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詩歌は彼に手を差し伸べたが、 その手が握り返されることはなかった。
彼女は彼とは違う道を歩き始めたのだ。
彼は彼女の背中を見送ることしかできなかった。
それは、彼の心に残った最後の未練であり、後悔でもあった。
彼女が去った後、 彼はどうなったのだろうか?……きっと、そのまま消えてしまったのだろう。
それが運命だと受け入れるように、 静かに目を閉じたのかもしれない。
結局のところ、彼は孤独のままなのだ。
そして、それこそが彼にとっての救いでもある。
妄想で生きることは、楽だからな。
「ねえ」
少女は言う。
「どうしてあなたは、そんな顔をしているの?」
「私は、お前を知っている」
誰かの声を聞いた気がする。
知らないはずの声なのに、知っているような気がする。
「その力があるならば、 私の願いを聞いてくれるね?」
聞き覚えのある、優しい声音。
いつも聞いていたはずなのに、思い出せない……。
まるで……忘れてしまったことを、 責められているみたいだ……。
「君が望むのであれば、 私は君の願いに応えよう」
それが、私の使命だからね。
そう告げて微笑む彼女の顔は、 まるで天使のように美しく……
その瞳は慈愛に満ちていた。
その笑みの理由がわからずに戸惑っていると、彼女は少しだけ悲しそうな顔をする。
「君はいつもそうやって……」
「え?」
聞き返す僕を無視して、彼女は言葉を続ける。
「なんでもないよ。じゃあ行こっか」
再び笑顔に戻った彼女について行きながら、僕は考える。
『いつも』ってどういうことだろう。
それに、どうしてそんなにも楽しげにしているのだろうか。
わからないことが多すぎて混乱してしまう。
ただひとつわかることは、これから先も彼女と一緒に居られるということだけだ。
それはとても嬉しいはずなのに、なぜか不安になってしまう。
きっとそれは、彼女がどこか遠い場所に行こうとしている気がしているからだ。
でも、今の僕は何もできない。
彼女に言われた通りに黙ってついていくことしかできなかった。
気がつくと、そこは見知らぬ場所だった。
今まで見たことのないような大きな建物があり、大勢の人がいる。
それだけではない。
そこには馬や牛のような動物もいたのだ。
初めて見る光景ばかりで頭が追いつかないけど、 でも、これだけは言えるよ。
ここはすごく素敵な場所だってこと。
今まで見たことのないような風景。
ここにいる人たちみんな、とても幸せそうな顔をしているね。
こんなにもたくさんの笑顔を見たのは初めてだよ。
ここにはきっと、 あたしたちの知らない大切なものがある気がする。
それが一体どんなものなのか、今は想像すらできないけれど。
いつかそれを知ることができたらいいな。
それじゃ、また会いに来るね。
バイバーイ!
「……」
お嬢ちゃん、その願いは 叶えられそうかい?……まぁいい。
いずれわかる日が来るだろうよ。