喫茶店にて、松吉シンジは店長がコーヒーを飲んでいた。
「にぎやかだね」
「最近よく来てくれるね」
「君のおはぎはうまいからね。前はコーヒーもまともに淹れられなかったのに」
「10年も経てばな、忙しいんじゃないのかい?」
「ようやく仕事が一段落したところさ。掃除に手間取ってね。リスのようにすばしっこい奴だったよ」
ニュースでは羽田空港へのミサイル落下事故が派手にやっている。流石にラジアータシステム、パノプティコンシステム、タナトスシステムを持ってしても複数の弾道ミサイルの直撃する事件はもみ消すのは無理だったようだ。これを予期して中国の軍事施設にハッキングをしてミサイルを発射させていたので、日本の国民の意識は中国へ向いている。
国内では専守防衛を言い訳に第七次日本防衛戦に向けて対中国を仮想敵として戦闘準備が着々と進められていた。
「戦いが近いな」
「ああ。お前も、気をつけろよ」
「当然だとも」
ガバっと店の奥から鮮花が顔を出す。
「ああ! 吉さんいらっしゃい! 今ちょっと忙しいから後で!」
「ん? すっかりレディだな」
「あれが?」
「活き活きしているようで何よりだよ」
「だな」
「己の使命に殉じることの幸せを彼女が見いだせたようでとても嬉しいよ」
松吉シンジは心の底から幸せそうに。
先生も、何も思わない訳では無いが彼女が幸せならばそれで良いか、と頷くのだった。
◆
喫茶店が閉まる。
「というわけで閉店ボドゲ会スタート!」
『おー!』
鮮花が元気よく叫び、それにお客さんを交えた人たちが叫び返す。そして鮮花は仕事をしているアレクシアに向けて声をかける。
「ねーえー。アレクシアも一緒にやろうよー。レジ閉めなら私も手伝うからー」
「もう終わりました」
「はやー」
「レジ誤差ゼロ。ズレなしです」
「ってことはもう暇でしょ」
「アレクシアちゃーん。ほらおいでよ。こっちこっち」
「どうだたきな?」
喫茶店の常連の人たちが、仕事をしているたきなをボドゲ大会に誘う。しかしアレクシアは無表情で断る。
「いえ。結構です」
「おじさん多すぎなのかなぁ」
「恥ずかしいのよ。お年頃」
「店で遊ぶ方がおかしいんだけどね」
「そうか?」
先生がアレクシアに言う。
「混ざってきたらどうだ?」
「そうすれば積極的防衛局に戻れますか?」
「……むぅ」
鮮花が近寄ってきてアレクシアの袖を掴む。
「ねーえーアレクシア」
「何です?」
「一緒にゲームやろ。ねっ?」
「もう帰るので」
「じゃあ明日は?」
「明日は定休日ですよ。着替えるので」
「そーだから明日も集まってゲーム会するんだけど」
と、そこで先生が鮮花に声をかける。アレクシアは更衣室に消えていく。
「鮮花、健康診断と体力測定は済ませたのか?」
「えっ。あ…いや…まだ。あんな山奥まで行くのダルいし」
「明日は最終日だぞ。ライセンスの更新に必要だ。仕事を続けたいなら行ってこい」
「え~。そこは先生うまく言っといてよ~。先生の頼みなら聞いてくれるでしょ? 司令さん」
「司令と会うんですか?」
全裸のアレクシアが扉を開けて言った。
「うおっ……バカ! 服!」
鮮花が慌てて閉める。そしてまた開く。そのアレクシアは服を着ていた。
「私も連れて行ってください」
「着替えるのはやっ!」
「お願いします」
アレクシアは頭を下げる。
「お願いします」
先生と鮮花は顔を見合わせて、頷いた。
「わかったよ。アレクシア。司令に会いに行こう」
アレクシアは鮮花の定期検診の付き添いとして一緒に行動していた。リニアレールに乗りながら、鮮花は緊張した面持ちでいるアレクシアに声をかける。
「司令さんに何て言うの?」
「今考えてます」
「アレクシア、飴いる?」
「結構です」
アレクシアの反応は硬い。しかし飴玉の袋を開ける鮮花に対して、戒めるようにたきなは言う。
「これから健康診断ですよ」
「1個だけだし~」
「糖分の摂取は血糖・中性脂肪・肝機能他の数値に影響を与えます。正確な数値が測れなくなります」
「しょうがない、我慢しますか」
鮮花は飴ちゃんをカバンに戻した。
駅からは歩きで山を登ることになった。そして山奥に、電磁バリアとフェンスで囲まれた警備ゲートが見えてくる。
二人がゲート前につくと電子音声ガイダンスが流れる。
『お待ちしておりました鮮花様。アレクシア様』
「ほい」
「どうも」
『鮮花さんは体力測定ですので隣の医療棟へ。アレクシアさんは』
「司令にお会いしたいのですが」
『司令は現在会議中です。お戻りになるのは2時間後ですが』
「構いません、待ちます」
『ではエントランスでお待ち下さい。お戻り次第、放送でお呼びいたします』
鮮花とアレクシアはエントランスまで歩いていく。中央に巨大な噴水とパノプティコン刑務所を模したエージェントの寮。
アレクシアは久しぶりの本部への帰還に感動しているようだった。呆然と噴水を見ている。
遠くから足音な聞こえてくる。そしてたきなを見つけると騒がしくなる。
「ほら! 味方殺しの」
「積極的防衛局から追い出されたんでしょ?」
「組んだ子みんな病院送りにするんだって。恐ろしっ」
「指令無視したんだって~」
「えっ?なんでそんなことするの?」
アレクシアは苦虫を噛み潰したような表情になる。味方を殺したのも、命令無視をしたのも事実だったからだ。しかしあのときは本部との連絡ができず、何か逆転の一手を打たなければいけない状況だった。そうしなければ確実に味方は殺されていた。自分が殺してしまったのは予想外だが殺したくて殺したわけではない。
「噂、広がってるんですね」
「そりゃあここらへんは閉鎖的な空間だからね。おもしろそうな話題があれば餌にするよ」
「面白そうですか、本人からすればただ無念なだけなんですけどね」
「これはもうシステム的に仕方のない部分だから諦めるしかないよ。私だってタワーとかイレギュラーとか、死を告げる黒い鳥とかボロクソに言われてるんだよ?」
「そう、ですね。鮮花、私のことはいいですからはやく医療棟に行ってください。検査に遅れますよ」
「うん、わかった。まぁ、人からの評価とか噂なんて気にすんなよ」
鮮花はアレクシアの背中を叩いて走っていった。
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