空気が変わった、なんて甘いものじゃなかった。それはある日、突然だった。
朝、いつものように教室に向かう途中、靴箱の前で私は立ち止まった。
自分のローファーが、べったりと何かで汚されていた。
見た瞬間、鼻につくような生ゴミの匂いが広がる。
凛:「……なに、これ……」
呆然とつぶやくと、すぐ後ろからクスクスと笑い声が聞こえた。
振り返ると、数人の女子が手で口を隠してこちらを見ている。
誰がやったかなんて、言われなくてもわかる。
この数週間で、私はそういう“視線の意味”を嫌というほど覚えてしまった。
葵:「凛……」
少し遅れてやってきた葵が、私の隣で小さく息をのむ。
葵:「大丈夫……?」
凛:「……うん、平気」
強がって笑ってみせる。でも、その笑顔が自分でもひどくぎこちないのがわかった。
ローファーを水道で洗いながら、心臓がどんどん冷えていく感覚だけが残る。
そして、次は教室だった。
席に座った瞬間、机の中からくしゃくしゃになった紙がいくつも落ちてきた。
拾い上げて、無意識に開いてしまう。
──気持ち悪い
──女同士でなにしてんの?
──学校に来んな
雑な字で殴り書きされたその言葉たちは、刺すように目に飛び込んできた。
葵が廊下から覗き込み、それを見て固まる。
葵:「……凛、それ……」
凛:「見なくていい」
私は慌てて紙を丸めて鞄に押し込んだ。
見られたくなかった。
こんなもの、葵にまで突きつけたくなかった。
でも、教室全体がざわついているのがわかる。
私と葵の存在が、まるで「見世物」みたいに扱われている。
笑い声。ささやき声。好奇と悪意の混じった視線。
「ねぇ、見た?」
「やっぱそうなんだ〜……」
「うわ、キモ……」
声が、はっきりと聞こえた。
誰かがわざと聞かせるように言っている。
私の胸の奥に、黒い泥みたいなものがじわじわと溜まっていく。
放課後、図書館へ向かう途中、葵がぽつりと呟いた。
葵:「……凛、私たち、なにか……悪いこと、したのかな」
その声が、やけに小さく震えていた。
私はなにも言えなかった。
否定したかった。でも、喉の奥が詰まって声が出なかった。
最終回が近づいてきました。ではまた次回。♡、コメント、フォロー、よろしくお願いします。
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