言葉を聞き「ふむ?」と声を上げると愉快気に口を開く。
「スノーケア卿は、学園卒業後は騎士団で数年間過ごし、タナトス領に戻るつもりでは……? 兄上である現タナトス領当主、マーベル殿の補佐をする為に学園で学び、騎士団で己を鍛えると聞いていたが……。メイブルムの当主となればそれも叶うまい」
「ええ。そうですね……。リスティアナ嬢と出会う前の私は、兄の力になりたい、助けになりたい、と考えておりました。……ですが、」
リオルドはそこで言葉を一旦区切ると、リスティアナに真っ直ぐ視線を向ける。
「私自身の手で支え、共に生きて行きたい女性がいます。兄の手助けは、離れた場所からでも充分出来ます。──昔は、兄の側に居なければ手助けも何も出来ない、と考えていました。ですが、離れた場所──この、王都でも、国の中央からでもまた違った手助けは出来ます。それを、今回メイブルム侯爵の行動で気付かせて頂きましたから」
「──そうか。……まあ、いいだろう」
リオルドの言葉を聞き、オースティンは小さく微笑みを浮かべてソファに背を預けるとゆっくりと息を吐き出した。
「──条件など無い。リスティアナが好いた男が、同じようにリスティアナを好いてくれていればそれで充分だ」
オースティンは今まで被り続けていた侯爵家当主のオースティン・メイブルムでは無く、リスティアナ・メイブルムの親として自然に小さく笑顔を浮かべると、リオルドに向かってそう言葉を掛けた。
◇◆◇
そして、翌日。
アロースタリーズの国王であるバルハルムドを弑逆しようとしたバジュラドの処刑の日がやってきた。
国内の貴族達には此度の件について説明がされているが、国民達にはされておらず、朝早くから叛逆者、王兄バジュラドの処刑について王都中に報じられた。
処刑場所である王城の広間には、所狭しと王都で暮らしている民達が集まり、叛逆者であるバジュラドが姿を表すのを固唾を呑んで待っている。
ざわざわ、と民衆達がざわめくなか、リスティアナ達貴族は、少し離れた場所に貴族専用の傍聴席があり、そこにリスティアナとリオルド、オルファが座っている。
オースティンは怪我の件もあり、不参加だ。
邸で全てが終わるのを待っている。
リスティアナ達の近くには、同じ四大侯爵家の面々が座っており、リスティアナとコリーナはこの傍聴席にやって来た時に軽く顔を合わせ、会話をした。
リスティアナの隣にリオルドが居る事から、ある程度察したのだろう。
コリーナは瞳を細めてリスティアナとリオルドに「良かったわね」と声を掛けると軽く手を振り自分の席に着いた。
バジュラドの処刑が済めば、その後は国王バルハルムドから国民に、今回の騒ぎの説明が行われ、敵国に情報を売った貴族達が粛清される。
やっと、ようやっと一連の騒ぎが落ち着くのだ、とリスティアナは小さく溜息を吐き出すと、隣に座っていたリオルドがリスティアナに視線を向けた。
「──リスティアナ嬢?」
「……ごめんなさい何でもないですわ」
「そう、ですか……?」
だが。何でも無い、と言うリスティアナが何処か苦しげに見えてリオルドはリスティアナの手をそっと握る。
「──ス、スノーケア卿……?」
突然握られた手に、リスティアナは微かに頬を染めてリオルドに視線を向ける。
リオルドは真っ直ぐ前を向いたまま、繋いだ手を指先を絡めるようにしてぎゅっと力を込める。
「──リオルド、と呼んで下さい……。見たく無ければ見なければいいのです」
「……目を逸らす事はしませんわ。……この国の貴族として、貴族として生まれたからには、最後まで見届けねばいけません」
「貴女は強いですね」
リオルドの言葉に、リスティアナは目を瞬いた。
眉を下げ、困ったように笑うと答える。
「あら、強くなんてございませんわ。本当は目を背けたくてたまりませんもの。……何も見ず、何も知らぬ存ぜぬで過ごせれば、生きるのにどれだけ楽かしら?」
二人が小さく、小声で会話をしていると民衆のざわめきが大きくなる。
元、王兄バジュラドが姿を現したのだ。
民衆のざわめきの向こうに、バジュラドがやつれた姿を表し、怯えた表情で視線を彷徨わせている。
ゆらり、ゆらりとバジュラドの視線が彷徨い、貴族の傍聴席に座っているリスティアナの姿を見付けたのだろう。
バジュラドの唇が小さく動いた。
「──……っ」
「リスティアナ嬢……?」
リスティアナは、思わずバジュラドから視線を逸らすようにリオルドの胸に顔を埋める。
確かに、バジュラドはリスティアナの母親の名前を口にした。
そっと自分自身の背中に回る、優しいリオルドの手のひらにリスティアナはほっ、と安堵の息を吐き出すと、バジュラドに視線を戻す。
視線を戻した先のバジュラドは、リスティアナからは既に視線を外しており、処刑台へ上がっていった。
真実は分からないが、恐らくバジュラドはオースティンの妻であり、既にこの世を去ってしまったリスティアナとオルファの母親である女性に想いを抱いていたのだろう。
そして、王の血筋であると言うのに妾腹の子であったが為に玉座に座る権利を剥奪された。
ヴィルジールと言う後継が居なければ。今の国王が崩御した際は。
自分自身が玉座に座る事が出来ると夢見たのだろう。
その歪んだ思いが、国を売り他国と手を組み、国民の命を危険に晒した。
――そして、国を危険に晒した男の一生は、呆気なく幕を下ろした。
バジュラドの処刑が済み、国王バルハルムドが国民達の前に姿を現す。
次いでバジュラドと同じく国を売った貴族達の家名を告げ始めた。
バルハルムドに名を呼ばれた貴族達は、既に捕らえられていたのだろう。
手枷を嵌められ、貴族と言うには些かみすぼらしい姿で国民達の前へと引き摺り出される。
国民達の口から売国奴、粛清しろ、と野次が飛ぶ。
国民達の前に姿を現した貴族達は怯える者、怒り暴言を吐く者、沈痛な面持ちで黙り込む者等様々で、リスティアナは眉を顰めた。
長いような、だが実際は短いであろう裁きの時が終わる。
国民達はバルハルムドから語られた国を襲った危機に、ざわめきを残しながら一人また一人とその場を去って行き、傍聴席にいた他の貴族も、また腰を上げて去って行く。
「──リスティアナ、貴女学園はいつから戻るの?」
帰り際、リスティアナの友人であるコリーナがリスティアナとリオルドに視線を向けて声を掛けてくる。
「……そうね、お父様と相談するけれど……なるべく早めに学園に戻りたいわね」
「──そう」
コリーナはゆったりと嬉しそうに瞳を細めた。
「なら、早く戻って来て頂戴。貴女が居ないとつまらないから。……アイリーン嬢と、ティファ嬢と待ってるわよ。……ああ、勿論スノーケア卿、貴方も待ってるから」
「ありがとう、コリーナ」
「ええ、直ぐに戻りますよ」
コリーナの言葉に、リスティアナとリオルドは嬉しそうに瞳を細めると「また学園で」と挨拶を交わし、別れた。
◇◆◇
アロースタリーズ国を襲った、一連の事件が収束に向かい、リスティアナは久しぶりに学園の制服に袖を通した。
「──リスティアナ、本当にもう学園に戻るのか?」
王城の、腕の良い王宮医に足を診て貰ったオースティンは、義足を着けて杖を使用すれば自力で歩く事が出来るようになるまで回復した。
歩けるようになるまでに数ヶ月の時間を要してしまったが、王都に戻って来たばかりの頃、血の気が引き弱々しくなってしまっていた父親オースティンの姿はもう何処にも無い。
今では以前のように侯爵としての仕事に復帰して国王、バルハルムドの腹心として国内の貴族達の監視の目を担い、先日ウルム国へ向かった兄、オルファが国外に追放され、ウルム国に落ち延びた貴族達を監視する。
暫くしたら、ウムル国でオルファの婚姻式もあるだろう。
それには参加出来ないかもしれない、と話していたオースティンだが今の状態を見れば問題無くウルム国へと向かう事も出来そうでリスティアナはオースティンの言葉ににっこりと笑顔を浮かべて言葉を返す。
「ええ、お父様。これ以上お休みしていては授業に追い付けなくなってしまいますし」
「それは大丈夫だろう。邸でしっかりと講師を呼んで学んでいたし」
「ええ、ですが。……友人達も待っていて下さるので、登園致しますわ」
「──……わかった。大丈夫だと思うが、変な輩が居たら直ぐに私に報告するんだぞ」
「ふふ……っ、かしこまりましたお父様」
リスティアナの元には、一連の騒ぎの後、王太子であるヴィルジールとの婚約が解消された事で婚約の申し出が次から次へと舞い込んで来ていた。
すげ無く断ってはいるが、学園でリスティアナに接触して来る者もまだ居るだろう。
オースティンは、リスティアナの背後に視線を向けると、口を開く。
「──リオルド……! 学園内ではリオルドがしっかりとリスティアナを見てやっていてくれ……!」
オースティンが視線を向けた先。
そこには、リオルド・スノーケアがリスティアナと同じように久しぶりに学園の制服に身を包み、廊下を歩いて来ていた。
「ええ、勿論ですよ侯爵様。……いえ、お義父様とお呼びした方が良いですか?」
「あー……やめろやめろ。まだそんな呼び方をされたくは無い」
リオルドは楽しそうに笑うと、待っていてくれていたリスティアナの手を取り、「では行ってきます」と声を上げて見送るオースティンや、邸の使用人達に手を上げて邸を後にする。
あれから。
リオルドは、リスティアナの婚約者になると同時に、メイブルム侯爵家を継ぐ為にメイブルム侯爵家に生活の基盤を移し、昼夜当主のオースティンから指導を受けている。
リオルドは兄、マーベルをマーベルの側から支え助けるのでは無く、離れた場所ではあるが王都で、中央貴族としてタナトス領を以前のような危機に陥らせないようにオースティンから日々様々な事を学んでいる。
リスティアナは、共に同じ邸で過ごしながらもあまり一緒に居る事が出来なかったリオルドが、オースティンから様々な事を学ぶようになり、頼もしく成長している事を目の当たりにして、握られた自分の手のひらにそっと視線を落とす。
「……リスティアナ?」
リオルドが、きょとんと瞳を開きリスティアナの顔を覗き込む。
共にメイブルム侯爵邸で過ごすようになり、リオルドはリスティアナの事を甘い声音で「リスティアナ」と呼ぶようになり、そして敬語も無くなった。
どうしたの? とでも言うようにリスティアナの手をきゅう、と握り締めてくるリオルドにリスティアナは照れ笑いを浮かべながらリオルドに向かって言葉を返す。
「いいえ、なんでもないですわ……。ただ……リオルド様と婚約した事を内外に発表していないので……」
「──ああ……。断っても断ってもリスティアナに婚約の申し込みをしてくる男が減らないな……」
リスティアナの言葉に、リオルドは「面白く無い」と言うように剣呑な色を瞳に乗せてむすっ、と表情を顰める。
「リスティアナ。学園でリスティアナにしつこく話し掛けてくる男が居たら言って。──叩きのめさないと……」
リオルドの最後の方の言葉はぼそり、と呟かれた為リスティアナの耳には届かなかったが、リスティアナは幸せそうにリオルドに体を寄せると「はい」と明るく返事をした。
二人は、揃って馬車に乗り込み、久しぶりに学園に向かう。
同じ馬車から降りて来る二人を学園生達が見れば自ずと分かるだろう。
リスティアナ・メイブルムとリオルド・スノーケアが婚約した、と言う事が。
◇
数ヶ月前、愛していた人から婚約を解消して欲しいと告げられ、またその理由を聞いてリスティアナは失意の底に落とされたが、そこからまた手を差し伸べられ掬い上げてくれる人が現れるとは思わなかった。
想い、想われると言うのはこんなにも幸せな事なのだと言う事を知り、リスティアナは今日も明日も、それからこれから先もきっとリオルドへ想いを募らせ、またリオルドからも同じだけ想いを返される。
こんなに幸せでいいのかしら、とリスティアナは馬車の中で幸せそうにリオルドに寄り添ったのだった。
─終─
コメント
1件
第38話、完結おめでとうございます…! バジュラドの処刑、重かった。でもリスティアナがリオルドの胸に顔を埋めたシーンで、ああこの人にはもう全てを預けていいんだなってじんわりしました。 最後の馬車で寄り添う二人、幸せそうで良かった。ここまで連れてきてくれてありがとうございます、高瀬船さん🥀